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民法私的解釈  作者: 尚文産商堂
閑話
178/1107

閑話4「物権と知的財産権」

「なんか、物権と知的財産権って似てるような気がするんだけど…」

ふと、彼女が言い出した。

「いいところに気付いたね。そう、物権と知的財産権は、法体系が似通っているんだ」

「じゃあ、なんで分けちゃったの?」

「民法を作った明治の人たちは、知的財産権のことを考慮するのを忘れてしまっていたらしいんだ。だから、民法における物権は、第2編に書かれているものになるし、他の法律に書かれているものでは、『物権とみなす』という一言が入っていることになるんだ」

[作者注:採石法第4条3項『採石権は、物権とし、地上権に関する規定(民法(明治29年法律第89号)第269条の2(地下又は空間を目的とする地上権)の規定を除く。)を準用する。』、鉱業法第12条『鉱業権は、物権とみなし、この法律に別段の定がある場合を除く外、不動産に関する規定を準用する。』、漁業法第23条『漁業権は、物権とみなし、土地に関する規定を準用する。 』など]

「じゃあ、そんな文言が入っていたら、知的財産権についても、物権が使えるように鳴るの」

「そういうことだね」

ついでなんで、知的財産権についても教えることにした。


「知的財産権というのは、どんな種類があるか分かる?」

「えっと…」

彼女は数秒考えてから、答えた。

「著作権とか、特許権とか…?」

「そう、正解。著作権については『著作権法』に種々の規定が、特許権については『特許法』の第68条『特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する』という規定があるよ」

俺は著作権法のぺ-ジを見せながら言った。

「ちなみに、『知的財産基本法』という法律があって、そこに知的財産権についての規定があるんだ。それは、第2条2項に『特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利』とされているね」

[作者注:知的財産とは、知的財産基本法第2条1項において『発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報』と規定されています。]

「実用新案権って特許権に似てるやつでしょ。意匠権、商標権も。でも、育成者権って?」

彼女が聞いてきたから、俺は六法をめくり、とあるページを見せた。

「育成者権というのは、『種苗法』に規定されている権利の一つ。第19条に『育成者権は、品種登録により発生』ということになっていて、その存続期間は、『品種登録の日から二十五年(第四条第二項に規定する品種にあっては、三十年)』とされるんだ」

「へー」

「ついでに、ここに書いてあるやつは一通りしておこうか」

俺はそれぞれの法律のページを開いた。

「特許権は、さっき言ったからパス。商標権は、商標法という規定があって、その第25条には『商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する』と規定されているんだ。これがいわゆる商標権。実用新案権は実用新案法という法律の第16条に『実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有する』とされているんだ。業としてというのは、営利目的の仕事ということだね。意匠権は、『意匠法』の第23条に『意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する』という規定があるよ」

うんうんとうなづく彼女を見ながら、俺は続ける。

「それで、この中で一番ややこしそうなのは、著作権なんだ」

そこで、彼女が聞いてきた。

「著作権って、著作者が持つ権利じゃないの?」

俺は笑いながら、著作権法を再び開けた。


「著作権という名前の権利は、実は法律上はないんだ。ただし、総称としてはあるけどね」

「どういうこと?ないけどある?」

「一つずつ見ていこうか。まず、著作権法上の著作権。第17条には『第二十一条から第二十八条までに規定する権利』を著作権と言うと書かれているんだ。同じ条文には『次条|(第18条)第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利』のことを著作人格権と言って、著作権とは厳密に別の権利として見るという規定もある」

[作者注:直前の「」において、()内は作者が付け足したものです]

「じゃあ、著作権というのは大雑把に、著作権という名前の権利と、著作人格権という名前の権利の二つあるということ?」

「そう。じゃあ、それぞれの権利を見て行こうか」


[作者注:以下、条数を記載する場合は明示が無い限り著作権法の条数です]

「著作人格権というのは、第18条に『著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利』という公表権、第19条に『著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利』としての氏名表示権、第20条に『著作物及びその題号の同一性を保持する権利』の権利としての同一性保持権があるんだ」

「変名?」

「ペンネームのことだよ。第14条に『雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの』を変名というと規定されているんだ。実名として『氏名若しくは名称』を使うこともできるよ。この実名や変名を使うことによって『著作物の著作者と推定』されるんだ」

「じゃあ、私も変名って使えるんだ」

「著作物を公開する時には、もちろんね」

俺はそこまで話してから、本筋へ戻った。


「さて、著作権については、著作者が専有している権利のことだね。第21条の『著作物を複製する権利』としての複製権、第22条の『著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利』としての上演権及び演奏権、第22条の2の『著作物を公に上映する権利』としての上映権、第23条の『著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利』及び同条2項の『公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利』としての公衆送信権等、第24条の『その言語の著作物を公に口述する権利』としての口述権、第25条の『美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利』としての展示権、第26条の『映画の著作物をその複製物により頒布する権利』及び同条2項の『映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利』としての頒布権、第26条の2の『著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利』としての譲渡権、第26条の3の『著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利』としての貸与権、第27条の『著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利』としての翻訳権、翻案権等。それに第28条の『二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利』の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利があるよ」

「え…っと、いっぱいあるんだね」

「一言で片づけるとね」

俺はそう言って、いったん六法を閉じた。


国際法の辞典をもってきて、ついでに教えようとしたことを、彼女に言った。

「知的財産権については、いろんな国際条約があって、1883年にパリで結ばれた『工業所有権の保護に関するパリ条約』や『世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書1c』たる『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定』などがあるね。他にも著作権について定めた1886年作成の『文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約』や1952年採択の『万国著作権条約』などがあるよ。それら、知的財産権を保護するために設けられた国際組織が、『世界知的所有権機関』なんだ。詳しくは、国際法の先生に聞いて」

「分かった」

彼女がそう言ってから、俺はコップ一杯のお茶を飲み干し、注いでから民法の続きを始めた。

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