第一話 ヒーローに憧れる宝石が必殺技を叫ぶ時が来た
やあ、こんにちは。
僕はイエローダイヤモンド。数多の宝石の中の一つさ。
僕は今プラチナの指輪に嵌められ、人間の指を美しく飾っている最中だ。
持ち主の彼女は、僕をとても大切にしてくれる。一緒に戦隊ヒーローの動画を視聴したり、お花見やお月見をしたり、色々なことを経験させてくれて毎日が楽しい。
今日はポカポカ陽気の公園を、のんびり散歩中だ。
明るく落ち着いた雰囲気のこの場所は、彼女のお気に入りなんだよね。
そんなことを考えながら、僕も清々しい風を心地よく受けていた時。
――不意に、ぞわりと空気が濁って歪んだ。
『何だ、あれは…!?』
彼女は気づいていない。人間には分からないのだろうと即座に察する。
でも、僕には見えたのだ。どす黒いモヤモヤした霧のような塊が。
そしてあろうことか、そのモヤは僕の持ち主の彼女に近づいてくる。
これは危険なモノだ、と本能が叫ぶ。
彼女に触れさせてはいけない。
そう感じた僕は咄嗟に、彼女を背に庇ってヒーローのような攻撃ポーズをとっていた。彼女の影響ですっかりヒーロー好きになった僕は、もし自分がヒーローだったら…という必殺技を常々空想していたのである。
「シャイニング・イエローダイヤモンド!!」
すると何と僕の手からは眩しい光線が放たれ、一直線にモヤを飲み込んで消滅させた。
再び公園は穏やかな空間に戻る。とはいえ、異変が起きたことを知っているのは僕だけのようだけれど。
「……ん?」
しかし、そうして安堵したのも束の間。
何だか、視界がおかしい。持ち主の彼女を見下ろせているのだ。僕は今、彼女の指に嵌まっているはずなのに。
そういえばさっき、『手』から光線が出たような。そう思いながら俯くと、目の前には自分の両手が見える。しかも、思い通りに動かせた。その視界の奥には、足もある。
「…これって人間??」
《察しがよくて助かるな。イエローダイヤモンドよ、私は月である》
「えっ、は? 何??」
どこからともなく声がして周囲を見回すが、それらしき発生源はいない。
《月だ》
「あっ、ハイ」
そう言われてちらりと空を見上げれば、夕暮れでもないのに白い月が見えた。
《そなたは私の加護により、人間の姿を得た。今は人間の目には映っていないが、慣れれば自らの意思で触れたり、言葉を交わすこともできよう》
それを聞いて僕は漸く、持ち主の彼女がこちらに全く気づいていないことを知る。
《先程のモヤは、瘴気と呼ばれるネガティブエネルギーの塊だ。意思は無いが、放っておくと害になる。イエローダイヤモンド、そなたに瘴気の駆除を頼みたい》
「……それはつまり、僕が選ばれたヒーローだということですか!?」
《その通りだ。今後、仲間も増えていく。地球を救ってくれるか、イエローダイヤモンドよ》
月の言葉に、僕はこれまでにない高揚感を覚えていた。
憧れのヒーローに、なれる。
「勿論です、お月様!」
《呼び方……いや、まあいい。では宜しく頼むぞ》
そうして僕の、月護宝石隊ツキモリジェムズとしてのヒーロー生活が、ついに幕を開けたのだった。
―第一話 おわり―




