ウミガメの鳴き声
中学生の頃、家がBSとかCSとか、そういうのに加入している子が居て、その子の家でよくディスカバリーチャンネルを見ていた。
好きだったのは『ミスバスターズ』だ。
おっさん達と時々きれいな女の人が、「水上を走れるか」「ミッキーマウスの蒸気船を再現」とか、とんでもなく阿呆な事を莫大な予算をもってして、大規模かつ真剣に科学的に検証するのがとにかくおもしろかった。
ある日の事、同級生のAが「自分も見てみたい」と言ってその子の家に来た。
その日の上映会で見たのは「映画やドラマで出てくるガンアクションの検証」だった。
『冒険野郎マクガイバー』で、マクガイバーが檻に閉じ込められた男の子を助けるために、銃弾から火薬を取り出し、その上に銃床を叩きつけ、火花で南京錠を開けるシーンがある。
鍵を撃ったら普通に開いたのは笑った。
銃を持ってひたすら机を叩き続ける映像もシュールすぎてみんなで笑った。
問題はその後起きた。
射撃訓練場で実銃を撃つシーンで、軍人のような人がハンドガンを撃った瞬間、Aがビクッとして硬直した。
最初は音に驚いたのだと思った。
からかってやろうと横を見ると、こわばって蒼白になったAの表情に何も言えなくなってしまった。
その後、サイレンサーを装着した銃の射撃映像が続いた。映画では「ピシュッ」みたいな音がするのに、本当の音は全然違って、だいぶ大きな音がした。
爆発する音だ。
銃って思っていたよりもずっとうるさいんだな、と思いながらもう一度Aを見ると、今にも気を失いそうなぐらい具合が悪そうで、まわりのみんなも心配しだした。
ひとりで帰ろうとするAが心配で、家の方向が近い何人かでAを送った。
Aは不思議な事を言った。
「ウミガメのスープを飲んだ人は、きっとこんな気持ちだったんだと思う」
10年後、仕事先でたまたまBに出会った。Aと同地区出身の同級生だ。
Aについて聞くと、Bは表情を曇らせた。
「子供の頃、変なルールがあった。
ポストに回覧板があったらすぐに持ってこないといけない。でも絶対に中身を見たらいけないんだ。
一度、うっかり落とした回覧板が開いて、中が見えた事がある。
名前がびっしり書いてあった。名前の横には数字が書いてあった。
すぐに閉じたから全員の名前は見ていないけど、知ってる人が何人か居た。
近所に住んでる酒飲みのおっさんとか、名前だけ知ってる、三軒隣の、徘徊癖のあるおばあさんとか。
なんでかは分からないけど、見なきゃよかったって思った。
実家のあったところではさ、年に一回だったり、月に一回だったり、本当に気が付くといつの間にか、って言う感じで、いつとはっきりは決まってはいないんだけど、夜になると、ドォンとか、バァンみたいな音が、何回か鳴る事があった。
母親は、近所の悪ガキが爆竹で遊んでる音だって言ってた。
子どもってさあ、ぜんぜん、大人が思うほどには、バカじゃないじゃん。なんか、よくわからないけど、今でも全然わからないけど、
とにかくめちゃくちゃバイトして、家出て、家族とは音信不通。Aの事も知らない」
Aはうつむいて、「あの地区で子どもなんて、俺とAぐらいだったのにな」とつぶやいた。
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