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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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次の日をホテルで迎えた俺は、窓から差し込む朝日で目を覚ました。


社長からの連絡は早かった。

わざわざ車で迎えに来てくれるらしい。

ホテルのロビーで待っていると、黒い大型車が正面に横付けされた。

運転席から社長が片手を上げる。


俺は助手席に乗り込んだ。


新栄の管理所へパーティー登録をしに向かう。

車が走り出すと、ややあって社長が口を開いた。


「俺は今のチームに、何一つとして不満がねぇ」


俺はそのまま黙って聞いた。

社長の声は穏やかだが、一言一言に重みがあった。


「水龍は言わずもがな最強だし、捻れは天才だ。ヒナはこの前のダンジョンで何も出来なかったと沈んでいたが、蓋を開けてみれば第六階位に最初にタッチしたのはあいつだった」


助手席に座る俺を一瞥もせずに、社長はフロントガラスの向こうだけを見て続ける。


「俺の目に狂いはなかったんだ」


信号が赤に変わり、車が止まった。


「要石は、アキ。お前が入ることで完成すると思ってる」


「俺は、連携とかやったことないですよ」


「そういうことじゃねーよ」

社長は笑って続けた。


「お前は異質なんだ。ヒナとはまた違う。ダークホース。お前に助けられた俺達は、全員お前を評価してる」


信号が青に変わり、車がゆっくりと動き出す。


「大歓迎するぞ、要石へ」


そう言われると照れ臭くなって下を向いてしまった。

「頑張ります」とだけ小さく言うと、社長はまた気さくに笑った。


その後はたわいもない会話が続いた。

要石で遠距離魔法を高精度で使える捻れは、水龍とヒナに毎回引っ張りだこでアキが入ることで組み合わせの選択肢が増えると社長は言っていた。


「捻れはお前が入るのを一番喜ぶんじゃないか? あいつ、お前のこと結構気にしてたようだぞ」


そうこうしているうちに、管理所に到着した。


車を降りると、入り口に立つ人影が目に入った。

ピンクの髪。黒い眼帯。

ヒナだった。

管理所の入り口の柱に寄りかかるようにして立っており、俺たちを見つけると片手を上げた。


「管理所の隣にある病院で、最後の定期検診があったからな。帰りについでに乗せてく」


社長はそう説明して車を降りた。


俺が社長に続いて車を降りると、先にヒナが話しかけてきた。


「ウチに入ったんだって? よろしく〜」

軽い調子だった。


「よろしくお願いします」


俺がそう返すと、ヒナは眼帯のない方の目を細めて笑った。


ヒナを連れ立って管理所へ入る。


パーティー登録の手続きは意外と簡単だった。

難しそうな書類は全て社長が処理してくれたので、俺は内容を確認していくつかサインしただけで済んだ。

社長はこういう事務仕事にも慣れており、経験の厚さが、こういう場面にも表れていた。


担当してくれた管理所の女性職員が、申請の手続きに一区切りついたタイミングで切り出した。


「要石に指名依頼が来ています」

社長の表情が僅かに変わった。


「指名依頼〜? 今日は駄目だ。俺がこの後仕事が溜まってるからな」


ぴしゃりと断る。


しかし、女性は口を閉じなかった。

手元の端末から目を離さないまま、淡々と続ける。


「指名元は旭技巧です。会社敷地内で未確認のダンジョンが発生しています。旭技巧連が既に四名突入して、一名が逃げ帰ってきました」


「――おい、森野ちゃんよぉ」


社長が低い声を出す、森野と呼ばれた女性に。


「そう言ったら俺達が毎回動いてくれると思ってんじゃねーだろーな」


脅しつけるような声だったが、当の森野は飄々とした顔で受け流していた。


「死人が既に出ているのか?」

俺が口を挟んだ。


「はい」


森野は淡々と答えた。

四名突入して一名帰還。残りの三名の安否は不明。

だが「死人が出ている」と断言したということは、帰還した一名がそう証言しているのだろう。


旭技巧は大企業だ。

自らの名前を冠した探索者集団を持つほどの規模と資金力がある。

しかし、武闘派ではない。

研究開発を主とした企業であり、未知のダンジョンに対応できる戦闘力は限られている。


そして「未確認のダンジョン」という言葉が、俺の中の何かを引っ掛けた。


未確認。

まだ誰も全容を把握していないダンジョン。

それがどれほどの規模で、どんな魔物がいて、何が待っているのか、誰にも分からない。


「あの旭技巧に恩を売れますし、自分一人でもいいですよ」


口をついて出た言葉だった。

未知のダンジョンという響きに、体が反応してしまっている。

既に死人が出ている危険なダンジョンだが、一名が逃げ帰れているのであれば、最悪の場合でも帰還は可能だと判断した。


「いいジャン! 私も行く!」


食いついたのは隣のヒナだった。

目を輝かせている。先ほどまでの気だるそうな雰囲気が消え失せ、眼帯の奥の金色の目までもが光っているように見えた。


社長が大きくため息を吐いた。


「この二人は組ませちゃ駄目かもわからん」


その言葉には諦めの色が既に滲んでいた。


「未知ということはAランクダンジョンかもしれんぞ。心しろよ」


最後に折れたのは社長だった。

とはいえ社長は保護者ではない。自分の仕事が溜まっているのは事実で、今日ばかりは同行できないらしい。

捻れと水龍は別件のダンジョンを攻略中で、連絡もつかない。


結果として、ヒナとアキの二人で向かうことになった。

要石に加入して初日の初仕事が、未確認ダンジョンの攻略だ。

なかなかの船出だと思った。


「森野ちゃん! どこ行けばいい?」


ヒナが勢いよく森野に詰め寄ると、森野は無表情のまま住所が記載された紙を差し出した。


「お気をつけて」


事務的な声だったが、紙を渡す手が僅かに止まっていた。

森野なりの心配なのかもしれない。


俺たちは管理所を出て、ヒナと共に指定された住所へ向かった。


ダンジョンがどのように発生するかは、未だ解明されていない。

三十年前に最初のダンジョンが出現して以来、世界中の研究者がそのメカニズムを追究しているが、確たる理論は存在しない。

いつ、どこに現れるかも予測できないのが現状だ。


指定された住所に到着すると、既に警官が周囲を包囲していた。


一棟のオフィスビル。

旭技巧の関連施設だろうか。ガラス張りの外観は比較的新しく、五階建ての中規模のビルだ。

そのビルの二階にダンジョンのゲートが出現したらしい。


周囲にはパトカーが数台停まっており、黄色い規制線が張られていた。

野次馬も集まり始めているが、警官が近づけないよう制止している。


管理証を見せるとすんなりと規制線の内側へ通された。

ビルの入り口を潜り、階段を上がって二階へ。


「こんにちは」


二階のフロアに足を踏み入れると、耳あたりの良い男性の声が迎えた。


振り返った先に立っていたのは、顔立ちが整った男性だった。

髪を整髪料で丁寧に撫でつけ、仕立てのいいスーツを着ている。

管理所の人間でも警察でもない。企業の人間だ。


()()()()()


俺はそう言った。

だが、この男性を知っていた。


ロレーヌのダンジョンにて、死んだ旭技巧連が身につけていた人造遺物。

映像を記録するピアスの遺物に、この男の姿が映っていた。

旭技巧連の三人をあのダンジョンへ送り込んだ人物。


「初めまして、旭技巧の旭 場時(あさひ ばじ)と言います」


男性は柔和な笑顔でそう名乗った。


「助けてくれてありがとう。自分たちだけではどうにもならなくてね」


俺は表情を変えずに頷いた。


「案内をお願いします」


場時に先導されて、ビルの二階の奥へと向かう。

オフィスのフロアを抜けた先、会議室だったと思われる部屋の中央に、ダンジョンのゲートが浮かんでいた。


空間に浮かぶ黒い渦。

見慣れた光景ではあるが、オフィスビルの会議室にあるという違和感が強い。

ホワイトボードとプロジェクターの間に、異界への入り口が口を開けている。



「中の情報は?」


「帰還した者の証言では、浮島型のダンジョンだったそうです。入ってすぐに魔物に襲われ、散り散りになったと」


俺はヒナに目を向けた。

ヒナは既にゲートの前に立っており、黒い渦を覗き込むようにしている。

眼帯の下の金色の目が、ゲートの向こう側を見通そうとしているのかもしれない。


「行きましょう」


俺がそう言うと、ヒナは振り返って笑った。


「言われなくても」


俺たちはゲートへと足を踏み入れた。










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