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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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戦闘は終わった。


簒奪者を回収すると、黒い薔薇の花びらが風に攫われて暗黒街の廃墟の間へ散っていく。

666秒の制限には余裕があったが、用が済んだなら長く出しておく理由もない。


そのあと青木は煌鬼に何を見せたのかはわからないが、すんなりと資料室や保管庫などを案内させて中を改めさせた。

幻覚の中で煌鬼が何を体験しているのか、俺には知る術がない。

ただ、煌鬼の目は完全に焦点を失っており、青木の言葉に操り人形のように従っている。


「ここには何もなかった」


青木はそうぽつりと言うと、最後の部屋から出てきた。

覗いてみると、何に使うのかわからない器具やガラクタが雑然と置かれているだけで、確かにめぼしいものは見当たらない。


「転移の遺物がなくなっているな」


俺は青木に確認するように言った。


探しているのは、家長からの情報にあった遺物だ。

このアジトへ他のダンジョンからもアクセスできるという、常識外の転移遺物。

煌矢が二百人規模の人間をダンジョン内に潜伏させ続けられた根幹にある遺物のはずだが、どこにもなかった。

襲撃の混乱に乗じて持ち出されたか、あるいは最初からここには置かれていなかったか。


「この件は引き続き俺が調査しよう」


青木は俺を見据えてそう言った。

管理所の仕事はまだ続くということだ。


面倒なことが嫌な俺は、さっさとそこで思考を打ち切った。

ダンジョンの攻略が依頼であり、それは終わった。あとは青木と家長の領分だ。


煌鬼を抱えた青木を連れ立って、ダンジョンから帰還する。

アジトに残った人間は全て青木の幻覚により脱出不能になっているため、後続の管理所部隊に任せるようだ。


教会にいた信者たちは騎士団がイバラで拘束しており、全体的には死者は思ったよりも出ていないだろう。



俺は帰還した管理所で、両腕を上げて大きく伸びをした。

体の節々が鳴る。緊張が解けると一気に疲労が押し寄せてくる。


「お疲れさん」


青木がコーヒーを持ってきた。

受け取って一口飲む。缶コーヒーの安っぽい甘さが、今はやけにうまかった。


「これからどうすんだ?」


「要石ってパーティーから呼ばれてるから、とりあえず一旦そっちにいくかな」


「要石は有名だな。この前のAランクダンジョンから知り合ったのか? 良かったな」


青木は缶コーヒーを啜りながらそう言うと、軽く手を振った。


「あとは俺と家長で処理しとくよ」


素直に助かると言い残して、管理所を出た。



来る時は青木が車を出してくれていたが、帰りは一人だ。

通りでタクシーを拾い、要石が指定した店の住所を告げた。

まだ夕方。現地までは距離がある。

俺はシートに体を預け、そのまま眠りに落ちた。






「えぇ! 管理証から払えないんです!?」


目が覚めたのは、タクシーが目的地に着いた時だった。

結構な時間をかけて走ったらしく、メーターの金額が中々のものになっている。


支払いは管理証経由で済ませるつもりだった。

探索者の管理証は決済機能も兼ねており、俺の生活圏内なら使えない店はスーパーを含めてほぼ存在しない。

もはや現金どころか財布すら持ち歩いていなかった。


「そう言われてもねぇ、こちらもここまで来たのに困りますよ」


運転手の声に苛立ちが滲んでいる。

俺が逆の立場でも同じ反応をするだろう。

遠方まで走らせた挙句に「払えません」は流石にまずい。


「なーに、揉めてんだ」


横から声が聞こえた。

振り向くと、要石の四人が揃って立っていた。

全員が私服だったが、それでも存在感が異常だ。

水龍の体格だけで道行く人間が道を空けている。


助かった。

ここ最近で一番安堵した瞬間かもしれない。



社長にタクシー代をご馳走になり、そのまま予約を取っていたという個室付きの焼肉店へ入った。


個室は広く、中央に大きなテーブルが据えられている。

網の上で焼かれる肉が音を立て、煙が換気口に吸い込まれていく。


焼き台は二つあり、水龍と片目に眼帯をつけたヒナが向かい合うようにして座っていた。

二人は会話もそこそこに、競うような速度で肉を焼いては口に運んでいく。

水龍が分厚いハラミを一枚丸ごと頬張ると、ヒナが負けじとカルビを二枚同時に網に載せる。


俺と社長と捻れは、その光景を眺めながらゆっくりと肉を焼いて食べた。

捻れはフードを被ったまま黙々と食べている。焼肉屋でもフードは外さないらしい。


肉はとんでもなく美味かった。

ダンジョンに潜り続けていると、まともな食事のありがたみが身に沁みる。


「で、そろそろ本題に入ろうか」


社長がそう言って、一つの腕時計をテーブルに置いた。

時計の文字盤が淡く光り、魔法が起動する。


「防音の魔法だ。声が外に漏れないようにしている」


水龍とヒナも箸を止めた。


「俺達と来い、アキ。間もなく俺達は本気で動くぜ」


要石への勧誘。これで二度目だ。

ロレーヌのダンジョンから帰還した時にも社長に誘われており、あの時は断っている。


「その話は――」


すぐに言葉を出そうとしたが、社長に片手で制された。


「あぁ、待った待った。返事は今すぐじゃなくていいから」


社長は慌てたようにそう言うと、表情を改めて続けた。


「ところで第六階位に会ったことはあるか?」


俺は考え込んだ。

答えは「ない」だ。

だがその質問の真意を探ってしまい、少し黙り込んでしまう。


「無いだろう」


横から水龍が口を挟んだ。断定だった。


「何故無いか分かるか?」


社長がそう問いかけるが、俺はすぐにわからないと答えた。

少し笑って、社長は続けた。


「答えは、第六階位が本当は()()()からだ」


「居ない、とは」


「文字通り、居ないのだ。最低でもこの日本にはな」


俺の思考を先回りするかのように、社長は言葉を重ねた。


「ダンジョンの中にもだぞ」


言われてみれば、メディアに露出するのは全て第五階位の探索者ばかりだ。

紅蓮人などはAランクダンジョンの踏破を幾度も重ねているが、未だ第五階位のまま上がっていなかった。


俺の知識にある第六階位の探索者は、全て情報でしか見聞きしていない。

SNSやソーシャルメディアを通した噂の類だ。

実際に会ったことはない。その存在を自分の目で確認したことが一度もない。


「条件が存在する?」


俺が考え込み、口に出した言葉を聞いて社長は嬉しそうに手を叩いた。


「ビンゴ!」


だがすぐに、社長は先ほどの言葉を否定した。


「さっき、この日本に第六階位は居ないと言ったが、ありゃ嘘だ」


悪戯が成功したような笑顔で笑いかける。


俺の両肩に、後ろから手が置かれた。

その手は、俺の身体能力ではどう抗っても払い除けることができない圧倒的な膂力を帯びていた。

指先から伝わる力の質が、今までに触れたどの人間とも異なっている。


手が退き、耳元で声がした。


「わたしが、その第六階位」


黒い眼帯をしたヒナが、俺の背後に立っていた。

いつの間に席を立って回り込んでいたのか、全く気配を感じなかった。


俺が驚いている間に、ヒナは何事もなかったかのように自分の席へ戻り、カルビを網に載せ始めた。


社長が続ける。


「俺達はAランクダンジョンをこれまで計四回踏破した事がある。結局ダンジョンの難易度なんて、管理所が決める事だ。今までと何が違うのだろうかと考えて、答えに至った」


水龍が横から口を挟む。

「ロレーヌのダンジョンでは、死者が出るとその身につけた遺物の効果がなくなる。これは俺が過去に一人で踏破したAランクダンジョンにも共通していた事だ」


社長がそこで答えを出した。


「遺物の効果が無くなるダンジョン。それは特別なダンジョンなのではないか、と俺たちは考えている。ヒナに宿ったロレーヌの目のように、何かをもたらす特別な場所だ」


社長は再度、俺に真っ直ぐ目を向けて口を開いた。


「アキ、もう一度言う。俺達のパーティーへ来い。俺達はこれから全員が第六階位を目指すために、全国のAランクダンジョンを周る予定だ」


一拍置いて、社長は付け加えた。


「返事は後日でいい」



その日、席を立つ前に、水龍が俺の方を見た。


「あと、メルトアの森には気をつけろ。あそこは謎が多い」

メルトアの森は、現在ミル一人になってしまっている。

水龍の言葉の真意が掴めぬまま、そのまま要石とは別れた。



帰り道、一人になって考える。


要石は良い人達だ。実力もある。

あのパーティーに入れば、間違いなくより高い場所に行ける。


だけど、俺がパーティーに溶け込むビジョンが見えなかった。

俺はコミュニケーションが苦手な方だ。

一人でダンジョンに潜り、一人で考え、一人で戦う。

だから探索者が性に合っていると思っている。


ソロが好きなのではなく、ソロしかできないのだ。

それは自分が一番よくわかっている。

だから今回は――。


そんな時に、ポケットのスマホが震えた。

画面を見ると、青木からの着信だった。


「なんだ?」


電話口の青木に問いかける。


「あぁ、すまんなアキ。――俺はさ、お前の事を尊敬してるんだ」


「はぁ? なんだよそれ、キモいぞいきなり」


「まぁ待て、聞けよ。昔の知り合いにそっくりなんだよ、お前のそのダンジョンへの狂い方がよ」


俺は黙った。

青木の声の温度が、今までと違っていた。

軽口でも挑発でもない、静かな声だった。


「一度は道を外しかけたが、俺を助けてくれて感謝している。まず、謝る事がある。すまない……。俺はお前に遺物の効果を誤認させていた」


「意味がわからん、要件はなんだよ?」


「――要石に入れ。そして旭技巧には()()()()


そう言って、青木は電話を切った。


なんだよ、青木のやつは。

俺は一人ごちる。


俺はそのまま、スマホの画面を操作した。

要石の社長の番号を呼び出す。


コールが三回鳴って、繋がった。


「おぉ、アキどした?」


「お疲れ様です。いきなりですけどさっきの話、受けてもいいですか?」


電話口の向こうで、社長が一瞬絶句した後、大きな笑い声が響いた。






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― 新着の感想 ―
青木の遺物は幻覚じゃなくて洗脳とかもっと直接的に操る感じなんですかね しかしこれこの先洗脳状態解除された時には青木の命はないよなぁって思っちゃいますね アキはこういうの一等嫌うだろうし
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