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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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このまま着水すれば大怪我では済まない高度だった。


俺は落下しながらゴアデビルを召喚し、体を持ち上げてもらう。

ゴアデビルには翼がある。広げれば飛翔が可能で、その速度は以前の黒馬に匹敵するほどだが、一度も翼をはためかせている所を見たことがない。

あの翼は魔法を使うための条件であって、飛翔そのものには関与していないらしい。


何が言いたいかというと、ゴアデビルに担がれて空を飛ぶことはできないということだ。


ゴアデビルに捕まえられた状態のまま、落下速度だけが緩やかになっていく。

俺はロレーヌが墜ちた孤島の方角へと降下を続けた。


水が引いた島は、先ほどまでの城砦跡地とは様変わりしていた。

瓦礫の大半が波にさらわれ、残ったのは剥き出しの岩盤と、その中央に穿たれた巨大なクレーター。


クレーターの底に、ロレーヌがいた。


未だ実体化が解けていない水龍の槍が胴体を貫通し、地面に縫い付けている。

双頭の竜の口から絶え間なく血が溢れ出し、クレーターの底に赤い水溜まりを広げていた。


「よぉ、ここまでやってまだ生きてるのかよ」


俺が声をかけても、反応は薄い。

双頭の首がわずかに痙攣するように震えているだけで、先ほどまでの威圧感は欠片もなかった。


回り込んで正面に立ち、目を合わせる。

その瞬間、黒い鱗が剥がれ落ちるようにして竜の姿が縮んでいった。

見慣れた少女の姿に戻ったロレーヌが、槍に胸を貫かれたまま俺を見上げている。


「助けて、お願い」


口から血を吐きながら、細い両手を合わせて俺に懇願する。

その声は今まで聞いたどの言葉よりも弱々しく、子供が親に縋りつくような悲痛さがあった。



「嘘つけ、お前、まだ秘密を残してるだろうが」


返答はない。

ただ子供のように、痛い、痛いと泣いている。

涙と血が混じって顎の先から滴り落ちていた。


「俺たちがルールに縛られているように、お前もルールに縛られている」


俺は泣き続けるロレーヌへ問いかけながら、警戒を崩さず歩を進めた。


「例えば、この島でお前が直接殺せる人間には順序が存在する……とかな」


それを聞いても反応は薄かった。

だが、俺の中では既に確信に近いものがある。


こいつの悪辣な性格なら拷問は喜んでするだろう。

しかしそれにしても想定を上回るほどの強さを持ちながら、結局のところ誰一人として致命傷を与えていない。


こいつは確かに俺を初めに殺すと宣言していたが、その執着だけではたして他の人間を殺さないだろうか。


「まぁでも、これはそこまで重要じゃない」


俺は一度間を置いてから続けた。


「俺が秘密だと言ったのはこれじゃない」


黒薔薇の守護者を召喚する。

虚空から顕現した巨大な拳にイバラが何重にも巻き付き、凶悪な形状を作り上げていく。


俺は躊躇なく命じた。


守護者の拳がロレーヌの頭部へ叩き込まれる。

黒薔薇の花びらが舞い散り、鈍い衝撃音と共にロレーヌの頭から血が噴き出した。

だが、流れたのは血だけだった。

頭蓋は砕けていない。肉も抉れていない。

あれだけの一撃を受けて、出血だけで済んでいる。


「痛い、助けて、痛いよう」


泣きながらそう言ってはいるが、仕留めきれていない。

黒硝子玉は二つとも砕いた。物理攻撃も魔法も通じるようになったはずだ。

にもかかわらず、致命傷には至らない。


「やはり、不死身か。お前」


俺が断言すると、ロレーヌの泣き声が一瞬途切れた。


「お前は一つ、誤解を残しているだろ? この第三の島のボスは()()()()()()


ロレーヌが初めて口を閉じた。

泣き声も、痛いという訴えも、全てが止まった。


沈黙がクレーターの底を満たす。


ロレーヌはこのダンジョンで終始、自分があたかもこの島のボスであるかのように振る舞っていた。

だが、これまで一度たりとも「自分が第三の島のボスだ」とは明言していない。

性悪の嘘つき女が。


第三の島のボスは別に存在している。

第一の島のボスを倒して物理攻撃が通るようになった。第二の島のボスを倒して魔法が通るようになった。

ならば第三の島のボスを倒せば、三つ目の弱体化条件が成立する。


「俺が悠長に喋ってた理由を教えてやろう」

俺はロレーヌを見下ろしながら言った。


「たった今、水龍が余波で殺し、海底に沈んでいた遺物を見つけた」


その一言で、ロレーヌの顔から全ての仮面が剥がれ落ちた。


俺は既に海中へ宝食ワニを放っており、ロレーヌと話している間、ずっと海底を探らせ続けていた。


最後の島のボスは海中に隠されていた。

それがどれほど強力なボスだったかは知らないがロレーヌと水龍の戦闘の余波に巻き込まれて死んだのだろう。


だが、死んでもロレーヌにとっては都合が良かったはずだ。遺物さえ見つからなければ、三つ目の条件は永遠に成立しないのだから。


海底に沈んだ遺物を、誰にも見つけられないまま終わるはずだった。


「お前は! 全て! 壊していく!!! 何度もだァ!」


少女の姿のまま、ロレーヌが吠えた。

血を吐きながら、槍に縫い付けられたまま、それでも目だけは憎悪で燃え上がっている。

泣いていた顔はどこにもない。そこにあるのは、計画を根底から覆された怪物の素顔だった。


俺は勝ち誇った顔のまま返してやる。

「それがダンジョンに潜る探索者って生き物だろ?」


遠くの海中で、宝食ワニが遺物を砕いた感覚が伝わってきた。

三つ目の条件が、成立する。


ロレーヌの不死性が消えていく。

「本当にじゃあな、さっさとみんなを治療してもらわないといけないからな」


俺は傍らに立つ守護者にトドメを命じた。

イバラに覆われた右腕が、大きく引き絞られる。


「たまたま生き残っただけだ! 次はないぞ!」


ロレーヌが言葉を叫んだ。

憎悪と、恐怖と、それ以外の何かが混じった声。


「次がないのはお前だよ、馬鹿が」


振り下ろされた拳が、ロレーヌの体を潰した。

先ほど殴った時とは明らかに違う音。硬い殻が砕けるような、取り返しのつかない破壊の音。


「助けて……」


体の半分以上が潰れた状態から、最後に振り絞られた声だった。

かすれて、途切れて、消えかけている。


「魔物が人間の真似をするな」


俺はそう言って、守護者に最後の半身も潰させた。


縫い付けていた槍はいつの間にか消えていた。

ロレーヌの遺体も残っていない。

代わりにクレーターの底に転がっていたのは、黒く大きな魔石だった。


俺はそれを拾い上げ、皆の元へと合流した。



二度目のAランクダンジョン踏破。


俺たちは社長の長刀の遺物で傷の全てを治療された後、孤島に大きく開いた帰還用のゲートを潜った。


出迎えたのは家長と、複数人の管理所の人間。

管理所はツアーをスタートする前にロレーヌからルールを聞いており、おおよその終了時間を把握していたらしい。


家長は俺たちの帰還を信じて待ち続けていた。

一度閉じたゲートが再び出現したことで、踏破を確信して待ち構えていたようだ。


色々と手続きがあるらしかったが、家長の計らいで全員その日は帰ることになった。


要石が予約していたホテルに俺も一室泊まらせてもらい、ミルもせっかくだからと一室取った。

階ごと予約していたらしい。金回りの良いパーティーである。


俺たちはホテルのレストランで食事をかき込んだ。

客船ではロレーヌばかり豪華な食事をしていたが、その食事を警戒して俺たちは持ち込んだ保存食しか口にしていなかった。

水龍などはありえない量を注文しており、テーブルの上が皿で埋まっており、彼は黙々と肉を口に運び続けていた。


勝利の宴ではあったが、誰も羽目を外しすぎることはなかった。

死線を越えた直後の高揚と、まだ体に残る疲労が混じり合って、自然と穏やかな空気になっていたように思える。


ヒナの抉り取られた目玉だけは再生しなかった。

社長の遺物で指の欠損も耳も全て治ったのに、右目だけが空洞のまま戻らない。

ヒナは眼帯をつけることにしたらしく、食事中も気にした素振りは見せなかったが、俺は気になって軽く尋ねた。


「指の欠損は治せて、目玉が治せないのはおかしくないですか?」


社長も不思議そうに首を傾げたが、原因はすぐに判明した。


ヒナが違和感を感じて眼帯を外すと、先ほどまで空洞だった眼窩に目玉が存在していた。

元の目とは色が違う。虹彩が薄い金色に光を帯びており、瞳孔の形も微妙に人間のそれとは異なっている。


情報が流れ込んできたらしく、ヒナは驚いた顔でその目を手で覆った。

――遺物になっていた。


ヒナ曰く「ロレーヌの呪いだ」と渋い顔をしていたが、隣で静かに食事をしていた捻れが「魔眼か、いいな」とぼそりと漏らした。

それを聞いたヒナの機嫌は、ほんの少しだけ直っていた。









後日。

俺は諸々の手続きを全て面倒くさがり、家長に丸投げした。

家長のオフィスで書類を片付ける彼の背中を眺めながら、俺は椅子の背もたれに体を預けて問いかける。


「結局さ、家長さんの企みはなんなの?」


「……出世ですよ」


手元のパソコンから目を離さず、家長は淡々と答えた。


「ふーん」


出世。

それだけなら単純な話だが、この男の場合は額面通りに受け取れない。


「出世したらやりたい事がある感じね」


俺がそう言うと、家長はキーボードを打つ手を止めて苦笑いを返した。

肯定とも否定とも取れない、曖昧な笑み。


家長の考えがイマイチ読めない。

だが、この男には何かある。


今回それを感じたのは俺ではなく、水龍の勘だった。


まぁ、今すぐどうこうする話ではない。


「敵でも味方でもいいですよ。()()()ダンジョンを教えてくれるならさー」


「ヤバ……。わかりました、今後ともよろしくお願いします。味方である事は誓えますよ」


家長は呆れたような、安堵したような、複雑な顔で笑っていた。


だが、正直なところ俺の興味はもう別の場所に向いていた。


みんなから同意の上で譲渡された、ロレーヌの黒い魔石。

ポケットの中でずしりと重いそれを指先で転がしながら、俺は部屋を後にする。


これをヒヨリの元に持っていったら、あいつどんな反応するかなー、と。










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ここまで本当にお読み頂きありがとうございます。


仕事が忙しく感想返しなど出来ておりませんが、目は必ず通しております!

ブクマや星も本当にありがとうございます!

更新の励みとなっております。




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同じ話が二つ重なってるのは何かの伏線かな?
いつも楽しく拝読しています。 同じ話が2つ投稿されてますよ
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