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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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なぜ裏切り者がいると思うのか。

簡単だ。

ロレーヌにはわざわざ言わないが、俺は以前のダンジョンで手に入れた『宝食ワニ』と言う召喚獣を、第五階位昇格時の空きスロットへと装備している。


甲板で自分の番を待っている間、誰にも悟られないように、外の海へ向けて静かに召喚していた。


宝食ワニは、その元々の習性からか周囲の遺物のおおよその数を、匂いや気配のようなものとして理解できる。

そしてそれは、召喚している間は召喚主である俺にもおおよその理解が及ぶ。


俺より先にあの部屋へ入った特定のパーティーは、部屋に入る前と出た後で、遺物の数が増えていた。

もちろん、その情報だけで確証が得られるわけではない事も理解している。

俺の使っている妖精やミルの遺物のように、別の空間へ収納できる特殊な手段を持っていれば、数は誤魔化せるからだ。

だが、部屋の中で攻撃するためだけに収納から取り出した遺物を、用が済んだ後にも関わらず、片付けずにそのまま外へ持って出るのは不自然ではないだろうか。



MaD(マッド)か?」


俺がそう特定のチーム名を口にすると、ロレーヌはそれまでの余裕ぶった態度を消し、スッと無機質な無表情になる。


「――太陽の檻か?」


「私からは何も言えない」


そう言ったっきり、何を言っても彼女の口が開くことはなかった。

これ以上何を言っても埒が明かず、各々のチームに与えられた個別の約束の時間が刻一刻と迫っていた。


俺はこれ以上追求しても無駄だと諦めて、座っていた椅子から立ち上がる。


「おまえ……きらい」


背中を向けた俺へ投げかけられたその一言で、足を止めて振り返る。

ロレーヌは床に座り込みながら、敵意の篭った瞳で真っ直ぐに俺を見据えていた。


「嫌いなら何なんだ?」


俺が見下ろして問い返すと、少女の姿をした存在はひどく冷たい声で宣言した。


「元の姿になったら……お前から殺してやる」


「――元の……姿?」


あぁ、そうか。

こいつは、この少女が本当の正体じゃないのか。

ダンジョンの最終目的たる強大な魔物が、こんな無防備な人型の姿のまま終わるはずがない。


いずれ訪れる完全な形態変化、こいつは俺を最優先で殺しに来るという明確な殺意の表明だった。


「俄然、やる気が出て来た。その時を楽しみにしているよ。お前の思惑も全て砕いてやる」


俺はロレーヌの憎悪を真っ向から受け止め、不敵に言い放って部屋の扉を開け、外へと出る。


扉を挟むようにして左右に立っていた二人の男性。

管理所から派遣された青年と老人に、俺の番が終わった事を短く伝えて階段を登り甲板へ出る。


そこにはミルと要石の面々が既に集まっており、俺は真っ直ぐに彼らの元へと合流した。


「やけに楽しそうじゃん」


要石のピンク髪。

以前は自分の背丈ほどもある巨大な金槌を担いでいた、ヒナと呼ばれる女性が俺の顔を見て声をかける。


「いやぁ、開けたプレゼントの中に空の箱があって残念に思っていたら、思いがけず底の方から目当ての物が出て来たようで」


俺はそう言うと、彼らへ部屋の中での出来事と自身の推測を共有する。


――このダンジョン攻略にあたり、俺はミルと要石のパーティーと共同戦線を張ることにした。

双方のチームは元々古い接点があった影響もあり、ソロである俺をミルと彼らが混ぜてくれるような形になったのだ。


改めて自己紹介を先ほど済ませたが、要石の面々の名前は、ヒナを置いておくとどう考えても本名ではないだろう。

社長、捻れ(ねじれ)、水龍と、明らかに偽名だ。

だが、そんな事はダンジョンの攻略において別に気にするようなことではなかった。


「――寄生する魔物に、裏切り者ねぇ」


社長はいつものように自身の顎髭を撫でながら、事も無げに呟いた。

俺とミルは、過去に経験した出来事も交えて詳細に話をしたためか、彼らからは一定の信用は得られたように思える。


「あの太陽の檻とMaDが怪しいと……どう思う? 水龍」


社長はそう言うと、傍に立つ大きな筋骨隆々の男性へと声をかける。

浅黒く日焼けした肌を持ち、荒々しい海の男をそのまま体現したような巨漢の男性だ。


「まぁ、遺物の可能性を考えたら何でもあり得るからなぁ。今ここでいくら考えても無駄だな。しかし、全く分からずに事態に直面するのと、あらかじめ想定して分かった上で直面するのでは大きな違いがある」


水龍は腕を組みながら、俺の推測に理解を示し賛同してくれた。


そんな時に甲板に重い足音が響く。

何の気無しに視線を向けると、そこには先ほど俺を個別の部屋へ案内してくれた黒スーツの青年が立っていた。

彼の纏う空気は、先ほどまでの事務的なものとは明らかに異なっている。


彼は感情の乗らない声で淡々と言う。

「先ほど、死亡者が出ました」


俺達はその事実を静かに飲み込み、誰も口を開かないまま現場へと向かう。


この客船の構造はすごくシンプルだ。

下の一階から順に、参加者に割り当てられた客室、その上に食堂、さらに上に客室、そして最上階が甲板となっている。

それぞれを行き来するためのルートは、船の中央に設置された大階段のみだ。

客室は参加者の数だけ用意されており、ご丁寧に一人一部屋分の個室が分け与えられている。


青年に案内された一階の客室。

死んだのは三名。

MaDと言う、全員が第五階位で構成されたチームが三人ともその部屋で息絶えていた。


俺達は室内に踏み込み、直接その無惨な遺体を確認したが、全員が一様に顔面を深く抉られており表情が分からない。

異常なのは、室内に抵抗した跡や、激しく争った形跡が一切ないことだ。


現場の確認が終わった後、管理所の二人の提案で俺たちは全員で食堂へ向かうことになった。


食堂の扉を開け、俺は目を疑った。

不思議なことに、先ほどまで各チームの攻撃によって酷く荒れ果て、壁は焦げ、テーブルが砕け散っていたあの食堂は完全に元の美しい状態に戻っていた。

それどころか、今や部屋の中央の大きなテーブルには、豪華な装飾が施された皿に山盛りの料理が並べられていた。


「待ってましたことよ」


ロレーヌは既に上座の椅子に深く座り、優雅な手つきで食事を始めていた。

俺たちはゾロゾロと中へ入り、各々自由に席へと着く。


向かいに座る水龍が、唐突に足元が汚れるのを完全に無視して、乱暴に足を机の上へと置いた。


「おい。俺らはこんな所で探偵ごっこしに来たんじゃないんだ」


その見た目こそひどく恐ろしいが、普段から威圧的に周りを恫喝するような素振りを見せない水龍が、この時ばかりは明らかに不機嫌に苛立っていた。


「たしかに、探索者の死は自己責任と言いますしね。何が起こったのかを端的に説明してもらい、手早く解散としましょう」


少し離れた席に座る太陽が、水龍の言葉に同調するように薄ら笑いを浮かべて口を開く。


管理所の二人が前に出て、状況を説明する。

彼らが言うには、ロレーヌへの攻撃の時間が全て終了した後、下の階へ降りて行ったのは死亡したMaDの三人のみ。

他のチームは全て、上への階段を登って客室や甲板に向かって行ったそうだ。

そしてその間、ロレーヌがこの食堂の部屋を出た事実はなく、管理所の二人が常に監視をしていたという。


つまり、ロレーヌと他のチームに犯行の機会はない。


それだけの状況が分かれば十分だと、要石の面々は先んじて席を立つ。

それに釣られるようにして、俺とミルも席を離れ、彼らの後を追って食堂を出た。


「どう思う?」


中央の階段を登りながら、隣を歩くミルが小さな声で問いかけてくる。


「さっき現場を確認した時、俺の森林狼は外部の何かが侵入してきたような反応を特に示していなかった、外部犯の線はないね、恐らくは――」


「自作自演だろ?」


俺の推測を遮るように、先に階段を上がっていた水龍が会話に割って入ってきた。


「――そうですね。ただ俺の出来る範囲の調査だと、あのベッドに転がっていた死体自体は本物のように思えました。ですが、それにしても室内に他の人間の匂いや、犯人の痕跡がなさすぎました」


「死体が本物じゃなく偽物だからだよ。本人は今もこの船のどこかに潜伏してるだろうさ」


振り返りもせずにそう断言する水龍の背中に、ヒナが納得がいかないように食ってかかる。


「なんで、水龍にはそんなことがわかるのさ」


「勘だよ」


水龍はぶっきらぼうにそう言うと、歩みを止めずに階段を登っていく。

だが、その後に続いた言葉は、俺たちにとって看過できないものだった。


「あぁ、そうそう。さっき転がってた死体の遺物、俺が確認したんだがな。全て【効果無し】の抜け殻になっていた。気を引き締めろよ。俺もこれまでいくつものAランクダンジョンを踏破して来たが、()()奇妙な現象が起きる時は、過去に一度だけだった」


その言葉を聞いて、俺とミルは無言のまま顔を見合わせる。

俺とミルが遭遇したAランクダンジョン。

あの時も、死体の遺物は効果が無くなる全く同じ現象が起きていた。


先ほどの会話を踏まえるに、MaDの三人の内、少なくとも一人はまだ確実に生きており、この船のどこかに潜伏している。

俺の森林狼が探った匂いは、客室の部屋の中で不自然に途切れていた。

物理的に歩いて逃げたのではなく、何らかの特殊な遺物で移動し、気配を消しているのだ。

犯人探しは必要ないそこを特定して叩けば良いだけだ。


ただ、俺たちがそんな推測を巡らせているうちに。

客船は大きく警笛を鳴らし、目的の場所へと辿り着いた。


第一の島。


甲板から見下ろすそこは、こじんまりとした、鬱蒼と緑の木が生い茂った無人島のような小さな島であった。




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