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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「お疲れさん」


背後から唐突にかけられた声に振り返ると、いつの間にか姿を現したデラボネアが立っていた。

相変わらず大きな風呂敷を背中に担ぎ、ひょうひょうとした足取りで戦場跡を歩き回っている。

凄惨な殺戮の跡など気にも留めない様子で、周囲に散らばる残骸を興味深そうに覗き込んでいた。


「遺物らしいものはどこにもないですけどね」


俺はその様子を横目で見ながら、時間切れで送還された黒薔薇の騎士団の代わりに、黒兵士とゴブリンたちを召喚して付近の死体から魔石を刈り取っていく。


「ここには無いようだな……奥の部屋か?」


デラボネアは俺の言葉に頷くでもなく、シーキングが姿を現した遺跡のさらに奥へと歩を進めていく。


「おーい、あったぞ」


足早に先行していったデラボネアの声が、遺跡の深部から響いてきた。

一人で置いていかれるのも何なので、俺はゴブリンたちに回収作業を任せ、黙って声のした奥へと向かう。


そこは海に直接繋がっている、巨大な洞穴のような空間になっていた。

横手には外の海からそのまま入り込めるような水辺が広がっているが、俺の目を引いたのはそこではない。

空間の最奥、目の前には明らかに宝物庫への入り口であることを主張するような、豪奢で煌びやかな両開きの扉が存在していた。


その強固な金属製の扉の表面には、よく見ると水面が波打つようなさざめきが絶えず走っていた。

デラボネアが通った跡である。


そのまま後を追うようにして水面の扉を潜り抜けた。



目の前に広がっていたのは、絵に描いたような金銀財宝の山だった。

無造作に積まれた黄金の壺、溢れ出た大量の金貨、そして精緻な細工が施された装飾品の数々。

まさにシーキングが溜め込んでいた宝物庫だ。


だが、その部屋の中央に鎮座する最も立派な宝箱は、既に蓋が開かれた状態になっていた。

開けたのは間違いなく、その宝箱の前で胡座をかいて座り込んでいるデラボネアだろう。


「ありましたか? お目当ての遺物は」


俺が背後からそう尋ねると、いつも底抜けに明るいデラボネアが初めて重いため息をついた。


()()じゃない。わしが探してるのはな」



かける言葉が見つからず沈黙していると、デラボネアはゆっくりとこちらを振り返った。

その顔には、魔物であっても明確に理解できるほどの深い落胆の色が浮かんでいる。


「お前さんにやるよ、これ」


そう言って、デラボネアが放り投げてきたものを空中で受け取る。

俺の手に収まったのは、鈍く光る金色の杯だった。

直接手に触れた瞬間に遺物の詳細な情報が脳内へと流れ込んでくる。


【媒体:杯】

効果:スロットに装備されている『召喚魔法』を一度だけ強化する。


スロット……スロットを強化?

数多くの遺物を見聞きしてきた俺でも、こんな効果は聞いたことがなかった。


自身の特性であるスロットに装備した魔法や効果は、別の遺物を取り込めば任意で上書きすることができる。

しかし、一度装備した能力そのものを、スロットに入れた状態のまま底上げするなどという効果は他に知らない。


俺は今まで必要性を感じなかったため、一度装備した能力を入れ替えるようなことはしてこなかったが、これなら話は別だ。


「選ぶのは馬にしとけよ。鳥じゃなくてな」


デラボネアは、俺の内心での葛藤をピタリと言い当てて忠告をしてきた。

俺の現在のスロットに組み込まれている召喚魔法は二つ。

第三階位相当に引き上げられている黒馬と、組み込んだばかりの第四階位相当の灰流鳥である。


単純に戦力の底上げや階位の数字だけを見るなら、空の移動手段であり広範囲殲滅力を持つ灰流鳥を強化するのが定石だと思っていた。

だが、どうやらそうではないらしい。


そんな俺の疑問に答えるようにして、デラボネアは胡座をかいたまま静かに続ける。


「お前さんの持っている黒薔薇の遺物には、背景(ストーリー)がある」


そこで一つ、ゆっくりと深呼吸をして間を置いた。


「聞こえんか? 黒い騎士が、共に戦場を駆ける馬を求めているのを」


そう言って、デラボネアは真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

俺は自身の指輪や腕輪に視線を落とし、耳を澄ませてみたが。


「……何も聞こえないですね」


正直にそう返事をすると、デラボネアは張り詰めていた空気を崩して快活に笑い、立ち上がって俺の腰を軽く叩いた。


「そういうこともある」


……どうやら、そういうこともあるらしい。

俺は深く追求することをやめ、手の中にある遺物を使用する事に決めた。


金色の杯が砂のようにサラサラと崩れ落ち、そのまま俺の肉体へと吸収されていく。

俺は迷わずに己の魂に刻まれたスロットの中の「黒馬」の強化へと意識を向けた。

内側から熱が膨れ上がり、情報が上書きされていくのが分かる。


【媒体:無し(スロット装備)】

効果:黒薔薇の冥馬を召喚する。


――お前も、黒薔薇になるのか。

俺は強く握り込んだ右手につけた、黒薔薇の装飾が施された指輪と腕輪に改めて目を向けた。

騎士、守護者に続く、新たな黒薔薇の召喚獣。

次なる戦いが楽しみになってくる。


「じゃあな、アキ! また今度も会うだろうな」


そう言って、デラボネアは床に向かって水に飛び込むような姿勢を取る。


「あ、ちょっと待って下さい。出口は……」

慌てて俺が帰りのルートを聞こうとしたが、デラボネアは笑って教えてくれた。

どうやら元の広場にゲートが出現してるようだった。

見落としていたのだろう。


「あぁ、そうそう。今度はデラで良いぞ! 長ったるいからな!」


言い残すと同時に、デラは硬い石の地面をまるで水面を泳ぐようにして潜り完全に姿を消してしまった。


静まり返った宝物庫に一人残される。

とりあえず俺は妖精を追加で召喚し、この部屋にある大量の金品を持てるだけ持たせて広場へと戻ることにした。


途中の扉は内側から開いたので外の広場に戻ると、ゴブリンと黒兵士たちが集めた大量の魔石が山のように積み上げられていた。

その中でも一際大きく、どす黒い輝きを放っているのがワニの魔石だろう。

俺はそれら全てに触れ、自身の昇格のための糧として容赦なく吸収していく。


ふと、魔石の山の横に人間の腰ほどの大きさがある巨大な白い牙のような物が複数転がっているのに気がついた。

別途で分けられているということは、ただの骨ではない。

近づいて手を触れると、やはりそれは遺物であった。


【媒体:牙】

効果:宝食ワニを召喚する。


それが、守護者が倒したワニの数だけ存在していた。

宝食ワニなどという魔物の名前は聞いたことがなかったが、状況からしておそらく守護者が正面から撲殺していたあの巨大なワニで間違いないだろう。


だが、現在俺の保有するスロットは四つ。

黒薔薇の冥馬、反射神経強化、騎乗時の補正、灰流鳥、で既に枠は埋まっている。


俺は完全な状態の牙を一つだけ手元に残し、残りの牙と全ての魔石を吸収した。


己という器を満たしていた水が、ついに限界を超えて溢れ出すような感覚。

見えない枷が外れる確かな手応えがあった。


俺は、この瞬間をもって第五階位へと昇格した。


目標としていた国内最高位の領域に近づく。

だが、そこに劇的な感動や達成感はない。

他の探索者のように昇格に伴って筋肉が膨れ上がったり、超常的な身体能力を得られるわけではないからだ。


俺の肉体は、今までと何一つ変わらない一般人のまま。

いつも通り、ただ静かに、さらっと昇格の器から溢れただけだった。


唯一の恩恵として、自身の特性によって新たな「空きスロット」が一つ増設されたのを感じ取る。


俺は足元に残しておいた宝食ワニの牙へ触れて、そのまま第五階位へ昇格した際に増えた真新しいスロットへとその効果を装備した。


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― 新着の感想 ―
一般人の体を鍛える必要があるのではないのかな?
「お前さんにやるよ、これ」 なんでなんもしてないやつが?
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