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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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龍光の着弾地点から離れた場所にいる騎士達へ、巻き上げられた海水が土砂降りの雨となって降り注ぐ。

後ろから戦況を見守っていた俺の視界には、血生臭さを増していく戦場にダンジョンの擬似太陽光が差し込み、皮肉にも美しい虹が架かっているのが見えた。


黒薔薇の騎士団の召喚限界時間は、既に半分を切り残り五分といったところか。

対するシーナイトの数は依然として多い。

波打ち際を鮮血で赤く染め上げてもなお、海からは次々と新たな敵影が湧き出してくる。

終わりの見えない消耗戦。

俺は蝕燐竜の召喚を検討し始めていた。


だがその時、前線の騎士達が動いた。

彼らは手にした長剣を目の前のシーナイトの胸板へ深々と突き刺すと、そのまま蹴り飛ばして剣を手放した。

さらに、防御の要である盾すらも無造作に地面へ投げ捨てる。

身軽になった両手が、背負っていた身の丈ほどの大剣へと伸びる。


防御を捨て、完全な攻撃態勢への移行。

俺の指示ではない。彼らの独断だ。


召喚獣は、その階位が高くなるほど自立思考が発達する傾向にある。

それは決して召喚者への反逆ではなく、むしろ戦況を最適化するための高度な判断であることが多い。

もちろん、俺が強く念じれば強制的に上書きできる程度の自我だ。


――殲滅せよ。


その一点において、騎士達は召喚者である俺よりも、自らの持つ殺傷能力を正確に把握していた。


騎士達が両手で握り締めた大剣の刀身に、半透明の黒い薔薇の蔦が絡みつくように出現する。

それだけではない。

その全身鎧全体にも、黒い薔薇の蔦が侵食するように広がっていく。

それは拘束具ではない。

騎士達の動きを阻害することなく、むしろその闘志に呼応するように脈動している。


殺到してきたシーナイトの一体が、鋭い突きを放つ。

槍の穂先が騎士の喉元を捉えた、その瞬間。

鎧の表面に展開した黒薔薇の蔦が瞬時に反応し、槍を絡め取って無効化した。

攻撃を受け止めるまでもない。

触れることすら許さない絶対的な拒絶。

その隙を見逃すはずもなく、騎士は大剣を一閃させ、シーナイトの首を刎ね飛ばした。


騎士達はそれまでの鉄壁の集団行動を解き、個々に散開して敵陣へと駆け出した。

もはや連携など必要ないと言わんばかりの暴走。

すれ違いざまに、あるいは正面から。

大剣の一振りで、シーナイトを鎧ごと両断していく。


それは兵士の戦いではない。

一騎当千の将が、五体同時に解き放たれたような光景だった。

全ての防御を黒薔薇の自動迎撃に任せ、自身はただひたすらに目の前の命を刈り取る死神と化す。

先ほどまでの、盾を構えた堅実な戦い方とは真逆。

返り血を浴びて赤黒く濡れたその姿は、まさしく狂戦士の様であった。


騎士達による一方的な蹂躙が激化するにつれ、シーナイトの群れは海辺より奥へ踏み込むことができなくなり、次第に俺の元へ到達する個体は皆無となった。


俺は油断することなく、上空の黒煙鳥の処理をゴアデビルに一任し、黒馬の上から戦況を見守る。

役割を終えた黒石の巨人は既に送還済みだ。

代わりにゴブリンを二体召喚し、安全圏にあるシーナイトの死体から魔石を剥ぎ取らせる。

最弱のゴブリンでは、死にかけのシーナイトにすら勝てない。

あくまで、完全に動かなくなった死体の処理のみを命じておく。


シーナイトとの戦闘開始から、およそ十分。

最後の生き残りが騎士の大剣によって叩き斬られ波打ち際に沈む。

静寂が戻る。

波打ち際に佇む騎士達の全身鎧は、元々の黒薔薇の装飾の上から大量の返り血が滴り落ち、まるで鮮血の薔薇が咲き誇っているかのように見えた。

見渡す限り、芝の浜辺はシーナイトの死骸で埋め尽くされている。


時間切れと共に、黒薔薇の騎士団は黒い霧となって消滅した。

俺は即座に通常の黒兵士を五体召喚し、ゴブリンと共に総出で魔石回収を命じる。


殺した数は、およそ五百体ほどか。

数としては、以前金山ダンジョンで狩ったスケルトンの群れよりは少ない。

だが、質が違う。

第四階位であるシーナイトの魔石は、一つ一つが大きく含有するエネルギー量が段違いだ。


遺物も五個ほど回収できたが、どれも単純な効果付きの武器や、俺にとっては使い道のない外ればかりだった。

身体強化や、水中での呼吸補助など。

市場に出せばそれなりの値がつくだろうが、今の俺に必要なのは金ではない。


俺は惜しげもなく、それら全ての魔石と遺物を自身の強化した。

体感だが、これで第五階位への進捗はさらに一割ほど進んだだろうか。

トータルで二割。

残り八割。

まだまだ先は長い。


その後は、散発的に現れる火焔土器や黒煙鳥を処理しつつ、海沿いを歩いて二階層へのルートを目指した。

本来なら、この海域にはシーナイトだけでなく、「地血鮫(ちけつざめ)」と呼ばれる好戦的なサメ型の魔物が出現するはずなのだが、いくら目を凝らしてもその姿は見当たらない。

もっと沖合へ出なければ遭遇しないのだろうか。


収穫があったのは、遥か遠くに天空へ続く巨大な螺旋階段が見えてきた時だった。

二階層への入り口だ。

このダンジョンは地下へ潜るのではなく、空へ向かって登っていく構造になっている。


【媒体:お椀型の土器】

効果:灰流鳥(はいりゅうちょう)を三体召喚する。


結果を確認した瞬間、俺の頬が緩む。


――当たりである。



お読み頂きありがとうございます。

お気に召しましたらブクマや感想大変嬉しく思います。

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