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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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その後も淡々と、作業のように火焔土器を砕き続ける。

黒石の巨人の質量攻撃と火焔土器の相性が良すぎるのか、危なげな場面は一つもない。


注意すべきは、鳴き声もなく上空に現れる黒煙鳥だけだ。

奴らは音もなく忍び寄り、気がつけば頭上を旋回して増殖している。

だが、それさえ認識していれば対処は容易だ。

いずれにせよ、俺の脅威にはなり得ない。


砕け散った火焔土器は、たまに魔石以外にも遺物を落とす。

拾い上げてみれば、そのほとんどは媒体が土器で身体能力向上系の効果が付与されたものだった。

迷わずそれを自身の強化へと使用する。


第五階位への到達度は、体感で恐らく一割といったところか。

残り九割。

道のりはまだ長い。


他の探索者と違い、俺の場合は階位昇格による単純な戦力向上は見込めない。

身体能力はずっと据え置き。

つまり、俺自身が強くなることには何の意味もないのだ。

第四階位昇格時に増えたスロットも、現状一つ空いたままになっている。

他の探索者が自身の肉体と遺物の力を5:5や6:4で組み合わせて戦うのに対し、俺の戦力比率は0:10で遺物に依存しており歪だろう。


黒石の巨人に指示を出し、残党の火焔土器を蹴散らす。

これでもう五十体は倒しただろうか。

見渡す範囲に動く影はなくなった。


俺は黒馬の手綱を引き、海の方角へと向かう。

砂浜など存在しない、緑の芝生に直接青い波が打ち寄せている異様な光景。

芝浜とでも呼ぶべき奇妙な海岸線を、黒馬の蹄が踏みしめていく。

このダンジョンの攻略法はシンプルだ。

迷ったら海に沿って進めば、入り口か次の階層への道に辿り着く。

俺が進むのは勿論、二階層への道だ。


右手の海面が、唐突に爆ぜた。

水しぶきと共に、何かが飛び出してくる。

反射神経強化の恩恵でスローに見える世界の中で、俺は即座に右手を突き出した。

思考よりも早く、腕輪が熱を放つ。


黒石の巨人が顕現し、落下してくる影に対してカウンターのように上から拳を叩き込んだ。

鈍い音が響き、海面が衝撃で一時的に割れる。

巨人は役目を終えて霧散し、その巨体が消えたことで潰された魔物の正体が露わになった。


二足歩行のワニのような醜悪な魔物。

シーナイト。

手には槍を持ち、魚の鱗と骨で作られた軽装の鎧を纏っている。

このダンジョンの海域に生息する、集団戦を得意とする兵士だ。


この魔物は、単体で行動することはあり得ない。


俺は黒馬を操り、海辺から少し距離を取る。

予感は的中した。

最初の一体が合図だったかのように、海面が次々と盛り上がり、続々とシーナイトが上陸を開始する。

十、二十……いや、もっと。


――量が多い。

既に三十体は上陸しているが、波間には無数の背びれが見える。

まだ出てくる気か。


こいつらは水中での機動こそ早いが、地上での移動速度はそこまでではない。

黒馬に乗った状態なら、少し駆けさせるだけで戦場を離脱することは容易だ。

だが、逃げる理由がない。


朝に入っていた要石の攻略速度は早かった。

地上の魔物は律儀に全て狩り尽くして最奥へ向かったか、あるいは何らかの対策をして湧き(スタンピート)を抑えたのだろう。

だが、海の中までは手が回らなかったか。

もしくは、ボス討伐後のダンジョンが不安定になり、リポップのサイクルが狂っているのか。


どちらにせよ、今は好都合だ。

向こうから来てくれるのだから。


俺は黒い薔薇の装飾がついた指輪ごと、強く拳を握り込む。

使うのは初めてだ、丁度いい。


「黒薔薇の騎士団――来い」


俺の呼びかけに応じ、虚空から黒い靄が噴き出す。

顕現したのは、今までとは一線を画す威圧感を放つ全身甲冑の魔物たち。

黒薔薇の装飾が施された盾と長剣はそのままに、背中の弓矢は消え失せている。

代わりに背負っているのは、身の丈ほどもある巨大な大剣だ。

体躯も三回りほど大きくなり、身長にして二メートル近くまで巨大化しており、鎧の厚みが増しているのが見て取れる。


俺の周囲を固めるように瞬時に展開した五体は、その鎧の重量を無視するかのように滑らかに動き出した。

関節の軋み一つない。

洗練された暴力の気配。


「守らなくていい、殺してこい――殲滅戦だ」


俺の冷徹な命令が下る。

騎士団は無言で弾かれたようにシーナイトへと疾走した。


俺は傍らに召喚した妖精から、ゴアデビルの杖を受け取る。

役目を終えた妖精を回収し、入れ替わりにゴアデビルを召喚する。

俺の周囲には黒石の巨人を盾として配置する。


次々と海から這い上がってくるシーナイトの群れは、さながら軍隊のようだ。

先頭集団が一斉に槍を投擲してくる。

雨のように降り注ぐ死の穂先。

だが、それらが俺に届くことはない。


芝生がめくり上がり、地面から盛り上がった土壁が槍を空中で絡め取る。

泥人形だ。

その不定形の体は、単純な物理攻撃に対して無類の強さを発揮する。

絡め取られた槍は勢いを殺され、無力に地面へ落ちる。

反撃とばかりに黒馬が嘶き、紫電を纏った雷撃を放つ。

濡れた体を持つシーナイトたちに雷の通りは良い。

数体が痙攣し、白目を剥いて倒れ伏す。


前線では、騎士団が一方的な殺戮劇を繰り広げていた。

波打ち際まで進出した彼らは、押し寄せるシーナイトを次々と肉塊に変えていく。

目下の脅威と認識したのか、シーナイトの群れが騎士たちを包囲しようとする。

だが、騎士団の連携は人間では到底到達できない領域にある。

背中を預け合い、盾で受け、剣で刺し、薙ぎ払う。

死角が存在しない。

単純な戦闘力と、思考を共有しているかのような連携力。

そこにあるのは圧倒的な格差だった。


ふと、ゴアデビルが上空を気にする素振りを見せた。

視線を上げれば、戦場の混乱に乗じて無音で黒煙鳥が旋回を始めている。

小賢しい。


ゴアデビルは片手を突き出し、無造作に火槍を放つ。

紅蓮の槍は正確に鳥を貫き、黒い羽毛を燃やし尽くして撃ち落とした。


邪魔者は消えた。

ゴアデビルはそのまま、地表へ向けて両手を突き出す。

両手に光が集束する。


――龍光。


解き放たれた暴力的な光が龍の顎を形取り、地面を抉りながら直進する。

光の奔流に飲み込まれたシーナイトたちが、悲鳴を上げる間もなく蒸発していく。

海面すらもえぐり取り、水蒸気の爆発を引き起こす。





お読み頂きありがとうございます。

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