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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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全体的に茶色く、歴史を感じさせる瓦屋根の日本家屋。

これが、三重県に位置する伊勢ダンジョン管理所の外観だった。

周囲の景観に配慮したのか、あるいは元々あった古民家を改装したのか。

一見すると老舗の旅館か料亭のようにも見える。


だが、その重厚な引き戸を開ければ、外見からは想像もつかないほど真新しく、近代的な内装が広がっていた。

白い壁に、機能的なカウンター。

空調が効いた快適な空間は、ここが命のやり取りをする場所の入り口であることを忘れさせる。

設備自体は、金山ダンジョンのように必要最低限のものしかない。

第四階位以上の探索者しか来ない高難易度ダンジョンであるため、初心者向けの講習室やレンタルスペースなどは省かれているのだろう。


ただ、違うのはその空気感だ。

壁に貼られたポスターや、受付奥に見える遺物査定カウンターの煌びやかさ。

このダンジョンが管理所にもたらす経済効果――主に高ランク遺物や魔石の買取――が大きいのか、金山よりも予算が潤沢で、管理体制が強化されている印象を受ける。


俺は受付に向かい、管理証を提出した。

対応してくれたのは愛想の良い若い女性職員だった。

「春花アキ様ですね。当ダンジョンのご利用は初めてでしょうか? ダンジョン内の特性や注意点について説明を聞かれますか?」


「いえ、大丈夫です。行きの電車でよく確認してきていますので」

俺は丁重に断った。

ここに来るまでの道中、竹村から貰った資料を穴が開くほど読み込んできている。

地形、出現モンスターの特性、過去の事故例。

頭には全て入っている。


「承知いたしました。では手続きを進めますね」

女性職員が手元の端末を操作し始める。

キーボードを叩く軽快な音が響く中、俺は気になっていたことを尋ねた。


「このダンジョンは今、何組の探索者が入っていますか?」


ソロでの潜入となる以上、他パーティーの動向は生存率に関わる重要な情報だ。

先行者がいればモンスターの配置が変わっている可能性もあるし、万が一の際の救助や、逆にトラブルに巻き込まれるリスクも考慮しなければならない。


「今は一組だけですね」

職員は画面から目を離さずに即答した。

「最近までずっと攻略していた常連のパーティーが長期休暇に入られたのと入れ替わりで、『要石(かなめいし)』というパーティーが今朝一番に入って行かれました。第五階位のパーティーです」


――第五階位。

その言葉に、俺の背筋がわずかに伸びる。

国内でも数少ないトップランカーの集団。

この伊勢ダンジョンは、ボスを除いて第四階位までの魔物しか出現しないとされるダンジョンだ。

第五階位の実力者が挑むには少し格下にも思えるが、階位が下のダンジョンに入ることは何も不自然ではない。

むしろ、リスク管理や効率的な素材集めの観点からすれば当たり前の選択だ。


階位昇格による身体能力の向上は、人を人の枠組みから外れさせるほどの超常的な力を与える。

だが、戦闘能力やダンジョン攻略において、身体能力だけが絶対的な指標ではない。

持っている遺物の性能、特性。

それらの組み合わせによって向き不向きは顕著に現れるし、身体能力が全てではないことは、他ならぬ俺自身が証明している途中である。


時計を見れば、時刻は既に昼を過ぎていた。

名古屋からの移動に意外と時間がかかってしまったようだ。


「登録終わりました。では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

職員から管理証を受け取り、ゲートへ向かう。

昼飯はまだだが、中で適当に食事を摂ればいいか。

そう思いながらゲートへ足を踏み入れようとした、その時だった。


ゲートの揺らぎから、先に出てきた集団がいた。

三人の男女。

その姿を見た瞬間、俺は足を止めた。


「もぉ〜! ねじれが遅いから昼時過ぎちゃったじゃない!」

高い声で文句を言いながら現れたのは、背の低いピンク髪の少女だった。

特徴的なのはその髪色だけではない。

彼女の華奢な肩には、身の丈を優に超える二メートル近い巨大な金槌が担がれていた。

通常なら地面を引きずることすら困難な質量だが、彼女はそれを小枝のように軽々と扱っている。


「そんな怒るなよ。今から横丁行っても伊勢うどんくらい食えるって」

少女の剣幕を受け流しながら、のんびりとした口調で続く男性。

無精髭を生やし、三十歳は超えているだろう風貌。

背丈は少女と同じくらい小柄だが、その手に抱かれた赤い鞘入りの長刀が異様な存在感を放っている。

自身の身長よりも少し長いその刀身を、片手に持ちながら顎ひげを撫でている。


そして最後に出てきたのは、深くフードを被った長身の男性だった。

身長は百八十センチはあるだろうか。

ローブのような服装からして、いかにも魔法使いといった出で立ちだ。


「おい聞いてんかねじれ!」

少女が最後に出てきた長身の男へ、口汚く罵声を浴びせる。

どうやらこのフードの男が「ねじれ」と呼ばれているようだ。


「……」

ねじれと呼ばれた男は無言のまま、少女の罵倒を柳のように受け流す。

だめだこりゃ、と肩をすくめる少女。

そんな二人を横目に、長刀を持った顎ひげの男がこちらに気づき、笑みを向けてきた。


「すまんなぁ、今ボス倒しちまったから次に湧くまで時間かかるぞ」


――要石。

先ほど職員が言っていた第五階位のパーティーだろう。

ミル以外で初めて面と向かって喋る、第五階位のパーティー。


「――あぁ、いや、ボス目当てではないので大丈夫です」

俺は努めて平静を装い、短く答えた。

ここで長話をするつもりはない。

軽く会釈をして、彼らの脇を通り抜けゲートに入ろうとする。


「ちょい待ち、ちょい待ち」

少し慌てたような声で、髭の男が俺を引き止めた。


「お前さんソロだろ? 今このダンジョンはボス討伐直後で不安定だ。すぐに入るのはよしときな」

忠告。

親切心から来るものだろうが、その言葉には確かな経験則が含まれていた。


すると後ろから、ピンク髪の少女も加勢するように口を開いた。

「探索者は自己責任……だけど社長も言ってるんだしやめといたらー?」


「昼飯は食ったか?」

社長と呼ばれた髭の男が、唐突に話題を変えた。


「いえまだです、中で食べようかと」

正直に答える。


「んならついてこいよ。昼飯ぐらいは奢ってやるよ……伊勢うどんだがな」

男は笑い、親指で出口の方を指した。

後ろの少女は「えー、知らん人誘うのー?」と唇を尖らせているが、本気で嫌がっているわけではなさそうだ。


相手は第五階位だろう。

俺がこれから目指す領域に、既に到達している人間たちだ。

ここで第五階位のパーティーと会ったのに強く縁を感じた。


俺は少し悩み、そして決断した


「……今日は辞めときます!また今度会えばその時はよろしくお願いします」

社長と呼ばれた男は顎ひげを撫でながら満足そうに頷いた。


「おうよ――またな」

そう言うとわちゃわちゃと騒ぐ彼等とすれ違う。



俺はそのまま伊勢ダンジョンへと足を踏み入れた。


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今日は辞めときます(辞めない)
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