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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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俺は即座に行動を開始した。

その日は一日を費やし、来るべき日の準備を整えるつもりだ。


懐事情は悪くない。

以前、管理所の前払い制度で手放した『狂化のネックレス』。

あれがオークションで予想以上の高値をつけたらしく、その差額が振り込まれていたのだ。


前回のダンジョンで入手した光印の盾。

当初は売却して活動資金に充てるつもりだったが、ネックレスの臨時収入で当座の資金に余裕ができた為、自らの強化へと使用することにした。


ちなみに、今の俺の階位ではもう管理所の前払い買取制度は利用できない。

あれは資金のない新人探索者を支援するための制度であり、一定の階位を超えた者は使用できない決まりだ。


DCBダンジョンコレクターズビルへと向かった。

探索者御用達の巨大商業施設だ。

まずは、背丈ほどもある大きな背嚢を二つ購入した。

通常、俺のような身体能力の低い探索者では、空の状態でも担ぐのがやっとの代物だ。

だが今は、ヒヨリに貰った妖精の腕輪がある。

ダンジョンでの荷物持ちは彼らに任せればいい。俺自身は手ぶらで動けるという寸法だ。


同じく、摩耗していた黒馬の鞍もさらに耐久性の高い上位モデルへと新調した。

傷薬や包帯、痛み止めや保存食に至るまで、思いつく限りの物資を棚から抜き取り、カートに積み上げていく。

以前は自分が背負える量という物理的な制約があったが、今はそのリミッターがない。

輸送能力の向上は、生存率に直結する。


荷物で山盛りになったカートを脇に置き、棚の商品を吟味していた時だった。

ふと振り返ったタイミングで、通路を歩いてきた男性と勢いよく衝突してしまった。


「すいませっ――」


つい、社会人時代の癖で反射的に謝罪の言葉が口をついて出る。

悲しいかな、染みついた習性だ。

前方不注意でぶつかったのは俺の落ち度で、当たり負けして弾き飛ばされたのも俺の方だった。


大きく棚にもたれかかるようにして倒れ込む。

衝撃で商品がいくつか床に散らばったが、棚自体は固定されていたようで倒壊は免れた。

周囲の喧騒にかき消され、派手な音は響かなかったのが幸いだ。


「あぁ? どこ見て歩いてんだ雑魚!」


顔を上げれば、いかにも柄の悪い、ヤンキー上がりといった風貌の探索者が俺を見下ろしていた。

二人組だったようで、もう一人の連れはアクシデントにすら気付かず、スタスタと先へ歩いていく。


探索者は階位の昇格により、肉体が作り変えられていく。

高階位の探索者ほど、その見た目からは想像もつかない筋力を得る。

岩のような男と、只人の俺。

彼はこの接触の一瞬で理解したのだろう。

自分にぶつかってきて勝手に吹き飛んだこの男は、取るに足らない低階位である、と。

その認識は正しい。身体能力だけを見れば、俺は一般人と大差ないのだから。


「何とか言え、コラ」


威圧的な低音が降ってくる。

――すみませんと言えば、それで終わる話だ。

ぶつかったのはこちらが悪いし、目の前の男も本気で激昂しているわけではない。

ただ、相手が自分より格下だと判断したから、マウントを取って憂さ晴らしをしているだけだ。

よくある、そして最もくだらない探索者の生態。


心の中でため息を吐いて、謝罪をしようと俺が口を開く前に少し先を行っていた連れの男が振り返り、声をかけた。

「おーい、何やってんだ。さっさいくぞ」


「こいつがぶつかって来たんすよ」

先ほどまでの威勢はどこへやら、連れに対しては少し萎縮したように言い訳をする男。


奥から歩いて近付いてきたその男は、床に座り込んだ俺と目が合うとパチクリと目を瞬かせた。

そして、舐めるように俺の全身を凝視する。

その顔には見覚えがあった。


「あ」


そこで俺は気づいた。

そして向こうも、俺が誰であるかを思い出したようだ。


こちらが何かを言う前に、その男はその場で勢いよく膝を折り、額を床に擦り付けた。

見事な土下座だった。


「こいつが申し訳ありませんでしたぁ!!!」


フロア中に響き渡るような大声。

さらに男は、震える声で続ける。


「この度は命を助けて頂き、お礼も出来ず! 本当に感謝しております!!!」


周囲の客が何事かと足を止め、ざわめきが広がる。

土下座をしているこの男。

見間違えるはずもない。

あの紅蓮人が全滅した忌まわしきダンジョン。

その際、初期配置で俺たちの隣のエリアを担当していたパーティーの生き残りだ。


当時、何かと俺に突っかかってきていたがダンジョンが閉鎖される直前、俺が退路を確保して逃がした三人の生存者の一人だった。



――――


「全部奢って貰って悪いね」


俺はそう言うと目の前の男性――竹村に礼を言った。

今は近くのカフェで遅めの昼飯を食べている。

チェーン店だがここのパスタは美味いのだ。


「いえいえ、とんでもないです。こいつが礼儀を知らなくて……」

そう言うと、さっき俺が当たったチンピラ風の男は、赤く腫れた頬を撫でながら体を縮こませた。


紅蓮人が全滅したダンジョン。

そこから脱出した竹村達は、目の前でゲートの消失を確認していたようでそのまま救助を呼んだのも彼等だった。

パーティーメンバーが二人死んだ為、竹村は一線を退き、ダンジョン管理所の人間にスカウトされて新人や素行不良達の講師役として働いているらしい。


そこのチンピラは教え子というわけか。

さっき普通に殴られていたが、今の時代にいいのだろうかとは思ったが口には出さないでおく。

そもそも竹村自身も素行不良そうだが……。


「それで、その伊勢のダンジョンがおすすめなの?」


せっかくダンジョン管理所の人間がいるので、俺は昼飯を食べるついでに第五階位になるべく最適なダンジョンを聞いていた。


「はい! 全三階層で階層型なんですが、平地なので地形は楽です。ただ、凄い広いのと出てくる魔物がどれも第四階位でして」


高リスクだが、実入りは大きいということか。

今の俺にはうってつけだ。


「決めた、そのダンジョンにするよ」


俺は第五階位へ至るための場を三重県の伊勢ダンジョンへと決めた。


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― 新着の感想 ―
位階上げても自己強化出来ないのキツそうだな。
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