47
ゴアデビルを失ったまま帰路についた。
とはいえ、黒兵士がいる為戦力に不安はない。
彼らが帰還不能に陥る要因となった八つ裂き百足の群生地も、行き掛けに泥人形と黒兵士で徹底的に殲滅している。
帰りの道中は、不気味なほど静まり返っていた。
魔石以外にも、あの首なし騎士は遺物を落としていた。
回収したそれを、張り切り妖精たちにゴアデビルの杖と共にせっせと運ばせている。
【媒体:盾】
効果:光印の魔法が付与されている。
光印とは、上位の探索者が好んで使う非常に効果の高い防御魔法だ。
特定の波長を持つ魔力干渉、例えば一部の魔物が使用するような特殊な魔法やブレス攻撃を弾く効果がある。
俺の蝕燐竜が吐いた黒い炎や、先ほどの騎士が纏っていた青い炎もそれによって大なり小なり防がれる類のものだろう。
俺的に言うなら「外れ」である。
俺自身が盾を構えて前線に立つことはないからだ。
しかし、市場に出せば目が飛び出るほどの高値で売れる代物だ。
もちろん持ち帰る。
「まさか、同じ第四階位でしたとは……」
隣を歩く少年が、はにかみながらそう言った。
このパーティーのリーダーである彼は、帰り道に少し落ち着きを取り戻し、俺に話しかけてきていた。
その視線は、俺の周囲を固める召喚獣たちに釘付けだ。
見たことも聞いたこともない魔物ばかり。
彼はこれらを全て『ユニーク遺物』によるものだと思っていたようだ。
無理もない。
俺自身気にしたことはなかったが、他人の目から見ればユニーク遺物の見本市のように見えるのだろう。
羨望の眼差し。
だが同時に、俺は今後への警戒心も抱く。
探索者の中には、希少な遺物を奪取するために同業者を襲う者も存在する。
自分の手札を晒しすぎるのも考えものだ。
そうこう話しているうちに、俺達はゲートを潜り、ダンジョン管理所へと帰還した。
突入から帰還まで、時間にすると六時間程。
だがその半分以上は、負傷者を気遣いながらの慎重な帰り道での時間であった。
ダンジョン管理所にて待機していた少年と助け出したパーティーから俺は感謝を受けた。
涙を流して手を握られる。
まんざらでもない気分だった。
人からここまで感謝されるなんて、探索者は良い職業だと錯覚してしまいそうだ。
これでまた一つ、指名依頼の実績も増えた。
その日は名古屋の中心地、栄の高級ホテルで身体を休め、翌日。
俺は新栄にあるダンジョン運営所の統括本部へと足を運んでいた。
「指名依頼はありませんか?」
いつかのようにそう尋ねると、受付の管理員は困ったように眉を下げ、手元の端末で検索をかけた。
「申し訳ありません。いま、アキ様宛に来ている指名依頼はありません」
そう言われたそばから、背後で聞き覚えのある声がした。
「おっと、アキくんかな。ちょうど良いね、少し奥へ来れるかい?」
スキンヘッドの男性、家長だった。
彼は慣れた様子で職員に目配せし、俺を奥の応接室へと通した。
指名依頼があるのかと期待し、出された茶を啜る。
家長は対面のソファに深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべた。
「君も懲りないね」
「あれで懲りていたら、そもそも探索者になっていませんしね」
「……『あれ』呼ばわりとは、恐れ入るよ」
家長は一口茶を含むと、表情を引き締めて本題に入った。
「指名依頼は確かにある。私から君を推薦した案件だ」
その一言に俺が身を乗り出すと、家長は手でそれを制した。
「ただし、それは二週間後の話だ」
「……長いですね」
俺にとって、二週間の空白は大きい。
「そう、これは秘密裏に動いている、国を挙げての大きな依頼だ。準備にも時間がかかる。前回のように複数のパーティーが動く大規模作戦になる」
国を挙げての大きな依頼。
俺は察した。
「……Aランクダンジョン、ですか?」
「間違いなく、Aランクダンジョンだ」
そう言い切った家長の目は真剣そのものだった。
目を合わせたその瞳には、隠しきれない焦燥が宿っている。
「そのダンジョンでは既に、第五階位のパーティーが三組、攻略に入ったきり戻って来ていない」
「――それは」
第五階位といえば、国内でもトップクラスの戦力だ。
それが三組も。
「それは第六階位相当のダンジョンなのではないでしょうか?」
そもそもAランクダンジョンとは、実質的な最高難易度を示す区分だ。
「そうかもしれない。だが、国内の第六階位の人間は他ダンジョンを攻略中のため動かせない。どこも緊急事態だ」
メディアに姿を現すのは第五階位までが基本である。
ネットで検索すれば名前くらいは出てくるが、国内の第六階位は俺も見たことがない。
知名度で言えば、先日の紅蓮人の方が遥かに上だろう。
なぜか?
国が情報を秘匿しているのもあるが、第六階位に至った人間は例外なくダンジョン狂いだと言われているからだ。
地球にいる時間よりもダンジョン内にいる時間の方が長く、まともな社会生活を営んでいない。
眉唾な噂だが、おおよそ間違っていないのだろう。
「なので、この度私からアキくんを推薦する。受けてくれますか?」
第五階位のパーティーが三組行方不明になっている死地。
常人なら尻尾を巻いて逃げ出す依頼だ。
勿論、俺は即答した。
「よろしくお願いします!」
俺の返事を聞くと、家長は満足げに頷くことなく、「ただし!」と声を張り上げて立ち上がった。
その視線が、俺を射抜く。
「あと二週間以内に、第五階位へ到達してください」
――貴方なら出来ますよね?
言外にそう告げていた。
無茶苦茶な要求だ。
第四階位から第五階位への壁は厚い。
何年もかけて、それでも辿り着ける保証すらない境地。
十代で到達した紅蓮人は、それゆえに天才と称され、稀有な存在として崇められたのだ。
それを、たった二週間で。
――俺に課すのか。
俺は立ち上がり、家長の差し出した手を強く握り返した。
「もちろん」




