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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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俺の顔面へと伸びた舌は、確かに当たる軌道を描いていた。

しかし、回避行動は取らなかった。

スロットに装備された反射神経強化の遺物により、その濡れた肉の槍が迫りくる様子はスローモーションのように視認できていた。

必要であれば召喚獣を盾にするつもりだったが、その必要すらなかったからだ。


乾いた音が響く。

鼻先数センチまで迫っていた舌の根元が跳ね上がり、切っ先は俺へと届かない。

魔物である蛙が大きくのけ反り、宙へと浮いていた。


地面のレンガの隙間。

この広場に入った瞬間から先行させ、地下を縫うように移動させていた泥人形による攻撃だ。

物理的な死角からの強烈な一撃が、蛙の無防備な顎を打ち据えたのだ。


「そのまま拘束しろ!」


俺は短く命じ、走り出す。

召喚魔法による展開範囲は、遺物の性能にもよるが自身から半径五メートル程度が限界だ。

蛙が舌を伸ばしてきた距離はそれよりも遠い。

だが、一度召喚し実体化させておけば遠隔操作は可能だ。


不定形の泥人形はレンガの隙間という物理的に狭い空間から、粘液のように湧き出し、空中の蛙を包み込もうとする。


しかしぬめる皮膚と爆発的な脚力で抵抗し、完全に固まる前の泥を振り払おうとする。

人質を持ったままでは逃げられないと悟ったのか、あるいは拘束を解くために両手が必要だったのか。

蛙は掴んでいた女性を地面に放り出し、泥人形を両手で引き剥がしにかかった。


――それで十分だった。


黒い影が奔る。

黒薔薇の腕輪から召喚された黒石の巨人が、横薙ぎに拳を全力で振り抜いていた。

広場全体を震わせるほどの衝撃音。

泥ごと殴り飛ばされた蛙が、ボールのように壁際まで吹き飛んだ。


周囲に飛び散った泥はすぐさま集束し、俺の近くで再び半不定形の泥人形へと戻る。


俺は手を伸ばす。

走り出す前に召喚していたゴブリンが運んできた杖を受け取り、間髪入れずにゴアデビルを召喚した。

空間が割れ、異形の悪魔が顕現する。

壁際で体勢を立て直そうとしている虫の息の蛙へ、ゴアデビルは両手を突きだす。


閃光。

龍光が直撃し、断末魔を上げる暇もなく蛙の上半身を消滅させた。

ゴアデビルは残心もなく、そのまま残った肉塊から魔石を回収しに向かう。


俺はその隙に、蛙が放り出した女性のもとへ駆け寄った。

脈を確認する。

呼吸は浅いが命に別状はない。

俺はヒヨリに貰った遺物から魔物を召喚する。


淡い光と共に現れたのは、麻の服を着た二体の妖精だ。

お面をつけた彼らは、俺の意図を察してテキパキと女性を担ぎ上げる。

安全圏への搬送を任せようとした、その時だった。


少し遠くで、水風船が破裂したような湿った音がした。

咄嗟に音のした方向へ目を向ける。


そこには、魔石を拾い上げようとしていたゴアデビルの姿があった。

しかし、首がない。

切断面から血が噴き出し、巨体が音もなく崩れ落ちる。

ゴアデビルの死。

遺物の強制回収により、その死体は噴き出る血と共に光の粒子となって霧散していく。


おおよそ、予想はしていた。

変異体は変異元の特徴を残すものである。

このダンジョンの正規ボスは「浮遊騎士」。

先ほどの影を操る蛙からは、その騎士としての特徴を微塵も感じなかった。

特定の魔物を倒さないとボスが出現しないダンジョンはいくつも知っている。

蛙はボスではなく、ボスを呼び出すためのトリガーに過ぎなかったのだ。


ゴアデビルを一撃で葬り去ったその影。

広場の奥、暗闇の中からゆっくりとその姿を現す。


地に足をつけ、身の丈ほどの長剣を片手に持った、首のない騎士。

全身を紫色の甲冑で覆い、首の断面からは青白い炎が立ち昇っている。

一見するとデュラハンのようにも見えるが、俺の知識にあるどの魔物とも合致しない。

だが分かったことが二つある。

一つは、こいつが「浮遊騎士」の変異体であること。

そしてもう一つは、その実力が元のボスとは桁違いであることだ。


俺のゴアデビルは特性によって第四階位相当に強化されている。

それを、反応さえ許さず一撃で斬り伏せた。


俺は自らの手持ちから最高戦力の一つである、ミルに貰った指輪から魔物を召喚した。


――蝕燐竜。


それは本来、第四階位の魔物。

福岡でのダンジョンで発見された竜種で、退化したような翼を持ち、群れで行動する竜だ。

灰色の体躯で、飛べるが空は余り得意ではなく、地上での攻撃が多いとされる。


だが、俺の特性で第五階位相当へと昇格したその魔物は、異質な進化を遂げていた。

黒石の巨人と同等以上の体躯を持ち、全てが漆黒に染まっている。

人間を一飲みできそうな巨大な顎。

翼は完全に消失し、前足も退化したように小さい。

しかし、その代償として得た強靭な後ろ足と尻尾は、全てを薙ぎ払えるごとき太さと質量を見せつけ、背中には鋭い棘が仄暗く光っていた。


階位昇格により姿を大きく変えるのは今に始まった事ではないが、それは俺の知識にある蝕燐竜とは似ても似つかず、かけ離れた凶悪な姿であった。

召喚した本人であってもその威容には圧倒されてしまう。


蝕燐竜は大気を震わせるほどの咆哮を上げると、床を踏み砕き、騎士に向かって突進した。


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