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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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奥から奥から湧いてくる、八つ裂き百足の群れ。

無限湧きかと疑いたくなるほどの物量だが、冷静に観察すれば発生源は一つではないことがわかる。


俺は辟易としながら黒兵士たちに百足の処理を任せ、ジリジリと前進していく。

百足の主力は奥から波のように押し寄せてくるが、実はそれだけではない。

壁面に開いた無数の小さな穴。

そこからも大小様々な毒蟲が潜み、隙あらばこちらの横腹を食い破ろうと狙っている。

百足の進軍を泥の粘着性で足止めさせながら、同時に泥人形を壁面へ展開し、蟲の潜む穴という穴を徹底的に埋めて塞いでいく。

物理的な封鎖。

窒息死するならそれでよし、出てこれないなら無視するまでだ。


「回収しろ」

追加でゴブリンを二体召喚し、背後で山となった百足の死体から魔石を剥ぎ取らせる。

資源の回収も忘れない。

彼らは戦闘には不向きだが、こうした雑用においては文句一つ言わずに働く優秀な労働力だ。


百足の勢いが途切れ始めた頃。

時を同じくして、進んでいた洞窟内の背景にも明確な変化が生じた。


暗く湿った自然洞窟の岩肌から、黒いレンガが幾何学的に組み合わさった人工的な通路への変化だ。

唐突な建築様式の変遷。

まるで別のダンジョンに接続されたかのような違和感。


家長さんからこのダンジョンについて聞いた時に軽く調べたデータが脳裏をよぎる。

ここは全五階層の洞窟型。

鍾乳洞がメインのフィールドであり、最終階層に至るまでその構成は変わらないはずだ。


しかし今進んでいる黒いレンガ調の迷宮は、管理所の記録にも、ネット上にも存在しない。


階層途中でのダンジョン変化――変異体で間違いないだろう。


いくら命がけの死傷率が圧倒的に高い職業である探索者と言えども、昨今のSNS大時代の時分に、指名依頼でもないのに検索すれば危険度がわかるボスに挑んで全滅するような馬鹿は少ない。


あの少年たちのパーティーも、相応の準備と勝算を持って挑んだはずだ。

だが彼らは壊滅した。

少年は「魔法が効かない」と言っていた。

このダンジョンの正規ボスは「浮遊騎士」と呼ばれるアンデッド系の固定配置(奥から動かない)であり、魔法耐性に関する情報は皆無だ。

物理攻撃主体の敵に対し、一方的に蹂躙されることはあっても「効かない」という事態は考えにくい。


つまり、ボスそのものが変異している。

変異体は元になった魔物の特徴を残す傾向がある。


――――全く、問題はない。


俺はそこまで考えると、意識的に思考を放棄した。

これ以上の推測は無用だ。

黒レンガ調の迷宮に召喚獣を引き連れてズカズカと踏み込む。

一見無防備に思えるほど堂々とした進軍。

だがゴアデビルの杖を握りしめ、全身の感覚は極限まで研ぎ澄まされている。


森林狼に促されるように、入り組んだ曲がり角を何度か進む。

不意に違和感。

一度自分が通り過ぎた位置。

その壁面に、ほんの一瞬だけ視界の隅で空間が揺らいだ気がした。

蜃気楼のような、あるいは水面のような揺らぎ。


その瞬間俺は振り返り、一切の躊躇なく叩き込む。

黒石の巨人の召喚。


狭い通路を埋め尽くすほどの巨体が顕現し、壁面を真横から殴りつけた。

轟音を立ててレンガの壁が崩れ去る。

だが、手応えがない。

揺らぎの主は既にそこにはいなかった。

無意識に舌打ちが出た。

――やり損ねた。


洞窟内では天井の低さから召喚を控えていた黒石の巨人だが、ダンジョンの様相が変わりレンガ調になった辺りから、ここが()()()()()()()()()であることは泥人形の探知を通して理解していた。

構造体としての強度は低い。

ならば壁を壊しても問題はない。

道なき道を強引に開拓するほうが、待ち伏せを回避できる。


俺はそのまま更に黒石の巨人に命じ、付近の壁を次々と粉砕させた。

迷路を物理的に攻略していく。


「追え!!」

そう言うと俺はゴアデビルを先行させた。

壊した壁の向こう側、土煙の舞う曲がり角へゴアデビルが滑り込む。


俺は黒石の巨人で壁を破壊しながら一直線に向かう。

追走しながら森林狼の様子を伺うが、匂いが遠ざかっているようだ。

生存者の匂いは逆方向。

まずはこいつを殺す事を優先する。


程なくして、壁をぶち抜いた先に広い広場が現れた。

天井が高く、四方に松明のような青い炎が灯っている。

祭壇のような場所だ。

恐らくは元々ここに正規ボスが鎮座していたのだろう。


そこに、ソイツはいた。


黒い人面蛙のような造形をした、二足歩行の魔物。

ヌメリとした皮膚を持ち、人間のような筋肉質な手足が生えている。

そいつは半身を地面の影から出し、俺と目が合うとズルリと残りの体を全て地表に出した。


影の中を移動できる魔法、あるいは特性。

壁の揺らぎも、神出鬼没な襲撃も、全てはこの能力によるものか。


「便利そうだな」

俺が皮肉交じりにそう一言を言うと、蛙はギョロリとした目を細めた。


そして残った手の先、足元の影から何かを引きずり出し始めた。

ズズズ……と影が盛り上がる。

その蛙の手に手繰り寄せられるようにして引っ張り出されたのは、装備がズタズタに引き裂かれ、泥と血にまみれた傷だらけの若い女性だった。

ぐったりとして意識はないようだが、胸が微かに上下している。

生存者だ。


影から出した途端、傍の森林狼が唸り声を上げ、牙を剥いて吠えた。

匂いの主。

間違いなく探していた遭難者の一人だ。


知能が高い魔物。

それも、人間を人質に取り、盾にするような狡猾さを持つ個体。

「魔法が効かない」というのは、物理的な耐性ではなく、この影の中に潜む事によって攻撃を無効化していたのか。



そっとゴアデビルの杖をその場に置いた。

そして指輪と腕輪の発動も断つ。

ゴブリンや森林狼、ゴアデビル、黒石の巨人と黒兵士たちが光の粒子となって消滅する。

最後に両手を上げ、敵意がないことを示した。

武装解除。

降伏のポーズ。


一番大きな脅威であった黒石の巨人がいなくなり、俺一人に対して蛙の警戒が緩んだように見えた。

蛙は女性を片手で乱暴に持ち上げると、濡れた足音を立てて二足歩行で近づいてくる。

人質を盾に、獲物を確実に仕留める間合いまで詰めるつもりか。


近づく。

三十メートル。

二十メートル。

十五メートル。

十メートル。


ふと、蛙は止まった。

俺と、手の中の女性を交互に見る。

その醜悪な顔に、嗜虐的な笑みのようなものが浮かんだ気がした。

次の瞬間。

蛙は俺に向けて、槍のように鋭く伸びる舌を突き出した。


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