表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/93

42

「……分かりました」

職員の必死な懇願に対し、俺は努めて冷静にそう答えた。


正直なところ、内心では「えー」と言いたい所ではあった。

ついさっき手に入れたばかりのユニーク遺物。

それを試すなら別のダンジョンでやりたかったのが本音だ。


『探索者は自己責任』

探索者なら誰もが口にするドライな言葉だ。

しかし、人の命が、それも複数の命が今まさに失われようとしている現状で、その言葉を盾に断れるほど俺は擦れていなかった。


指名依頼を承諾した俺は、すぐに一人だけ最奥から逃げ帰ってきたという少年に話しかけた。

まだ十代後半だろうか。最低でも第三階位到達者であると言う事は、それなりに期待されたルーキーだったはずだ。


しかし今は全身泥だらけで、装備はボロボロ。

顔色は青白く、震えている。


「あ、あのっ! みんなが! みんながまだ奥に!」

俺の姿を見るなり、少年は椅子から転げ落ちるようにして駆け寄ってきた。

猛烈な剣幕。

パニックで過呼吸気味になりながら、怒涛の早口で状況をまくし立てる。

「ボスが、強くて、魔法が効かなくて、それでリーダーが俺だけ逃がしてくれて、でも通路が塞がれて……!」


支離滅裂な説明だったが、要約するとこういうことだ。

第三階位のパーティーで挑んだものの、最奥のボスに歯が立たず壊滅状態に陥った。

一人だけ第四階位のリーダーと殿を務めた仲間たちが時間を稼いでいる隙に、彼一人が助けを呼ぶために走った。

典型的な、そして最も残酷なダンジョンの失敗例だ。


俺は彼の肩を掴み、落ち着かせるように頷く。

「わかった。情報をくれ」

「じょう、ほう……?」

「仲間達の身につけていた物はないのか? 何でもいい、匂いが残っている物だ」


そう聞くと、彼はハッとして背負っていた鞄を差し出してきた。

「こ、これ! リーダーの予備の服とか、タオルが入ってます!」


俺は職員に許可を取り、その場で指輪を発動させた。

管理所のロビーがざわめく。

一瞬の閃光と共に現れたのは、巨大な白銀の狼。

ロビーにいた他の探索者たちが、ギョッとして道を開ける。

俺は少年の鞄を狼の鼻先に突きつけた。

「この匂いだ。覚えられるな?」

グルル、と低く唸り、狼は明確な同意を示した。


準備は整った。

早速ダンジョンへ入ろうとゲートへ向かう。

すると、背後から「待った」が掛かった。


「おいおい、兄ちゃん一人で行かせるわけにはいかねぇよ」

「オレ達もここのダンジョンの常連さ、力になるぜ」

「そうだ、数が多い方が生存率は上がる!」


そう言ってゾロゾロと出てきたのは、ロビーに居合わせた探索者たちだった。

装備の質から見て、第三階位のベテラン勢だろう。

善意からの申し出だ。

正義感の強い彼らは、若者が一人で死地に飛び込むのを見過ごせなかったのだろう。


だが、今はその善意が足枷になる。


俺は足を止め、彼らを振り返った。

「お気持ちはありがたいですが……最奥のボスを倒した事はありますか?」


俺の問いかけに、彼らの動きが止まる。

「え……いや、ボス部屋までは行ったことあるが……」

「まだ攻略中だが、道案内くらいは……」

いずれも顔を伏せ、歯切れが悪くなる。


そりゃそうだ。

このダンジョンの最奥ボスを倒せる実力者がいるなら、そのパーティーがとっくに向かっているはずだし、そもそも遭難騒ぎにはなっていない。

彼らは「常連」ではあるが「攻略者」ではないのだ。

未踏破の人間を連れて行けば、彼らを守りながら進むことになる。

それは二次遭難の元だ。


「それでは、自分一人で攻略します」

俺はきっぱりと告げた。

「皆さんは後から入って、万が一入り口付近まで魔物が溢れてきた場合のスタンピード対策をお願いします」


俺の言葉に、探索者たちが色めき立つ。

「はあ!? お前一人で何ができるってんだ!」

「いくら第四階位って聞いてもソロだろ? 無茶だ!」

「死にに行くようなもんだぞ!」


ざわつきが怒号に変わりかけた。

彼らの心配はもっともだ。

だが、説得に費やす時間すら惜しい。

俺は職員の方を一瞥し、事実だけを告げることにした。


「自分は、Aランクダンジョン踏破者です。なので、大丈夫です」


静寂。

喧騒が嘘のように止んだ。

「……は?」

「え、Aランク……?」


Aランクダンジョン踏破者。

事実上の最高峰の実績。

その肩書きは、すぐ近くにいる管理員が証明できる絶対的な真実だ。

管理員が深く頷くのを見て、探索者たちの顔色が疑念から驚愕、そして畏怖へと変わっていく。

階位だけではない。

明確な実績という暴力は、彼らを黙らせるのに十分すぎる威力を持っていた。


「……頼んだぞ、兄ちゃん」

誰かが絞り出すように言った。

俺は無言で頷き、職員に一礼してゲートをくぐった。


――『洞窟型』。


視界が切り替わると同時に、湿った冷気が肌にまとわりつく。

中は薄暗い。

だが完全な闇ではなく、ダンジョン特有の発光現象で壁面の苔や鉱石が青白く光り、全体の構造は把握できる。

どこからか地下水が流れ出ているのか、足元の岩場は常に濡れて黒光りしており、不用意に走れば足を滑らせそうだ。

天井を見上げれば、鋭利な槍のような鍾乳石が所々に垂れ下がっている。

これまで俺が攻略してきた「解放型」の森林とは異なり、明確に階層毎に区切られた「階層型」。

最もオーソドックスで、かつ閉鎖的な圧迫感のあるタイプだ。


このダンジョンは管理員の情報によれば、全部で五階層。

道中の魔物は最大でも第三階位までしか出現せず、問題となっている最奥のボスのみが第四階位相当らしい。


俺は安全に、かつ速度優先で駆け抜ける陣形を組む。

指輪をかざし、再び森林狼を召喚。

狭い洞窟内でも機動力を発揮できる、一際大きな魔物だ。

その背に跨がり、同時にゴアデビルも召喚して前衛に置く。


そして、ここからが新しい試みだ。

「泥人形」

足元のアンクレットが淡く光る。

地面から泥が噴出し、不定形の泥人形が形成される。

だが今回は人型を作らせない。


俺の指示を受けた泥人形は、アメーバのように狼の背と俺の腰周りを覆い、硬化した。

即席のシートベルト兼、鞍だ。

以前の逃走劇で、ロープにしがみつきすぎて掌が血まみれになった教訓を生かした。

泥人形の粘着性と硬化特性を利用し、完全に狼と一体化する。

これにより森林狼への重量負担は増すが、振り落とされるリスクはゼロになり、俺自身が体力を消耗することなく高速移動が可能になる。


「匂いは覚えているな?」

狼の首筋を撫でる。

先ほど嗅がせた少年の鞄の匂い。そこに含まれていた仲間たちの残り香。

本格的な追跡は五階層に到着してからになるが、方向の当たりをつけることはできる。


「全速力だ。駆け抜けろ!」


ドンッ、と爆発的な加速。

俺の体は泥のベルトに支えられ、微動だにしない。

湿った風を切り裂き、俺たちは暗闇の奥へと突き進んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ