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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「そうか! じゃあすぐに出来るからちょっと待っとれ」

足元の女の子がそう言って両手を広げる。


俺は躊躇なく黒薔薇の指輪と腕輪を彼女の小さな掌に乗せた。

彼女はそれを大事そうに抱えると、トコトコと短い足を回転させて茅葺き屋根の小屋へと走っていった。


残されたのは背の高いヒヨコ頭の男性と俺だけだ。

桜の花びらが舞う中、奇妙な二人きりの時間が流れる。

俺たちは自然と世間話を始めた。

男性はトリノ、女の子はヒヨリと言うらしい。

自己紹介が遅れたことを詫び、俺も改めて名を名乗る。


場を和ませようと背嚢からチョコレートバーを取り出し勧めてみたが反応はイマイチだった。

デラボネアが取引にチョコを要求したため「そっち側」の住人には鉄板の嗜好品かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


「デラか。懐かしい名だ」

デラボネアの話をするとトリノは嘴を緩めた。

どうやら旧知の仲らしい。

「あのユニークたちはデラとの取引か。なるほどな」

俺の遺物の出処にトリノは納得したように頷いた。


ユニーク遺物。

それは遺物に付与された効果が過去にどの媒体でも確認できていない物を指す。

文字通りオンリーワン性能の遺物だ。

召喚魔法の遺物においてはその定義にプラスして「どのダンジョンでも目撃されていない魔物」であることも含まれる。


俺が使役していた黒薔薇の装飾がついた黒兵士や巨人。

それらはスケルトンやゴーレムに酷似しているが、似て非なる魔物。


ちなみにユニークだからと言って必ずしも強いとは限らないのが探索者の常識だが、俺にとっては頼れる魔物たちだ。


たわいない会話で時間を潰していると、小屋の戸が勢いよく開いた。

ヒヨリが戻ってきた。


「出来たぞ人間!」

小さい嘴を得意げに突き上げ、彼女は指輪と腕輪を差し出してくる。

見た目の装飾に大きな変化はない。

相変わらず黒い薔薇があしらわれた、重厚で美しい細工だ。

だが手に取った瞬間、流れ込んでくる情報の質が変わっていた。


【媒体:指輪】

効果:武装した骨の兵士を5体召喚する。

666秒間、黒薔薇の騎士団を召喚する。


【媒体:腕輪】

効果:黒石の巨人を1体召喚する。

666秒間、黒薔薇の守護者を1体召喚する。


「おお! つ、強い……!」


俺は思わず声を上げた。

名称が変わっている。

兵士から騎士団へ。巨人から守護者へ。

脳内に浮かぶイメージだけで、その装甲の厚さと武骨な強さが伝わってくる。

俺の反応を見てヒヨリはすっかり気分を良くしたのか、ふふんと羽毛の胸を張った。


「ぶっちゃけ過剰に魔石を貰ったからな。おまけも渡そう!」

そう言うとヒヨリは俺の膝に赤い腕輪を置いた。

華奢で薄く、細い腕輪だ。


「これは?」

「ちゃんと召喚魔法の遺物だ。お前は召喚魔法しかダメなんだろう?」

別に召喚しか使えないわけではないのだが……と思いながらもありがたく手に取る。

新たな手札が増えるのは歓迎だ。


【媒体:腕輪】

効果:張り切り妖精を2体召喚する。

張り切り妖精の装備物は次回召喚時に持ち越される。


聞いたことのない魔物だった。

「もしかしてこれもユニーク?」

「そうだとも。ただ戦闘にはてんで使えんからお前にやる」

「ありがとう」

戦闘に使えないという召喚獣。

だが「装備持ち越し」という特性に俺の直感が反応した。

俺はその場で妖精を召喚してみる。


淡い光と共に現れたのは人型の男女ペアだ。

身長は人間と同じくらい。

粗末な麻の服を着ており、顔には奇妙なお面をつけている。

肌が少し透けていて幽霊のように見える以外は、人間と見間違えそうな外見だ。


「手先は器用だぞ」

ヒヨリは最後にそう付け加え、笑った。


俺はトリノとヒヨリに深く礼を言い、桜並木のダンジョンを後にした。

新たなユニーク遺物を入手し、主力の強化まで完了した。

ホクホク顔とはまさにこのことだ。

足取り軽くゲートをくぐり、現実世界へと帰還する。


会議室の扉を開け、受付へと向かう。

機密書類にサインまでしたのだから、無事に帰還した旨を一言職員に伝えて帰ろうとした。

だが、受付の様子がおかしい。

職員たちが血相を変えて走り回っている。


俺が声をかけようとすると、逆に向こうから詰め寄られた。

「春花さん! 良かった、帰ってきてくれた!」

先ほど知り合ったばかりの職員が俺の腕を掴む勢いで懇願してくる。

「緊急事態なんです。指名依頼で協力出来ないでしょうか?」


話を聞くと一般開放されている方のダンジョンで、第三階位のパーティーが遭難したという。

メンバー四人のうち三人が最奥近くで取り残され、連絡が途絶えた。

人気のダンジョンでは無い為、すぐに救助に向かえる高階位の探索者が出払っており、たまたま管理所に居合わせた「第三階位以上」の俺に白羽の矢が立ったのだ。



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