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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「……試してないこと?」


震える声でミルが問い返す。

その瞳には困惑と微かな恐怖が混じっていた。

死体を持ち去り遺物を剥ぎ取るという冒涜を行った彼女でさえ、俺がこれからやろうとしている「確認作業」の異質さを本能で察知したのだろう。


「そうです」

俺は短く答えミルの横を通り過ぎる。


木陰の向こう側。

巨木の根元に広がる窪地には、異様な光景が広がっていた。

紅蓮人、メルトアの森、翡翠。

今回の「同士討ち」によって命を落とした十数名の遺体。

恐らくミルの持つ収納系遺物によって運搬され、寝かされているのだろう。

ダンジョンの浄化作用を受けず、死後の凄惨な姿を濃く残している。


死因は様々である。

鋭利な刃物で切り裂かれ真っ二つになっているもの。

高火力の魔法を受けたのか半身が炭化し崩れているもの。

あるいは何か巨大な杭のようなもので穿たれた大きな刺し傷を持つもの。

異臭が鼻をつく。

鉄錆のような血の臭いと、焦げた肉の臭いが混ざり合い胃液をせり上げさせる。


俺はその地獄絵図の中から、一人の男を見つけ出した。

桐生大牙。

第五階位パーティー「紅蓮人」のリーダーにしてエース。

その姿はあまりにも無惨だった。

上半身が脇腹から逆袈裟に断ち切られ、皮一枚で繋がっているような状態だ。

内臓がこぼれ落ち、事切れている。


確か……彼は最期にレンに抱きかかえられ、ルカが治療系の遺物を使っていたはずだ。

だがこの傷を見る限り、どんな遺物を使おうと助かる見込みはなかっただろう。

即死に近い致命傷だ。


俺は腰に提げている「錆びた小振りのナイフ」に意識を向ける。

一瞬の光の中から召喚されたのは、通常の個体よりも一回り大きく筋骨隆々な二匹のゴブリンだ。

手には錆びていない同型のナイフを握っている。


「やれ」


俺は一言そう命じた。

ゴブリンは無言で頷くと、桐生大牙の亡骸に馬乗りになった。

そして躊躇なく、その胸元――心臓があるべき場所へナイフを突き立てた。


ズブ、と鈍い音が響く。


「えっ! 何を!」

近くで見ていたミルが悲鳴のような声を上げる。

彼女が慌てて止めに入ろうとするが、俺は片手を上げてそれを制した。

「見ていてください。必要なことなんです」


俺は冷徹に言い放ち、ゴブリンに作業の続行を促す。

ゴブリンは慣れた手つきで胸郭をこじ開け、肉を削ぎ、その奥にある「核」を探る。

通常の人間ならば、そこにあるのは心臓と肺、そして骨だけだ。

だが俺の仮説が正しければ。

このダンジョンで起きている異常事態の「正体」がそこにあるはずだ。


ゴブリンの手が止まる。

何かを掴み、引きずり出す音。

ヌチャリという粘着質な音と共に、ゴブリンが掲げたその手には、夕闇の中で妖しく輝く結晶体が握られていた。


拳大の、()()だ。


それを見た瞬間、俺の中でバラバラだったピースがカチリと噛み合った。

推測が確信に変わる。


「ありえない……」

ミルの顔から血の気が引いていく。

彼女はその場に膝をつき、信じられないものを見る目で結晶体を凝視した。

「人から……魔石が出るなんて……」


魔石。

それは魔物の心臓部であり、魔力の源。

ダンジョンが生み出した怪物からのみ得られる資源だ。

人間をどれだけ解体しても、腎臓結石はあっても魔石が出てくることはありえない。


「ただの人間ならありえないと思いますよ。でも、コレはもう人間じゃなかった。魔物だったんです」


俺は淡々と事実を告げる。

「――紅蓮人の桐生大牙は魔物だ。いや、魔物になったと言うのが正しい」


ミルやルカ、そしてレンたちの「誰かが嘘をついている」という対立構造そのものが間違っていたのだ。


「確認させてください。桐生大牙さんは、ミルさん達を守って死んだんですよね?」

俺が問いかけると、ミルは呆然としたまま頷く。


「ええ……そうよ。他の紅蓮人のメンバーがいきなり襲いかかってきて……桐生さんは私達を庇うようにして前に出た。それで深手を負ったの。それは確かよ。桐生さんが私達を襲おうとしていたのとは間違わない」


彼女の証言に嘘はないだろう。

桐生大牙は最期、人間の理性を持って戦っていた。

だが、その体は既に蝕まれていたのだ。


「そうですよね。……他の人達も確認しましょう」


俺はゴブリンに指示を出し、他の死体も改めさせる。

残酷な作業が続く。

だが結果は雄弁だった。

紅蓮人のメンバーと思われる二人の胸からも、同様に魔石が剥ぎ取られた。


「魔物は恐らく複数いた。二匹か、三匹か」

転がった血塗れの魔石を見下ろし、ミルは言葉を失っている。

探索者として常識外の光景。


「あくまで当時の証拠はないですが……桐生大牙が最期に言った『混じってる』という言葉――」


自分の体の中で蠢く異物の存在。


「それは、その場にいた翡翠やミルさんの中に魔物が混じってるという意味ではなく。桐生大牙、()()()()に混じっているという意味もあったのではないでしょうか」


「自分自身に……?」


「はい。僕は話を聞いて最初は魔物がドッペルゲンガーのように人の姿を真似て、流暢に言語を話し溶け込んでいると考えていました。ですが恐らく……この魔物は違う」


俺は魔石を拾い上げ、その歪な輝きを月光に透かす。

「寄生するような形で人体に入り込み、脳や脊髄を支配する。宿主の記憶や能力を使いながら潜伏し、本性を現す。自分の意思とは関係なく、自らの中で魔物が暴れ出すまで自覚がない。しかし完全に乗っ取るわけではない」


ウイルスのような、あるいは呪いのような生態。

彼自身、その時が来るまで自分が魔物の苗床にされていることに気づいていなかっただろう。

恐らく彼は自分の意思と異なり、仲間を襲うその瞬間に自分の肉体の中に「何か」が居る事を悟り、主導権を取り返したのちに翡翠やミルと出会い警告したのだ。


『気を付けろ、(俺の中に)混じっている』と。


俺の結論を聞いて、ミルは震える唇で一言漏らす。

「じゃあ……寄生の条件は……」


そこが最大の問題だ。

どうやって感染するのか。

空気感染か、接触感染か、それとも傷口からか。


「わかりません。ただ、恐らく残りは一匹であることは推測できます。そしてやはり、今の寄生主がルカだと言う事も」


俺は冷静に分析を続ける。

「もし二匹以上、つまりレンとルカの両方が既に寄生されて発症していたなら、とっくにアクションがあってもおかしくなかった。寝込みを襲うチャンスはいくらでもありましたから。そして同じようにミルさんでもない」


翡翠のどちらに寄生していてもレンと言う目下の脅威は消えていない。

正面からぶつかれば俺の召喚獣の壁など数秒で突破され首を飛ばされるだろう。


「ところで……その見たこともないような大きさの魔石を吸収すれば、ミルさんは第五階位に上がりませんか?」


俺が最後にそう言うとミルはばっと顔を上げた。

その瞳には嫌悪と、それ以上の渇望が混ざり合っていた。


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