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沈痛な面持ちで、俺は戦場を後にする。
やや歩いて土嚢や溝が作られた、簡易なバリケードを乗り越える。
驚くほど静かなダンジョンだった。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、死の静寂が満ちている。
そのダンジョンを後にしようと、俺は入り口があった方向へ目を向ける。
目を……向け……た。
「……」
外に通じるはずの薄い膜の出入り口は、何も無かった。
周辺を確認する。見間違いではない。
それでも見つけられない。
俺は深いため息を吐きながら、その場へ座り込んだ。
入り口があったはずの空間には何もなく、ただダンジョンの風景が地続きで奥へと広がっているだけだった。
閉じ込められたのだ。
「……お腹、空いたな」
現実逃避に近い独り言が漏れる。
背嚢は背負っていたが、その中身は普段のダンジョン攻略とは違う。あくまで防衛戦用の軽装備だ。中はスカスカだった。
背負っていた背嚢から荷物を広げる。
小ぶりなサバイバルナイフ、ロープ、そしてチョコレートバーが5本。
半分程飲んでしまったペットボトルの水。
以上だ。
俺はチョコレートバーを一つ空けて、無心で齧る。
甘さが脳に染み渡る。
……うめぇ。
――――
僅かな休憩の後、俺は背嚢に入っているナイフとは違う、刀身にボロボロの布が巻かれたナイフを取り出した。
中身は錆びついているが、これはゴブリンを召喚する遺物である。
布は外さずに柄を握り直し、ゴブリンを2匹召喚する。
現れたのは、通常の個体に比べて階位が上がり、緑色の筋肉が隆起した筋骨隆々のゴブリンだ。
俺は彼らに指示を出し、付近に散らばる大量の魔物の死骸から、魔石の回収を命じる。
そして、その護衛として黒馬を付き添わせる。
いくら強化されたとはいえ第二階位相当のゴブリンでは、不意の接敵であっさり倒される恐れがあるからだ。
俺自身の護衛は、ゴアデビルが側にいればいい。
出口が無くなった事実には面食らっているが、その例を聞いた事はある。
一度侵入したらボスを倒すまで出られない一方通行のダンジョン、あるいはある程度の階層を進み、特定の条件を満たすまで出られなくなる特殊なダンジョンなどの噂は、耳にしたことがある。
最悪のケースは、先行した紅蓮人のパーティーが奥のボスを倒し、「何らかの遺物」で自分たちだけ脱出し、その後にダンジョンの入り口を破壊して閉じた場合だ。もしそうなら、俺は完全に閉じ込められたことになる。
……あまり考えないようにしよう。
悪い想像は思考を鈍らせる。今できる事に集中するんだ。
もし取り残されていたとしても、以前会ったデラボネアはダンジョン間を自由に行き来していた。
この世界には、そういう理屈を超えた遺物もあるだろうと楽観視することにする。
「爆発牛って、うまいかな……」
直面している最大の問題は、水分と食料だ。
このダンジョンは最低でもここ一階層は森林型。
食料になりそうな魔物はいるし、植生があるなら水も探せばあるかもしれない。
俺はゴアデビルと共に、死屍累々の元の戦場へと戻ってきた。
比較的、毒を持つ魔物の死骸とは離れた位置に倒れていた爆発牛を選ぶ。
俺はナイフを入れ、その腹部の肉を切り取った。
肉質は赤身で、匂いは普通の牛肉と変わらない。いけそうだ。
ゴアデビルに指示し、へし折った木を集めさせる。
着火剤はないが、関係ない。
悪魔は火槍を放つ。生木だろうが、魔法による圧倒的な熱量の前では一瞬で炎が上がった。
俺は適当な枝に肉を突き刺し、焚き火で炙っていく。
脂が落ち、香ばしい匂いが立ち込める。
しばらくすると、ゴブリン達が戻ってきた。
背嚢の中のチョコレートバーを買った時に入れていたレジ袋が、今は魔石でパンパンに膨れ上がっている。
ゴブリンはそれを俺の近くの地面にボトボトと落とすと、また回収へと走っていった。
ざっと見る限り、40〜60個の魔石か。
第一階位と第二階位が混合しているため、質は大した物ではないが、塵も積もれば山となる。
片手で魔石を握り、次々と吸収していった。




