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青龍のメンバーたちは背後を振り返り、狼狽した。
使役されていた強力な召喚獣による「龍光」。あのもたらされた破壊の一撃は、我々が逃亡するための十分な時間を稼いだように思えた。
だが、破壊の余波があまりに大きすぎた。視認できていなかった悲鳴茸が巻き込まれ、絶命時に放った呪いの音が、俺たちの足を縫い付けたのだ。
不快な音だ。鼓膜を突き破り脳を直接揺らすような不協和音に、咄嗟に両手で耳を押さえる。
それでもなお、指先に痺れが出るほどの衝撃だった。
顔を歪ませて振り返れば、先ほど自分に生意気な意見を吐いた男が、糸が切れたように倒れるところだった。
それを囲むように、不気味な黒い召喚獣達が動きを変える。
彼らは攻撃を止め、倒れた男を守るように側に控えた。
龍光で消し飛んだ正面ではなく、左右の木陰から新たな魔物が現れる。
第三階位に位置する飢餓猪だ。興奮した鼻息を荒くし、突進してくる。
「陣形を組め! 迎撃しつつ下がるぞ!」
俺達は腐っても第三階位のパーティーだ。
即座に前衛が盾を構え、突進を受け止める。
俺は遺物である「赤灼刀」を抜き放ち、横薙ぎに斬りつけた。
刀身から噴き上がる炎が、龍の息吹のように舞い、飢餓猪の硬い毛皮を焼き斬る。
奥の召喚獣達に視線をやるが、彼らは先ほどと打って変わって、不気味な程に何も動かない。
助力は頼めない。
そして、倒れたあの男を助けに行く余裕など、今の俺達にはない。
不本意だがこのまま左右から湧いてくる魔物を殺しながら、入り口へ向かってジリジリと下がっていくしかない。
ジリ貧だが、それしか道はない。
飢餓猪を2匹、3匹と殺しながら下がる。下がる。
だがその時、味方から悲鳴が上がった。
先ほどの龍光によって、魔物の勢いは当初よりも劇的に削がれていたはずだ。
この程度なら、多少時間が掛かっても崩れるような俺達ではないはずなのに。
なぜ。
その答えは、すぐにわかった。
大きな盾を持って前線維持に努めている2人の盾役。
そのうちの1人の盾に、「毒山蛙」がへばり付いていた。
恐らくパニックになった盾役が、剥がそうとして半端に剣で切りつけてしまったのだろう。
切り傷が付いた毒山蛙は、防衛本能でその傷口から猛毒の体液を辺りに撒き散らし、口からも体液を盾の上から吐き出していた。
その毒液は対策していないと皮膚についただけで激しい痒みや湿疹を引き起こす。
何より俺達は、先ほどまでの激戦で細かい傷を無数に負っている。毒が回るのは一瞬だ。
――まずい。
そう認識するよりも先に、彼はガランと音を立てて大盾を落とした。
毒による急性の麻痺で、盾を保持する握力すら失ったのだ。
「――魔法で殺せ!!!」
俺はすぐに後衛へ指示を飛ばす。
分かってる。味方が近すぎて誤爆の危険があるため、躊躇していることなんて。
それでも、今やらなければ全員死ぬ。
だが、その一瞬の遅れが命取りだった。
躊躇った魔法遺物持ちよりも先に、盾を失い無防備になった男へ向けて、毒山蛙が追撃の毒液を吐き出した。
顔面に直撃する。
数多の魔物に囲まれても、連携で対処し切っていた青龍は。
この瞬間に瓦解した。
その後すぐに魔法で毒山蛙を殺したが、陣形から1人抜けた穴はあまりに大きすぎた。
毒液を全身に被り、泡を吹いて気絶した男に、毒荊棘虫の群れが黒い絨毯のように集り、その肉を喰らい尽くす。
それを見たもう一人の前衛が動揺し、その隙を突いた飢餓猪に脇腹を貫かれ、絶命した。
――そこから一人とまた一人と殺される。
最後に残った俺は、すぐ横でオークの棍棒によって頭蓋を潰された仲間達の濡れた音を聞きながら、「赤灼刀」を握り直す。
最後に、1匹でも多くの魔物を道連れにするために、俺は燃え盛る刃を振るった。




