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目が覚めて、まず感じたのは強烈な空腹だった。
枕にしてあった背嚢から缶詰を取り出し、貪るように食事をする。
自分が眠っている間に、敵襲などの異常はなかったようだ。
腹を満たし、水分を補給してようやく人心地がついた。
黒兵士が集めてきた魔石は小山のように積まれているが、まだ全てを回収しきれておらず、大部分がホールに散らばったままだ。
背嚢の時計を確認すると、丸一日寝ていたようだ。
右肩が大きく腫れ上がっており、動かせない程の激痛がある。
念の為持ってきていた痛み止めを飲み、ゴブリンを召喚。
ホールの魔石を全て集めるよう指示を出す。
――結構な時間が掛かったが、集まった魔石は500〜600個はあるように感じる。
スケルトンのドロップ品にしては、魔石の質が異常に良い。
全て吸収していく。
……だが、第三階位への昇格には、あと少し届かなかった。
階位が上がるにつれて要求量が跳ね上がるとは聞いていたが、この質の魔石をこれだけ注ぎ込んでも足りないのかと驚愕する。
「ボーナス部屋」と言っていたのは伊達じゃない。
ホールの最奥へ進むと、宝箱が二つと、地面に突き刺さる人の背丈の2倍程ある巨大な大剣があった。
罠の可能性があるため、ゴブリンに回収させる。
【媒体:ネックレス】
効果:300秒間、筋力を2倍相当に強化する「狂化」を使用可能。
【媒体:短剣】
効果:水の魔力を刀身に纏う。
【媒体:大剣】
効果:対象者の反射神経を強化。
大剣は明らかに巨大すぎて、物理的に持って帰れそうにはない。
短剣とネックレスはどちらも高値で売れるだろうが、俺は迷った末、短剣を「自己強化」に使用することを選んだ。
短剣が光となって体内に溶ける。
その瞬間、器から溢れる感覚があった。
――第三階位への昇格。
それによってスロットの枠が、また一つ増えた。
俺は残った大剣の遺物効果を抽出し、スロットへ装備した。
今回のゴアデビル戦で、俺は自分の弱点と必要な能力を痛感したからだ。
「反射神経」の強化。今後の戦いでは確実に必要になる能力だ。
黒馬に跨り、ゴブリンを回収して進む。
階層変更の半透明の膜。そこを潜り抜けると、金山ダンジョン4階層(ボス部屋前)へ出た。
ボス部屋前で待機していた2組の探索者パーティは、突如現れた「黒馬に乗ったボロボロの男」を見て絶句していた。
俺はすぐに救護され、金山ダンジョンの管理所へ搬送された。
――――
あれから1週間が経過した。
金山ダンジョンは「転移罠」の事実が周知され、一時封鎖されたが、翌日には再開された。
管理所が把握している侵入者数と帰還者数を照合しても不審な点はなく、今まで転移罠での行方不明者は確認されていないとの事だ。
死の危険があるダンジョンでは行方不明=死亡として処理されやすいが、侵入人数が多く目撃証言や遺品が見つかりやすい金山ダンジョンにおいて、今回の件は「イレギュラー中のイレギュラー」という結論に至ったらしい。
俺はというと、「狂化」のネックレスの売却益8000万円と、以前預けた火球の斧などのオークション売上30万円を受け取った。
見たことのない通帳の桁数に、現実味が湧かない。
複数の骨折箇所があったが、その内500万円程を使用し、回復魔法にて完治させた。
「たった3日で第三階位とは恐れ入る。スーパールーキーではないか」
事情聴取に来たダンジョン管理所の役員にそう言われ、悪い気はしなかった。
――運が良かっただけだが。
第三階位になると、社会的な信用も大きく上がる。
「稼げる」探索者として、実力が保証されるからだ。
今なら大手探索者企業や、有名クランへの就職も選び放題だろう。
実際、入院中に来た企業や他パーティからの勧誘はあった。
だが、俺は全て断った。
ソロでの攻略に、俺は固執した。
1番気楽で、1番楽しくて、好きに出来るから。
「ソロは危ない」と散々言われたが、そもそも危険を承知で探索者になっているのだ。
何を今更、と呆れてしまった。




