12
「全力で殺せ!」
これまで「全力」の戦闘など無かった。
俺は黒馬に跨がり、戦場を見据える。
召喚生物に疲労はない。出し惜しみは不要だ。
背後の扉が、重い音を立てて閉められた。
バチバチと帯電する黒馬から、無数の紫電が飛び交う。
雷撃がスケルトンに着弾し、骨屑となって吹き飛ぶ。
――やはり強い。
ゴブリン達も我先にとスケルトンに向けて突撃する。
だが、敵陣へ到達する直前、一筋の「火槍」がゴブリンの脇腹を抉り、即死させた。
召喚生物に完全な死は無い。殺されても時間が経てば再召喚は可能だ(およそ1日かかると言われている)。
俺は咄嗟に生き残ったゴブリンを「回収」する。
長剣とバックラーをその場に残し、ゴブリンは光の粒子となって俺の元へ戻ってきた。
何かが、スケルトン軍団の中に混じっている。
それも、強力な魔法を使う個体が。
おそらくボス格だ。
初めて召喚生物が殺された衝撃は大きかった。まるで俺自身の命に手を掛けられたような悪寒が走る。
向こうの魔法射程はおよそ20メートル。
対してこちらの黒馬の射程は何倍も長い。
絶え間ない雷撃によりスケルトンは大きく数を減らしているが、白い海のように押し寄せる軍団は、死骸を踏み越えて前進を続けていた。
その時、スケルトンと俺たちの中間地点、左右の壁が大きな衝撃と共に崩れた。
――ゴーレム、2体。
体長およそ6メートルはある大型の岩人形が参戦したのだ。
俺は、半魚人「デラボネア」と取引をした腕輪に目を向ける。
『黒石の巨人』の召喚。
敵のゴーレムは岩石製だ。恐らく魔法耐性が高く、黒馬の雷撃は効きにくいだろう。
なら、別の召喚魔法で対応するしかない。
敵ゴーレムまではおよそ50メートル。
この腕輪の召喚範囲はおよそ3メートル。近づかなければならない。
移動の遅い巨人をこの場で召喚し、歩かせて向かわせる選択は、時間制限のある遺物では悪手だ。
「走れ!」
俺は黒馬を駆り、全速力で敵ゴーレムへ接近する。
距離を一気に詰め、ぶっつけ本番で腕輪を掲げた。
「来い!」
光の中から現れたのは、黒い薔薇のレリーフが肩や腕に施された、漆黒のゴーレムだった。
大きさは4メートルほど。敵の6メートル級と比べると一回り小さい。
だが、黒石の巨人が敵ゴーレムの胴体へ振りかぶった拳の一撃は、轟音と共に巨体を揺るがし、相手の体勢を崩した。
――力負けしていない。むしろ個の強さは優っている!
よし。
すぐに戦場から離脱すべく黒馬を反転させようとした瞬間、凄まじい衝撃で吹き飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転がる。擦り傷の痛みを無視して立ち上がる。
黒馬の鞍には固定ベルトが付いていた。
俺は衝撃で吹き飛ばされた瞬間、咄嗟に黒馬を「回収」していた。そうしなければ、倒れる黒馬の巨体に俺が押し潰されていたからだ。
腰にぶら下がったままの鞍のベルトを外す。
今の衝撃は、敵の魔法を黒馬が雷撃で相殺した際に起きた爆発だ。火火猿との戦闘で何度も見ていた現象だから瞬時に理解できた。
しかし、これほど接近されていたとは。
およそ20m先、黒い悪魔が立っていた。
実物を見るのは初めてだ。
「ゴアデビル」。第三階位の魔物。
金山ダンジョンは全4階層、第二階位までの魔物しか出現しないはずだ。
だが目の前にいるのは、人の枠組みを超えた「第三階位」。
超人が命懸けで戦う怪物が、俺の目の前にいる。
さっきゴブリンを殺した魔法「火槍」の射程圏内に、俺は生身で立っている。
デビルが、醜悪な顔を歪ませて笑みを深めた。
その背後で、黒石の巨人が一体目の敵ゴーレムを殴り倒したのが見えた。
その瞬間、デビルが動いた。
魔法「火槍」。
俺に回避できるような身体能力はない。
だが――
光の中から現れたゴブリンの胸が、大きく抉られた。
俺は咄嗟に、さっき回収したゴブリンを前方に再召喚し、「肉の壁」にしたのだ。
その一瞬の隙に、本命の黒馬を再召喚する。
デビルの放った二撃目の火槍は、黒馬の雷撃が相殺した。
「おい、調子のるなよ……!」
黒馬の陰から、俺は突っ立っているデビルに雷撃を放つよう指示する。
奴は俺達がしたように、火槍で相殺してくる。
小爆発が起き、黒煙が舞う。
「バカが!」
気分が高揚して、自然と口が悪くなる。
デビルは気づいていない。
一体目を処理した黒石の巨人が、背後から音もなく迫っていたことに。
巨人が大きく振りかぶった拳が、デビルを背後から直撃した。
デビルはボールのように側面の壁へ吹き飛んでいく。
だがその直後、残っていたもう一体の敵ゴーレムの拳が、黒石の巨人を横殴りに殴り倒した。




