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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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エピローグー悠久の時の中でー


大陸に、その名を轟かせた国があった。


三つの大河が交わる肥沃な平野を版図とし、周辺の諸国を力で従え、百年にわたって覇を唱えた王国。

その礎を築いた王は、覇王と呼ばれた。


剣も、政も、人心の掌握も、あらゆる面で同時代の王たちを凌駕していた。

だが、長い闘争の果てに、その身は朽ち果てた。

幾度もの戦場を駆け抜けた代償が、王の肉体を内側から蝕み、ついに玉座の上で静かに事切れた。


残されたのは、病がちな一人の姫だった。


生まれつき体が弱く、幼少の頃から寝台の上で過ごす日の方が多かったという。

立ち上がるだけで息が切れ、長く歩けば膝が震える。

覇王の血を引きながら、戦場に立つことは叶わない体だった。


しかし。


その姫は、覇王の娘だとわかるほどに、瞳の奥に覚悟を宿していた。

父が遺した国の命運が、今まさに風前の灯であることを、誰よりも正確に理解していた。

国の進退をかける争いが、目前に迫っていた。


それでも、姫の精神は一歩も引いていなかった。



黒い薔薇が咲き誇る庭園だった。


覇王が生前、最も愛した場所だと伝えられている。

漆黒の花弁が夜風に揺れ、月明かりを受けてその縁だけが仄かに青白く光っている。

甘く重い香りが、夜の空気に満ちていた。


その庭園の中央に、姫は五人の騎士を集めた。


五人は王国最後の精鋭だった。

覇王に仕え、幾多の戦場を生き延びた歴戦の騎士たち。

黒い薔薇の意匠が施された鎧を纏い、大剣を背に佩いている。


姫は騎士たちの顔を一人ずつ見渡した。

そして、静かに口を開いた。


「私の為に死んでくれる?」


飾りのない、残酷なまでに率直な言葉だった。


騎士たちに否も応もなかった。

問いかけに対する答えは、この五人においては生まれた時から決まっていたようなものだ。

あるのは穢れなき忠誠心からくる覚悟だけだった。


五人の騎士が同時に片膝をつき、大剣の柄頭を地面に突き立てて、頭を垂れた。


王国の北の空が、赤く染まった。


突如として湧き出した生命体。

山を覆い、川を埋め、大地を蝕む異形の群れ。

誰が呼んだか、魔の物。


人の力では抗えない、圧倒的な暴威。

この世界は滅びに向かっていた。



庭園の黒い薔薇が、風もないのに一斉に揺れた。


空間が歪む。

庭園の中央、姫と騎士たちが立つそのすぐ傍に、黒い門が現れた。

夜の闇よりもなお深い漆黒の裂け目が、虚空に縦に口を開けている。


五人の騎士が即座に立ち上がり、姫を背に庇って剣を構えた。


門の奥から、まず飛び出してきたのは一人の男だった。


鎧は着ていない。

王族の衣装でも、騎士の装備でもない。

だが、その指には幾つもの指輪が嵌められ、腕には腕輪が巻かれ、全身に様々な装飾品を纏っている。

その一つ一つから、常人には計り知れない力の気配が漂っていた。


男は門から踏み出すと、庭園の黒い薔薇を一瞥し、それから姫と騎士たちの方を向いた。


「よォ! 助けに来たぜ」


不遜だった。

王族を前にして片膝もつかず、名乗りもせず、まるで隣人に声をかけるような気安さで、男はそう言い放った。


続いて門から現れたのは、翼を広げた黒い悪魔だった。

禍々しい角を備えた巨躯。

その悪魔の手に摘まれるようにして、丸い体の半魚人がぶら下がっている。


「乱暴に持つなと言うとるじゃろうが」


半魚人は水かきのある手足をばたつかせながら抗議していたが、悪魔は意に介さず、静かに地面に降ろした。


五人の騎士は即座に臨戦態勢を取った。

大剣が鞘走りの音を立て、五つの切っ先が男と悪魔へ向けられる。


だが、姫が片手を上げて制した。


騎士たちの動きが止まる。


姫の視線は、男の右手に注がれていた。

数多の装飾品の中で、一際目立つ黒い指輪。

その表面に刻まれた意匠を、姫は見逃さなかった。


「その指輪は、私達王族にしか許されぬ物です。どこで手に入れましたか?」


姫の声は静かだったが、その奥には鋼のような芯があった。

男の右手の指輪には、確かに王の刻印が刻まれている。

黒い薔薇の紋章。

王家の血筋にのみ継承が許される、王国最高位の証。


男は自分の指輪を一瞥した。

そして、あっさりと言った。


「これですか? もう只の指輪なので、返せますよ」


「そう言うことじゃないです!」


姫が声を荒げた。

病弱な体躯からは想像もつかない、鋭い叱責だった。


「不遜にもお前はその指輪の価値を知らんのだろう。なんの思い入れもない賊にはわからん事だ」


五人の騎士が、改めて大剣を構える。

黒い薔薇の彫刻が施された五振りの刀身が、月光を受けて鈍く光る。

殺意ではない。

だが、王家の誇りを汚す者への、明確な敵意があった。


「まぁ、待て。俺達は味方だ」


男は両手を軽く上げて見せたが、その態度には緊張の欠片もなかった。


「それに、思い入れならあるさ」


「おぬしが大きな態度とるもんで、誤解されとるじゃろうが」


足元の半魚人が、呆れたように溜息をついて男を責めた。

だが男は特に気にした様子もなく、肩を竦めただけだった。



その時、城の方角からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。


一度、二度。

間を置かず、三度、四度と続く。

魔物の敵襲を知らせる警鐘だった。


北の空がさらに赤く染まっていく。

地鳴りのような低い振動が、足元から伝わってきた。


「まずは目の前の魔物を」


騎士の一人がそう言って男へ向け、剣を突き出すが、その剣を傍らの悪魔が片手で容易く払い落とした。


騎士が目を見開く。

この国最高の剣士が握る大剣を、まるで子供の玩具を取り上げるかのように。


「結果は、目で見せた方が早いんですよ」


男はそう言うと、虚空へ意識を向けた。


黒い薔薇の花びらが、どこからともなく舞い上がる。

庭園の薔薇が散ったのではない。

男の周囲の空間そのものから、花弁が生まれ出ていた。


その花びらの渦の中から、赤黒い巨大な竜が姿を現した。

黒い鎧のような鱗を全身に纏い、翼の縁から黒薔薇の花びらを零す、竜。


男は半魚人を伴い竜の背に飛び乗ると、姫と騎士たちを見下ろした。


「この時代をサクッと救って、デラさんの時代も救いましょうね」


その声は、先ほどまでの不遜さとは異なっていた。


穏やかで、優しく、そしてどこか懐かしいものを慈しむような響きがあった。


竜が翼を広げ、夜空へと飛び立った。


黒い薔薇の花びらが、風に乗って庭園に舞い降りる。

姫も、騎士たちも、ただその飛翔を見送った。



その夜。


北の地平線を埋め尽くしていた魔物の軍勢は、夜明けまでに壊滅した。


竜と悪魔を従えた一人の男が、万の軍勢を退けた。

薔薇の花びらが舞う戦場を、赤黒い竜が駆け抜けていく。

その背に乗る男の体には、鎧も盾も、剣すらもなかった。


ただの人の体。

ただの人の腕。

ただの人の声で、化け物たちを従え、化け物たちに命じ、化け物たちと共に戦い抜いた。


やがて、その男の噂は大陸中に広がっていった。

悪魔を従え、竜を駆り、一夜にして万の軍勢を滅ぼした男。

人の身でありながら、魔の物を意のままに操る者。


人々は畏怖と敬意を込めて、その男をこう呼んだ。


――魔王、と。









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ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

ブクマや星も本当に感謝しておりますし、感想も中々返信出来ておりませんでしたが絶対毎回確認しておりました。


いつも本当にありがとうございます。


上昇線の次回作である異世界で潜水艦を強化しながら交易していく作品が近日公開します!

スローライフ要素を持っているつもりですが、ちょっぴりダークでオリジナル魔物多めの作風が滲み出てくるはずなのでもしよければフォローして待っていて下さい!



本当にここまでありがとうございました!!!!








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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした。 ここ最近で1番面白い作品だったので少し寂しくもあります。是非次の作品も頑張って下さい(読者の勝手な意見です)。
完結おめでとうございます!めちゃくちゃ面白かったです
お疲れ様でした。毎回楽しく読ませていただきました。 ギミック多めで読み始めたときに期待していたものとは少し違いましたが、それはそれで面白かったです。
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