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近くに待機していたゴブリン達が、即座に前に出る。
オーク達も長剣で武装しているようだが、ゴブリンはバックラーで巧みに攻撃を受け流し、返す太刀で首を切り裂いていく。
「特性」は昇格と共に強化されるのが通説だ。
俺のゴブリン達は、敵のオークと同格の「第二階位」相当。だが、装備の質と連携においてはこちらに分がある。
黒馬が出るまでもなく、ものの数分で殲滅は完了した。
余力は十分にある。
自分は常に安全マージンを取った攻略しかしていない。今後もそうするつもりだった。
オークを倒した場所に、黒い球体が浮いていた。遺物だ。
俺は手を伸ばし、実体を引き抜こうとした。
その瞬間、視界が暗転した。
――転移罠だ。
気がつくと、俺は暗い洞窟のような空間にいた。
不思議と薄暗い程度で、周りは見渡せる。
ポタリ、ポタリと、どこからか水滴の落ちる音が反響している。
金山ダンジョンに転移罠があるという情報は、どこにも載っていない。
それも、まだ「2階層」だぞ!?
幸い、近くには召喚したままの黒馬とゴブリン達がいた。
所持品も無事だ。
だが天井が低く、騎乗したままでは動きづらい。俺は馬から降りて、一度呼吸を整え、心臓を落ち着かせる。
転移罠というのは文字通り、ダンジョン内のどこかへ強制転移させる罠だ。
しかし、全4階層の金山ダンジョンに「洞窟型」のフィールドなんて存在しないはずだ。
一体、どこに飛ばされたんだ?
「おーい、おーい」
不意に、控えめな呼び声が聞こえた。
視線を向けると、洞窟の奥の通路から何かが近づいてくる。
背中を嫌な汗が流れ、肌が粟立つ。
言葉を発する魔物。知能が高いアンデットか悪魔の類か。
俺は即座に身構えたが、現れたのは――1匹の「半魚人」のような魔物だった。
「まてまて、そう戦闘態勢にはいるなや、人間」
言葉に敵意や棘は感じられない。短い手足をパタパタと動かし、必死に訴えかけてくる姿に、ひとまず即時攻撃の意思だけは解いた。
「そこの馬とゴブリンが今にも飛びかかってきそうなのはやめてくれないか? その馬、すげぇ光ってるし」
「……なんの用だ? こちらからすればお前は魔物だ。用心はする」
俺がそう返すと、半魚人は「わかった、わかった」と言いながら、その場にあぐらをかいて座り込んだ。
「ここはダンジョンの『幻の5階層』、ボーナス部屋さ。その奥を進めば、うじゃうじゃ魔物が出て来るだろうよ。……で、俺はここで魔石での商売をしてるのさ。魔石は持ってないかい?」
そう言うと、半魚人は風呂敷を地面に広げ、三つの遺物らしき物を並べ始めた。
「……お前を殺せば、その遺物が全て手に入るのか?」
「おっとっと! そりゃ教えらんねぇが、俺は心が読めるんだ。変な事は考えない方がいいぜ?」
――怪し過ぎる。
だが、プロの探索者の中には「知能ある魔物と物々交換をした」という事例がいくつか報告されている。
この魔物はその一種だと考えてもよいが、それを騙って油断を誘う罠の可能性もある。
「わかった、一先ず信じよう。だが魔石の持ち合わせがない。……ここは5階層と言ったな? 本当か?」
「5階層なのは本当だが、魔石がなぃ? ここまで来といてぇ? しけてんなー人間。……じゃあ、何か他にないのかい?」
半魚人の視線が俺の背嚢に向く。
俺は背嚢から、非常食として持っていたチョコレートバー、ツナ缶、パン、ポテチ、カロリーバーなどを取り出して見せた。
反応があったのは、チョコレートバーだ。
「おい! その匂いはそりゃ! 『ちょこれーと』だな!? いいぜ、そいつなら良いレートで考えてやる。魔石200個分だ」
「待て、まだ売るとは言っていない」
そう言って俺は、半魚人が並べた三つの品物に視線を向けた。




