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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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「またな! アキ! ……とお嬢さん!」


「ヒナだよ!」


ヒナが頬を膨らませて名前を主張する。

デラボネアは飄々とした笑みを浮かべてそれをいなすと、俺の方へ向き直った。


「アキ、お前さんに渡しておくものがある」


そう言って水掻きのある手から差し出されたのは、小さな爪のようなものだった。

灰色がかった半透明の見るからに硬質な素材。

俺は掌に受け取って、光に透かすように見る。


「なんです? これ、爪みたい」


「ワシの爪じゃ」


「えっ、……」


俺は思わず言葉に詰まった。

半魚人の爪をもらっても嬉しくはない。

手に持っても遺物としての情報が流れ込んでくる様子もなく、本当にただの爪だった。


「――まぁ、待て」


デラボネアは俺の反応を見て笑った。


「ワシに会いたい時が来れば、その爪をダンジョン内で燃やすと良い。ワシから会いに行ける」


爪がなくなった人差し指を一度掲げてみせると、デラボネアはいつものように地面へ向かってダイブした。

水面のように地面が波打ち、小柄な半魚人の体を飲み込んでいく。

波紋が収まった後には、もう何も残っていなかった。


「……不思議な移動の仕方ね」


ヒナが呆れたように呟く。

俺は掌の上の爪を小さな袋に収めて、懐にしまった。

いつでも呼び出せる連絡手段。デラボネアなりの信頼の印だろう。


俺たちはそれから、広場にいつの間にか出現していたゲートから帰還した。



ゲートを抜けた先は、元のオフィスビルの二階の会議室だった。


入った時と何一つ変わらない景色に、一瞬だけ現実感がぐらつく。

つい先ほどまで浮島の上で空を飛び、肉の壁に囲まれた裏の空間で得体の知れない魔物と戦っていたのが嘘のようだ。


会議室を出ると、フロアには警官が数人と、行きがけに会った旭場時の姿があった。

そしてもう一人。


「えっ! ミル!」


デラボネアに続き、今や一人となったメルトアの森のミルにも再会した。

見慣れた飄々とした佇まいで、場時の隣に立っている。


「あれ、てことはもう踏破したってことね」

ミルはいつも通りの口調でそう言った。

驚きも焦りも滲ませない、淡々とした声。



「素晴らしいですね、さすが要石だ」


場時がスーツ姿のままパチパチと拍手をした。

笑みを浮かべてはいるが、その目の奥には読み取りづらい色がある。


「メルトアの森は後続として、スタンピードに備えるように呼び出していたのですが、突入前に終わってしまいましたね」

場時は軽い口調でそう言った。


魔石はヒナがまとめて持っており、管理所の職員を探して報告に向かってくれるそうだ。

さすがに慣れているらしく、俺が口を挟む前に段取りを済ませている。


俺が少しの間手持ち無沙汰になることを見越したのか、場時はミルを伴って俺を一室へ通した。

ミルは部屋の外で待機するらしい。


案内されたのは同ビルの一角にある応接室だった。

革張りのソファに腰を下ろすと、体が想像以上に深く沈む。

良い革だ。普段使いしている椅子とは格が違う。


俺は俺で、依頼主である場時に直接報告をすることになった。

ヒナも管理所経由で報告しているので後日正式な情報は届くはずだが、依頼主の意向なので従うことにする。

まぁ、一番は左耳につけている遺物の恩があるからなのだけれども。


「これ、ありがとうございます。すごく使い勝手が良いです」


俺は左耳のイヤーカフを指差しながら、場時へ礼を言った。


「気に入ってくれてよかったよ」


場時は穏やかに微笑んだ。


「それは旭技巧として贈り物、というよりも私個人からの贈り物であるからね」


なるほど。

個人からの贈り物なら、なおさら礼を言って正解だ。


「ミルとは、企業で契約している外部探索者という扱いなのですか?」


俺は何気なく聞いた。

メルトアの森というチームは既にほぼ壊滅している。残ったミル一人が、旭技巧と直接契約を結んでいるのか、それとも昔からの縁が続いているだけなのか。


「おや、私達企業と契約したいということかな」


場時は僅かに目を細めた。

俺は慌てて首を大きく振る。


「興味本位です……」


俺はそう言って手元のお茶を一口飲んだ。

良い茶葉だ。旭技巧の応接室に相応しい品揃え。


場時は俺の反応を見て、くすりと笑った。

それから静かに湯呑を置き、口調を少し改めた。


「――所で、遺物というのはどうやって産まれ落ちると思うかね」


「……?」


俺は首を傾げた。

特に意識したことのない問いだった。

遺物は魔物を倒した時に落ちる、あるいはダンジョンの奥の宝箱から見つかる。

そういうものとして受け入れてきた。


「そもそも、外国ではアーティファクトとも呼ばれるし、国内での名称だって魔導具と言ったり、結構バラバラだ」


立っていた場時は、そう言いながら俺の対面のソファへと腰を下ろした。

両肘を膝に置き、身を乗り出すようにしてこちらを見る。


「遺物と、最初に誰が呼び始めたのだろうね。日本人がその名称を付けたのは確実だ」


「三十年前って事ですよね。確かに、遺物という名称は気がつけば定着していましたね」


ネットではいまだに別の名称を使う人間もいる。

だが管理所などの公的な場や書類上では遺物は遺物だ。


何らかの効果がある物を、遺した物(遺物)と呼ぶ。


ダンジョンの中外問わず、人が死んだからといって遺物が生成されるわけではない。

魔物が死んだ時か? それならば一番しっくりはくる。

しかし、全ての魔物から遺物が出るわけでもない。


改めて考えると、確かに妙な名称だった。


場時は俺の思考が深くなるのを待つように、しばらく黙ってお茶を啜っていた。


「この世にはまだまだ知らない事がたくさんあるのだよ」


やがて場時は静かにそう言った。


だが、科学者でもない俺には特に興味がそそられない話だった。

俺が興味を持つのは遺物の成り立ちではなく、遺物の効果そのものだ。


「面白くなさそうな話はこれでやめよう」


俺が少し白けてきているのを感じ取ったのか、場時はそう言って話題を切り上げた。

察しの良い男だ。


その後は当初の予定通り、俺はダンジョン内部で起こった事の顛末を話した。


浮島型のダンジョンであったこと、宮殿で「裏」に転移させられたこと、肉の壁に覆われた空間で得体の知れない魔物と戦ったこと。

デラボネアの存在は伏せた。あの半魚人の事情を第三者に説明するのは憚られた。



やがて一通りの報告が終わると、場時は深く頷いた。


「ありがとう。大変助かりました」


俺は軽く頭を下げて室内を出た。

扉の外で待機していたミルに挨拶をする。


「じゃあね、アキ」


ミルは普段通りの口調でそう言って、軽く手を振った。

俺もそれを返し、ヒナと合流してビルを後にする。



――――――



「うどん食べよう」


ヒナが帰り際にそう言い出したので、適当に入ったチェーン店で食事をすることになった。


店内は夕方の空き時間で、客は疎らだった。

ヒナはカレーうどんを、俺は肉うどんを注文する。

ダンジョン後の食事は何を食べても美味い。体が栄養を欲している証拠だった。


「ヒナが産まれた時にはもう、遺物は遺物だったから知らない」


俺は何となしに隣のヒナにそう話題を振った。

そもそも俺はコミュニケーションが苦手な方だ。

咄嗟に出てきた話題が、直近のやり取りになってしまっている。

話題を出した本人は、場時との会話の時点で既に興味が失せていたのだが。


「旭技巧連は人造遺物の作成に成功してたよね」


ヒナの言葉に俺は頷きを返した。

肉うどんが美味い。

出汁の香りが鼻に抜け、疲れた体に染みていく。


「そう言えば、デラちゃんも遺物って言ったよね。どこで知ったんだろ。前の主人かな」


「まぁ、前の主人である事は確かだと思いますよ」


そう言って引き続き肉うどんを食べようとした、が。


「――あれ?」


俺は箸をトレーに置いて、考え込んだ。


そうだ。

引っかかっていた何かが、今の会話で言語化される。


確かトリノとヒヨリは、デラボネアの事を話した時に「懐かしい名」だと言っていた。

デラボネアも、ヒヨリとトリノについて似たような事を言っていた気がする。

同じ主の召喚獣同士、長い時間会っていなかったという話の流れだった。


その時には特に気にしていなかった。

だが今になって思うと、引っかかる。


召喚獣には食事も睡眠も不要だ。

老化もない。


「どうしたの?」


ヒナはカレーうどんを食べ終わっていたようで、空になった器の向こうから俺を見ている。


「不老であり、睡眠や食事なども要らないデラボネアさん達からしたら、どこまでが懐かしい(・・・・)なんでしょうね」


ふと疑問に思った事を、そのまま口に出した。


ヒナは一瞬きょとんとして、それから少しだけ眉を寄せた。

答えを持ち合わせていないのは、俺も同じだ。

不老の召喚獣にとっての「懐かしい」はどれほどの長さなのだろう。


デラボネアならば、遺物の生い立ちを知っているのかもしれない。

次に会った時か、あの爪を燃やす日が来たら聞いてみよう。


俺は箸を取り直し、残りの肉うどんを食べ終えた。

出汁はすっかり温くなっていた。


店を出ると、外はもう暗くなっていた。

俺とヒナはタクシーに乗り込み、それぞれ別のホテルへと帰っていった。






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