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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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時はヒナとアキが()へと転移した時まで遡る。


召喚されたバルガロンは廊下を進んでいると唐突に、感覚が断絶した。


召喚主との繋がりが、糸を断ち切られたように消える。

命令の伝達も、位置の把握も、感情の共有も。全てが一瞬で途切れた。


バルガロンは足を止め、後ろを振り返った。


先程までそこに居た、召喚主であるアキの姿はなかった。

変わらずいるのは一羽の灰流鳥と、大きな体躯の赫竜だけだった。


「……?」

バルガロンは、来ないのかと言いたげに二体へ視線を向けた。

灰流鳥はそっぽを向いたまま微動だにしない。

赫竜は一度だけバルガロンへ目線を寄越したが、すぐに周囲の警戒に戻り、その場から動こうとしなかった。


この差は、アキが裏への転移前に出していた最後の命令に起因している。


ヒナが乗ってきた灰流鳥と、アキが降りた後の赫竜には、その場での待機と周囲の警戒が命じられていた。


ヒナが消えた後、アキがバルガロンに命じられた最後の命令は『進め』だった。


バルガロンは元になったゴアデビルの時から知能が高い。

召喚主がいなくなったという異常事態において、灰流鳥と赫竜は最後の命令に従い「動かない」を選択した。

バルガロンもまた、最後の命令に従う。


悪魔は独自の判断で、先ほどまで無かった古びた宮殿へ続く廊下へと歩を進めた。

アキの命令を遂行するために。



進んでいくと、古ぼけた鎧を纏った人形が散発的に現れた。

関節が軋む音を立てながら、錆びた剣を構えてこちらへ向かってくる。

近づいてくるものは壊した。

長い腕の一振りで胴を砕き、廊下の外へ放り投げる。


やがて宮殿の内部へと易々と侵入すると、壁際に骨董品とも呼ぶべき芸術品が並べられている。

古びてもなおその真価は色褪せない彫刻や絵画。

朽ちかけた額縁の中で、風景を描いた油彩が静かに佇んでいた。


バルガロンはその中の一つ、模様の入った壺に近づいた。

興味本位から、長い指で触れる。


悪魔の本質は消えることのない探究心と、そこから生まれる残虐性にある。

しかし、ほんの少し触れただけで壺は台座から滑り落ち、地面に当たって割れてしまった。


破片が床に散らばる。


召喚主は不必要な破壊を望んでいない。

それは普段の命令の端々から理解していた。


バルガロンは壊してしまった事を忘れるように、更に先へと進んでいく。

一つ一つの部屋を覗き込んでは、興味がなさそうに踵を返す。

芸術品には触れなくなった。



異変があったのは、階段を降りた時だった。


今までの古い宮殿の石壁が、途中から明らかに質の異なる壁面へと変わった。

人の手で整えられた、比較的新しい空間だ。

照明も、電灯に近い人工的な光源が通路を照らしている。


廊下の先に、人間が二人いた。


「あぁ? なんで魔物が侵入出来てんだ?」


一人が声を上げる。

もう一人がすぐに状況を判断した。


「バカか、明らかに変異体だ。すぐ呼んでこい」

言われた方の人間が足早に廊下の奥へ消えていった。


バルガロンは構わず進んだ。


前方に、薄い膜のようなものがあった。

空気の境界線のように微かに光を帯びた、透明な壁。

バルガロンはその手前で足を止めた。


「焦らせるなよ、そこから先は第五階位のボスクラスでも侵入出来ない対魔陣だぜ」


残った人間がそう言いながらも、手元の槍の穂先をこちらへ向けて姿勢を低くしている。

声は虚勢を張っているが、構えた槍先が微かに震えていた。


「……?」

バルガロンは首を傾げた。


一歩、進んだ。

薄い膜を、何の抵抗もなく素通りする。


「はぁ? なんで!?」


焦った男性が槍を突き出してきた。

顔を狙った穂先を、バルガロンは片手で受け止める。

長い指が穂先を掴んだ直後、槍の先端が炎を噴いた。

炎弾が至近距離でバルガロンの顔面に着弾する。


煙が晴れる。

悪魔の顔は、依然として無傷だった。

捻じれた角の一本にすら焦げ跡がない。


男性の口から悲鳴が漏れた。

それがバルガロンの威容に当てられたものなのか、自分の攻撃が通じなかった絶望によるものなのかは定かではない。


尻餅をついた男性を、バルガロンは一瞥して通り過ぎた。


悪魔が過ぎ去った後、人間は安堵した。

生かされた事に感謝し、立ち上がろうとした。

だが、立ち上がれなかった。

それほどまでに恐怖し、腰が抜けたのだと思ったからだ。


しかし、いつまで経っても足に力が入らない。

不審に思った人間は下を見た。


自らの足が、黒く変色していた。

膝から下がぐずぐずに溶けて、形を失っている。

痛みすら感じない。既に神経が死んでいた。


――生かされていなかった。


人間は廊下を進んだ悪魔へ振り返った。


少し先の廊下の中腹で、こちらを見て嗤う悪魔がいた。

人間のそれとは全く異なる、口角の上がり方。醜悪で、愉快そうな笑み。


バルガロンは指を一本立てた。

その先端から小さな黒い矢が一つだけ飛来し、人間の頭に突き刺さる。


人間は前のめりに倒れた。


「ゲゲ……」

人間とは違う声帯から漏れ出る嗤い声を上げながら、悪魔は機嫌良く先へ進んだ。



やがて廊下の奥から、足音が近づいてきた。


現れたのは先ほど呼びに行った人間と、もう一人。

体躯の大きな男だった。

先ほどの人間とは纏う空気が明らかに異なっている。


「……侵入されてやがる。明らかに変異体だろうな」


大きな人間が一歩前へ出た。

その隣の人間は声を張り上げる。


「一体どうして!? このダンジョンは『単一ボス核』では? ボス核は既に()()()()()()()()はずなのに!」


「知らねぇよ! 技巧連に言えよ」


吐き捨てるように言いながら、大きな人間は腕を持ち上げた。

その手に握られているのは、太く大きな鎖だ。

鎖は、いつの間にか真っ直ぐにバルガロンの胴体から伸びてきていた。



「元々、ダンジョンを完全管理なんて出来るわきゃねぇんだよ。思いもよらない事が起きるのがダンジョンだろうが」


鎖を握る手に力が込められる。


「だからァ、俺が控えてんだろうがァ」


鎖が引かれた。

バルガロンは前方からの引力に備えて身構えた。

だが、引力は前方からだけではなかった。

左右から、同時に力が加わる。


見れば、いつの間にか更に鎖が全身へと伸びていた。

腕に、脚に、胴体に。

その鎖は壁面や床面の至る所に繋がれており、バルガロンの体をガッチリと固定している。

ピンと張った鎖が悪魔をその場に繋ぎ止めた。


「――禁縛爆。遺物の使えん魔物じゃ出来ん芸当だろう。そのうち力尽きるぜ」


鎖が白く輝き始めた。

光がバルガロンの体表に浸透していく。


徐々に力が抜けていく。

バルガロンはその場で片膝をついた。

長い腕が力なく垂れ下がり、首が前に傾く。


「さすがです!」


近くの男性が歓声を上げた。


「おべっかは良い、ダンジョン出て技巧連に連絡しろ。この魔物が探してるモノかもしれん」


大きな男がそう命じた直後、手元の鎖に違和感を覚えた。


「んァ?」


白く輝いていた鎖が、変色していた。

金属の表面が錆びるようにして黒く染まっていく。

先端から根元へと、黒が侵食するように広がっている。


その先に繋がっている悪魔を見た。


バルガロンは既にボロボロになった鎖の拘束から抜け出し、立ち上がっていた。

首の骨を左右に鳴らしている。


人間が認識した瞬間、悪魔が腕を引いた。


「なにィッ!」


大きな人間の全身が、黒い鎖で囚われていた。

壁から、床から、天井から。

全く同じ形状で、全く同じ拘束方法。

やり返したかのように、悪魔は人間の技を模倣していた。


遺物の魔法だ。ユニーク遺物の力だぞ。

この魔物が模倣したのか? そう思考するが、それよりも遥かに深刻な事態が目の前で進行していた。


黒い鎖に触れている肌が焼けるように熱い。

激痛が走る。

鎖が触れている箇所から、皮膚が黒く変色していく。

この悪魔の黒が、人間の体を侵食していた。


バルガロンは知能が高い。

アキの手持ちの召喚獣の中でも、それは群を抜いていた。


悪魔は鎖を気に入った、アキが喜ぶだろうと思ったからだ。


人間ではない悪魔の膂力で引っ張られる鎖。

四方からの引力が同時にかかり、人間の体が裂けていく。


人間が最後に見たものは何だろうか。

激痛の中で引き裂かれゆく自らの肉体か。

もう一人の人間が腰を抜かして逃げようとしたところを、黒い鎖で捕まれ引き寄せられる光景か。


最後に聞いた音は、人間のものではない不快な嗤い声だった。



やがて、バルガロンは口に含んだ人間の目玉を奥歯で潰すと、赤い肉となった玩具を置いて先へ進んだ。



通路の奥から泣き声が聞こえてきた。

それに釣られるようにして進むと、広い空間に出た。


大広間だ。

天井が高く、柱が何本も立ち並ぶ荘厳な空間。

その中央付近に、一体の魔物が泣いていた。


バルガロンが足を踏み入れると、その魔物が拙い仕草で寄ってくる。

害意は一切ない。親だと勘違いしたのか、バルガロンの元にすり寄ってきた。


バルガロンはそれを殺した。

ただ鬱陶しかったからだ。


大広間の空気が、唐突に変わり断絶していた繋がりが、復活する。


「ようやく戻ってきたか、バルガロン」


アキの声が頭の中に響く。

嗤っていた悪魔の表情を見て、アキは不思議そうだった。







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お読み頂きありがとうございます。


ブクマや星も本当にありがとうございます!

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感想もありがとうございます!!!


 

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― 新着の感想 ―
>悪魔は鎖を気に入った、アキが喜ぶだろうと思ったからだ。 ものすごい強面の悪魔を想像しているのに、突然のかわいげで変な笑いが出ました。 前回の引きから反旗か!?と思ったら忠実な部下だった~~。 それに…
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