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只人の『召喚魔法』運用法  作者: 上昇線


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宮殿の中は大理石のような白い床で敷き詰められていた。

壁面には金の装飾が施され、天井からは水晶のような照明が柔らかい光を放っている。

煌びやかな壺や彫像が等間隔に並び、廃墟のダンジョンの中にあるとは思えない豪奢な空間だった。


俺が「進みましょう」と言うよりも早く、ヒナは歩き出していた。

眼帯はもう戻している。鱗も消えていた。


宮殿内は空中庭園の廊下よりも遥かに広い。

天井も高く、ヒナが大槌を振り回しても余裕がある空間だ。

戦闘になった場合、ここならヒナの持ち味が存分に活きる。


そんな事を考えていた矢先だった。

唐突に、近くの壺が割れて吹き飛んだ。


破片が床に散らばる乾いた音が、広い空間に反響する。

俺は反射的に身を低くし、騎士団を呼び寄せて近くに待機させた。


一秒、二秒と経過する。

それ以降は何も起きなかった。


「……?」


ヒナは不思議そうな顔をしながら、腕輪を大槌に変化させた。

割れた壺があった空間に向けて大槌を振り抜く。


何もない。手応えもない。

透明な魔物が潜んでいたわけでもなさそうだ。


原因不明の現象だが、立ち止まっていても仕方がない。

警戒を維持したまま先へ進む。


奥から再び官服の無貌の人形が現れたが、騎士団とヒナで危なげなく制圧した。

宮殿内の人形は廊下のものと装備が変わっておらず、脅威度はさほど高くない。


幾つかの部屋を抜けて進んでいくと、下への階段が見つかったので降りていく。


階下で待ち構えていたのは同じ無貌の人形ではあるが、纏っている装備が全く違っていた。


全身に黒い甲冑をつけ、手には分厚い大刀を握っている。

体格も一回り大きく、一体一体が騎士団と同等の背丈を持っていた。

先ほどの槍兵とは格が違う。


「上からもね」


ヒナの声に振り返ると、降りてきた階段の上方からも同じ黒甲冑の兵士が降りてきていた。

挟み撃ちだ。


ヒナは大槌を手首でくるりと回転させた。

やる気十分といった表情で、その勢いのまま来た道を引き返すように駆け上がっていく。


階段の上から降りてきた兵士に向かって、大槌を叩きつけた。


しかし今までの人形と違い、黒甲冑の兵士は大刀を合わせて防御しヒナの一撃を受け止めているが、それでもヒナの膂力は防御の上からでも効く。

兵士の体が大刀ごと階段の奥へ吹き飛ばされ、後続の兵士を巻き込んで転がっていった。


防御はできる。だが耐えられない。

それがヒナの膂力と一般的な防御力の差だ。


俺はヒナに上を任せて、階下を覗き込んだ。


黒甲冑の兵士が五体、階段の下で大刀を構えて待ち構えている。

こちらが降りてくるのを迎え撃つ態勢だ。


地の利はこちらにある。

階段の上から攻め下ろす形だ。


俺は追加で騎士団を召喚し、合計五体にした。

五体の騎士が一斉に背中の大剣を抜き放つ。


それと共に、騎士団の鎧から伸びたイバラが階段を覆うように侵食していく。

黒い棘が石段の表面を這い、壁を伝い、階下の兵士たちの足元へと伸びていった。


「制圧しろ」


俺は静かに声を上げ、階下へ腕を振った。


号令と共に、五体の騎士が階段を駆け下りる。

倒れ込むような勢いで殺到し、黒甲冑の兵士たちと激突した。


イバラが兵士たちの足に絡みつき、動きの自由を奪う。

だが騎士団の大剣による攻撃を、兵士たちは一合、二合と防いでいた。


一体一体が強い。

廊下の槍兵とは段違いの戦闘力だ。

大刀の扱いに練度があり、甲冑の硬度も騎士団の大剣を簡単には通さない。


ヒナのように圧倒的な膂力で防御ごと叩き潰せるならいいが、騎士団の攻撃力では易々と仕留められない。


――落ち着け。

俺は俺のやり方でいい。

ヒナよりも時間はかかるが、騎士団は確実にこの兵士たちに勝てる。


召喚獣は疲れない。

どれだけ時間がかかっても、疲労が蓄積して巻き返されることはない。

イバラによる拘束が効いている以上、騎士団が負ける要素はなかった。


深呼吸を一つ。


階下では騎士団が着実に兵士を追い詰めていた。

足を絡めるイバラが兵士の体勢を崩し、その隙に大剣が甲冑の継ぎ目を狙う。

一体、二体と切り倒されていく。

最後の一体がイバラに全身を巻き付かれ、身動きが取れなくなったところを騎士団の大剣が貫いた。


階段の上からヒナが大槌を担いで降りてくる。


「終わってるよ〜


間延びした声に、俺は手を挙げて答えた。


ヒナに比べるとやや時間はかかった。

だが追加の召喚なしで、騎士団は全ての敵を危なげなく完勝している。

俺の召喚獣は一体も欠けていない。


ゴブリンと妖精に魔石の剥ぎ取りを任せ、階下の調査を行う。


廊下の曲がり角を曲がった直後、俺は足を止めた。


廊下の先に、見知ったシルエットがあった。


ずんぐりむっくりとした体型で短い脚を忙しなく動かして走っている、あの半魚人の後ろ姿だ。


「おーい! デラボネアさん!」


俺は遠くから声をかけて腕を大きく振った。


「知り合い?」


ヒナが大槌を肩から下ろして俺に聞く。

俺はヒナの問いかけに頷いた。


黒薔薇の遺物を持ち込んだ商人。

ダンジョン間を自在に行き来する、不思議な魔物だ。


「すまんがこいつをどうにかしてくれ!」


デラボネアはこちらに気がつくと、後ろから追いかけてくる黒甲冑の兵士を指差しながら走ってきた。

三体の兵士がデラボネアに迫っている。


合流したデラボネアを庇うように前に立つ。

ヒナが一歩踏み出し、先頭の兵士二体を大槌で叩き潰した。

残りの一体は俺の騎士団が大剣で仕留める。



それから安全を確保して、瓦礫が散らばった荒れた廊下で、デラボネアが座り込んだ。

「久しぶりじゃの」


デラボネアは俺の顔を見上げて笑った。


「デラボネアさんこそ、何でこんな所に?」


「探し物じゃ」


以前、デラボネアは何かの遺物を探していると言っていた。


「へぇ、またお目当ての遺物があるかもしれないんですね」


「今度こそ、あると思っちょるんじゃがな。ここのダンジョン、地形が特殊でのう。宮殿内に潜れたはいいが出られず困っておったんじゃ」


そう言うとデラボネアはいそいそと背負っていた風呂敷を広げた。

布の上に三つの遺物を丁寧に並べると、俺たちに笑いかける。


「そんじゃ、商売をしようじゃないか」


「えっ?」


ヒナが素っ頓狂な声を上げた。


「脈絡おかしくない?」


俺とデラボネアは特に何も感じなかったので、顔を見合わせて首を傾げた。

デラボネアは商人だ。ダンジョンの中で商売を始めるのは、この半魚人にとっては当たり前のことだった。


ヒナは「わけわかんない」と呟きながらも、興味深そうに風呂敷の上を覗き込んでいる。


並べられた遺物は三つ。

俺は一つずつ手を当てて、流れ込んでくる情報を読み取っていく。


一つ目。

【媒体:古びた腕時計】

効果:踏空の魔法が使用可能。空中を踏める回数は四十回。


二つ目。

【媒体:指輪】

効果:身体能力を1.2倍に上昇させる。


いずれも俺では使い物にならない。

筋力や俊敏などと書いてない、単純な身体能力の上昇の指輪はとてもお目にかからない代物だし、倍率も1.2倍は高い方だ。

まさしく一級品だろう。

隣のヒナが震えているのが分かった。



俺にとっては最後の遺物が出会いであった。

三つ目。

黒い革のベルトだった。

手を触れた瞬間、はっきりとした異常が起きた。


最初に脳内に流れ込んできた情報はこうだった。


【媒体:ベルト】

効果:無垢なる剣の召喚。


だが、その情報が流れ込んだ直後に、遺物の表面が変化した。

黒い革の表面に、見覚えのある紋様が浮かび上がってくる。


薔薇の意匠。


手の中で、遺物の情報が書き換えられていく。

遺物そのものが俺の手の中で変質していた。


書き換えられた情報が、改めて脳内に流れ込んでくる。


【媒体:ベルト】

効果:黒薔薇の剣の召喚。


黒薔薇。

スロットに入れている冥馬、指輪の騎士団、腕輪の守護者、もう一つの腕輪の赫竜と簒奪者。

それらに連なる、新たな黒薔薇シリーズ。


俺の手の中で、遺物が黒薔薇に染まった。


「成ったか」


近くで見ていたデラボネアが、ぽつりと呟いた。

その声には、確認するような響きがあった。

まるで、こうなることを知っていたかのような。


俺はデラボネアの顔を見た。

半魚人の目は穏やかに笑っているが、その奥にある感情は読み取れなかった。









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