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プロローグ
春花 アキ、24歳。
それが自分の名前だ。
この世界にダンジョンが出現して30年程。
世界は混乱を極めた黎明期を抜け、未だ発展期にあると言われている。
ネット社会が成熟した現代において、ゲームのような「ダンジョン」という特異なシステムは、奇妙なほどあっさりと人類の生活に溶け込んでいた。
夢を諦めたつもりで社会人になった。けれど、半端な覚悟で仕事に向き合って結果が出るはずもない。
今日、俺は勤めていた会社を辞めた。
罵声を浴びせてくる上司から解放されたせいか、見慣れた狭いマンションが、今日はいつもより少しだけ広く、静かに感じる。
いずれこうなる事は、薄々わかっていたのだ。
だって俺は、あの日からずっと夢を諦めきれていなかったのだから。
その静寂を破るように、チャイムの音が鳴り響いた。
「クロ犬宅配便ですー。荷物が大きいので、二人で来ました」
ようやく来た。
俺の探索者としての第二の人生は、ここで幕を開ける。
今度はもう、絶対に諦めない。死ぬまで。




