第8話 (12月 8日のおはなし)
生きる気力を失くし、この地の過酷さに自らの運命を委ねる者も多いと聞く。こちらもさして余裕があるわけではない。もし死にに来たのであれば、気に掛けたところで余計なお世話というものであり、互いに無駄な時間と労力を費やすことになってしまう。
だが自身で怪我の手当てをしていたところからして、この相手がそのような目的を持っているとは考えにくかった。
念の為に訊いてみれば、やはりそのつもりはなかったという。荷を狙ってきた賊と交戦し、撃退はできたものの負傷したということだった。
まともな戦闘の訓練を受けているかは甚だ怪しいならず者の集団が相手とはいえ、ひとりでそれを殲滅したというなら、この少年と言って差し支えない若者の技量は相当なものである。
ただ、先ほどティーゼルが遭遇した死体の数を思うと、戦場でもあるまいし、あの惨状は異常ではないかと思われた。戦士でもないならず者たちは、敵わないと分かれば普通は早々に退散するものだ。それがあれほどの被害を出しながら執拗にこの若者を狙ったのだとしたら、いったい何があったのか。そして彼は何者なのか。
「俺はティーゼル。お前の名は?」
そう尋ねると、何やら含みのある眼差しでこちらをしばし見つめられた。
そのとき、その薄い色の瞳と静かな表情に、先ほどとはまた別の既視感を覚えたが、記憶を探ってみても、これまたすぐに何かに思い当たることはなかった。
なんなんだ、とティーゼルが内心で首を傾げていると、彼はやがてこちらに興味を失くしたようにふいと視線を外し、「好きに呼んで」と非常に困る言葉を返してきた。
名乗るつもりはないらしい。こちらの名を明かしている以上、それは勝手なようにも思えるが、そもそも相手の事情も把握せず、ただ興味が湧いたというだけで近付いたのはこちらの方だ。文句を言える筋合いでもない。
仕方なしにティーゼルは『死に損ない』と呼んでみた。面倒なことを言われた腹いせも少しばかり含んでいる。もっと言うと、そういった物言いや態度にどのような反応を見せる人物なのかを測る意図もあった。
何しろ、手負いではあるがあれだけの敵を斬り捨てている。若く経験が浅いゆえに余裕がなく、死に物狂いで切り抜けた結果かもしれないが、それにしてはやけに落ち着いていた。大量の命を一度に屠ったことに、そこまで衝撃や負い目を感じているように見えないのだ。
となると、ティーゼルとしては自分の身の安全のためにも、ある程度この相手の気性を把握しておく必要があった。
程度の差はあれ、さすがにこの呼び名には異を唱えるだろうと思ったのだが、彼はほんとうにどうでもよかったらしい。何の抗議の態度も見せることなく、あっさりと同意した。
それがつい、昨日のこと。




