第7話 (12月 7日のおはなし)
間近で彼を見下ろし、しげしげとその姿を観察したティーゼルは無意識に顎を撫でる。
(なんというか……。近くで見るとひどい有様だな)
衣類は先ほど見て取った通り、襤褸にはなっていない。しかし、地模様でもあるのかと思えてしまうほどに、満遍なく汚れていた。だがそれは土や埃によるものには見えない。
(返り血……か?)
その滲みは、血の雨の中を掻い潜ってきたとしか思えなかった。
服だけでなく、髪にも顔にもべっとりとこびり付いていて、斑模様のようだ。
負傷しているのであろう左脇腹は、服の上から鞣した革が巻かれ、幾分血が滲んでいるものの、今現在流れ出ている様子はない。
自身の出血によるものなら、頭の天辺から汚れているのもおかしいので、となるとやはりこれは他者の血だろう。
もはや髪の色も肌の色も判然としない。陽に灼かれたのか、血で汚れていない箇所の髪は褪せ、皮膚がぼろぼろに剥がれかけているところを見ると、元々薄い色だったと思われた。
(もしかしたら同郷かもな……)
自身、太陽の恵み薄い国の出身であるティーゼルは、そう推測しながら彼の顔を覗き込む。
(……んん?)
汚れと皮膚の損傷が邪魔をし、造作を正しく捉えるのが難しいのだが、にも拘らず、ティーゼルはその顔に心のどこかが引っ掛かった。
(見覚えがある……のか? いや……心当たりはない。気のせいか)
などと訝しく思いながらしげしげと遭難者の顔を観察しているうちに、やがて相手が目を開けた。
(しまった……)
ティーゼルは内心で渋面を作る。
不自然なほどに近い距離で他人に顔を覗き込まれたら、誰だって警戒するだろう。況してや、こんな殺伐とした土地では。
瞼に隠されていた瞳は、この薄明の中では一見灰色のように見えるが、恐らく光が当たればもう少し青い色味が強くなるのだろうと思われた。
相手の顔に何かを感じて以降、知らず意識を張り詰めていたティーゼルは、相手がそんな色の瞳であることに、明確な理由も思い当たらないままほっと息をつく。
よく分からないが、自分は別の色を想定しており、それが違っていたことに安堵したらしい。仮に忘れている誰かの面影と重ねていたとして、その相手とは明確に別人だということだから。
――ただ、だとしたら、いったい自分は何色を想像し、そしてそれはいったい誰の色だったのか。
(……分からん。なんなんだこの……既視感のような引っ掛かりは)
落ち着かない心中ではあったが、覗き込んだまま相手からはっきりと不審の眼差しを向けられ、ティーゼルは我に返る。急いで上体を起こし、少しばかり相手から距離を取った。
「……大丈夫か? 何があった」
致し方なし。そう思いつつ、ティーゼルはたった今意識を取り戻したらしい若者に尋ねてみたのだった。




