第5話 (12月 5日のおはなし)
「さあ、じゃないだろう! 殺すつもりだった、なんて只事じゃない」
彼の言葉に、『死に損ない』は不思議そうな顔をゆっくりとこちらに向けた。
「……そう? 彼だけ……ただのならず者じゃなかった……。野放しにはできない……と思うけど」
ティーゼルが心配する通り、『死に損ない』の声は途切れ途切れだ。しかしその発言は到底同意できるものではなかった。
「そんな理由なのか!? お前とは関係ない目的で潜伏してただけかもしれないぞ?」
驚きに目を瞠り、指摘するティーゼルに構わず、『死に損ない』は淡々と言う。
「それなら……気取られないように動くべきだし……。だから……どういうつもりか……吐かせようと思ったのに」
ティーゼルは口を噤み、『死に損ない』に向ける目を眇めた。
この連れの言動は終始不穏だ。
そして言葉を交わし意味も通じているようでも、その思考の辿る道がまるで読めない。
……いや、彼の言うことは理屈は通っている。しかし、人間の思考とはそれだけから成るものでもない。
(こいつの考え方には……何かが欠落している)
欠けているのが何なのかは、すぐに思い当たった。感情と、それに伴う思考の揺れ――言うなれば躊躇いや逡巡である。
紛らわしいことに感情が全く無いわけではない。部分的に抜け落ちているか、停止しているようであった。
彼の言行は思い切りが良いというより、常識や良識、はたまた情といった、まともな人間がおよそ共通的に持ちうる反応によって作用するであろう、無意識下の抑制が効いていないのだ。
「……そのうち、俺もお前に殺されそうだな」
呆れ顔のままぽつりと漏らしたティーゼルの呟きは、明確な思考を介さずどこか感覚的な部分から得た帰結のようだった。
『死に損ない』はさほど表情を動かさずに小首を傾げる。
「ティーゼルは殺さないよ」
旅の連れに面と向かって言われる言葉としてはずいぶんな内容のはずだったが、それについては特に何の感慨も抱いていないような、あっさりとした口調だった。
そのことに自身の推測が裏付けられたように思ったティーゼルは、なんとも複雑な心持ちになりながら、正直な疑問を口にする。
「なぜだ。お前を助けたからか?」
すると『死に損ない』は黙り込み、ティーゼルの目を静かに見つめた。
自然とこちらも見返しつつ、ティーゼルは相手の相貌に、どこか引っ掛かりを覚える。
それは初めて彼の顔をまともに見たときにも感じた違和感だった。しかしあまりにも朧げな感覚で、原因を突き止めようとしてもいまだに掴めない。
しばし身動ぎもせず、探るような眼差しをティーゼルに注いでいた『死に損ない』は、やがて虚空に視線を転じた。
「……そういうことじゃないんだけど」
小さな声でそう答えると、彼は限界が来たらしく、ティーゼルが何かを言う前にそのまま目を閉じた。




