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第19話    (12月19日のおはなし)

 無事『ニームの息吹』を回収した二人は、陽が傾き始め、日射が幾分和らいだこともあり、元の岩陰には戻らず移動することにした。

 いつ目覚めるか分からないならず者たちの近くで休む気になれなかったのだ。

 とはいえ、ニームの仕業と思しき不可解な事象に遭遇した以上、目的地が近い可能性が高い。できれば周辺を探りたい彼らは、ほど近くに地面に走る巨大な亀裂のような細長い谷間を見つけ、当座の休憩場所にすることにした。

 さほど深くはなく、幅も大人が両腕を広げるより少し広い程度であるが、前後は緩くうねりながら遠くまで伸びており、全容を把握することはできない。

 谷間は南北に走っているらしく、斜陽が筋を作って差し込み、片側の崖を照らしていた。見上げた頭上は相変わらずの青空だ。

 巨岩の陰ほどの涼しさはないが、それでも地表にいるよりはよほどましだった。

 本来なら活動を控えるべき過酷な時間帯に出歩き、果ては戦闘までする羽目になった『死に損ない』は、案の定と言うべきか、この場所に辿り着くなり地面に倒れ込んだ。

 ティーゼルはそんな彼を後目しりめに腰を下ろし、旅嚢から干し肉を取り出してかじり始める。

 『死に損ない』は到底食料を口にする元気は無いようだった。若干恨めしげな視線を感じるが、彼は先ほど目覚めたときに何か腹に入れていた様子であったし、相手に遠慮して自分まで体力を削る真似などできるわけがない。

「大人しく寝てないからだ」

 まるで子供を叱るような気分で、ティーゼルは言う。『死に損ない』はふいと顔を背け、そんな様子にやはり子供みたいだとティーゼルは苦笑した。

 干し肉を食べ終え、革袋に入った水を数口飲んで一息つくと、ティーゼルは黙って休んでいる彼に話し掛けた。

「……お前、賞金首だったのか」

 つまり彼を発見する前にティーゼルが出くわした亡骸の数々は、大金目当てに彼を襲った連中だったのだ。欲に駆られて引き際を誤った結果、ほぼ全員が『死に損ない』に返り討ちにされたということか。

「知らないよ……そんなの」

 寝転がりながら、『死に損ない』は小声で言った。

「やけにしつこいとは思ったんだ……。おかげで……こんな奥地にまで追い込まれた……」

「なるほど」

 ティーゼルは納得した。彼は方角を見失って迷い込んだわけではなく、襲撃者たちに追い回されて望んだ方角に向かえなかったのだ。

 そこまで明確に狙われていたとあっては、出くわす人間すべてを殲滅しそうな彼の行動も分からないではない。極端だとは思うが。

(だとしたら、なぜ俺に対しては初めから攻撃的じゃなかったんだろうか)

 素直にこちらについて来ているのが、逆に不思議になる。

 そんなことを考えていると、『死に損ない』が口を開いた。

「……彼らが言ったことは……気にならないの?」

「お前が何かを盗み出したとかなんとかいうやつか?」

「そう」

 ティーゼルは馬鹿なことを、と言わんばかりに肩を竦める。

「貴族がなり振り構わず無法者を焚き付けてやろうとしてることに正当性なんかあるか」

 きっばり答えたティーゼルに、『死に損ない』は、またほんの少し口角を上げたようだったが、先刻新たに浴びた血のせいで、ますます表情が分からない。

「顔、いたらどうだ」

 『死に損ない』は顔をしかめた。

「そうしたいけど……こすると皮膚ががれて……物凄く痛い」

「……あぁ」

 そういえばそうだった、とティーゼルは嘆息する。水の一滴も無駄にできないこの土地では、洗顔など以ての外だ。

「日中に顔をさらして歩き回ってたのか」

 呆れた声で言うティーゼルに、『死に損ない』は頷いた。

「……見渡す限り……誰もいないっていうのが新鮮で……」

「馬鹿な真似したな。お前、よく分からんが北の方の出だろう。ここの陽に耐えられるものか」

 『死に損ない』は視線を虚空に巡らせる。その眼差しは妙に澄んでいた。

「分かってたけど……もうどうでもいい、って気分だったから」

 ティーゼルは若干驚いた顔で、『死に損ない』を見遣る。

 初めて彼の内心をまともに聞いたような気がした。

「お前……ここの盟約のことも知ってたな。何者なんだいったい」

 『死に損ない』は予想通り黙り込んだ。

「……まあ、言う気がないっていうのは重々承知だが。それでも訊きたくなる」

「……訊くのは構わないんだけど……こちらから明かすの……癪なんだよね」

「はあ?」

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