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第18話    (12月18日のおはなし)

「とにかく日陰に戻るぞ」

 ティーゼルはそう言って『死に損ない』に手を差し出す。彼は大人しくその手を借りてどうにか立ち上がったが、岩陰とは逆の方向に視線を向けた。

「……これ、便利だからもう少し回収していく」

「あのなぁ……」

 あまりにニームに対する恐怖心の薄い『死に損ない』の言動に、ティーゼルはげんなりした声を出したが、確かに今の彼には有効な護身の術でもあることは、先ほど証明されたばかりだ。強く反対もできなかった。

「その瓶を貸せ。俺が取ってくる。吸い込まなければいいんだろう?」

 『死に損ない』は少し考える素振りを見せてから、躊躇ためらいがちに頷いた。



 焦熱の大地の照り返しに辟易へきえきしながら、ティーゼルは先ほどの場所まで戻る。

 『ニームの息吹』は風に散ることなく残されていた。思えば、吸い込んだだけで意識を失うような代物しろものがこのまま野晒のざらしというのも物騒である。

 ティーゼルは自身の荷物から取り出した手布を鼻から首にかけて巻き付け、用心深く特有の光を放つ粒子のかたまりに近付く。

(こいつに眠りの作用があるというなら……。リサの意識が戻らないのも()()なのか……?)

 常人ならばすでに衰弱し、命も無いであろう長い間、眠り続ける彼女の姿が脳裏に蘇る。もはや病の域を超えた呪いであるとしか考えられず、そのようなものをもたらす存在と言えばニームのほかに無い。

 そんな憶測以外、確たる当てもなくティーゼルは旅立った。信頼する妹に彼女の身柄を託して。そばにいたところで、あまりにも打つ手が無かったのだ。

 遺構を探しているのは、彼女がその謎の眠りに落ちた場所もまた、ニームの遺構のひとつであったからだ。しかしそこは既に崩壊し、なんら有用な手掛かりも残されていない。

 仕方なく別の遺構を探し始めたものの、恐怖の象徴であるニームの情報はほとんど世に伝えられていないのが実情だ。まずもって市井しせいの民に知る者は無い。

 教会からどうにか聞き出せた場所をあらかた当たってみたが、大陸中を探し回っても、何の手掛かりも得られなかった。

 途方に暮れていたところで、彼の許に届いたのが、妹からの書簡である。それは教会も把握していない遺構の存在を示す内容だった。『標』――すなわち部分的に表出している遺構の一部、あるいはかつて、実際のニームの時代に人々を遺構へ導くための道標のことだ。

 おまけに、その場所は大陸最大の版図を誇るエルムの盟主リツェア帝国が、草創期に各国と結んだ、あらゆる諜報活動を禁じるという奇妙な約定の対象地だった。

 盟約の主であるリツェア初代皇帝は、賢者マンドレイクの実子である。――つまりいまだニームの影の色濃い時代に、この地に何かがあったのだ。

(……なんでもいい。少しでも……何かが掴めれば)

 そう心の中で呟き、ティーゼルは慎重に『ニームの息吹』へ手を伸ばした。

 この異質な輝きは、意識の無い状態で見つかった彼女と、同じ場所で絶命していた彼女の父とが横たわっていた、朽ちかけた大理石の床の上でも見かけたものだった。

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