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第16話    (12月16日のおはなし)

 襲撃者が現れた途端、何の躊躇ためらいもなく『死に損ない』が剣を抜こうとするのを見て、ティーゼルは咄嗟に彼の外套の襟首を掴んで引っ張った。

「馬鹿! あの数相手になんで戦おうとする」

「この身体じゃ逃げ切れない。それにこの先付きまとわれても面倒だよ」

 ティーゼルは舌打ちする。素早く周囲に目を配るが、敵が現れた巨岩のほか、身を隠す場所は近くにない。だからと言って十人近い敵を相手に正面から戦おうというのも無謀である。

「ったく……!」

 ティーゼルはふところから小刀をいくつか取り出した。先頭きって駆けてくる二人組に向かって投げつける。

「ぎゃ……っ」

 すぐさま悲鳴が上がり、男たちはもんどりうって地面に倒れ込んだ。

「凄いね」

 『死に損ない』は本当にそう思っているのか分からない口調でティーゼルの腕を褒める。

「お前も剣で斬り結ぶ以外の敵の止め方を覚えろ」

「確かに……」

 ティーゼルの言葉に素直に頷く『死に損ない』だったが、結局今は長剣しか得物が無いらしい。小刀を搔い潜ってやってきた男に剣を抜いて立ち向かう。

 ティーゼルも間合いを詰められたために剣を抜くが、『死に損ない』と打ち合っている男がそれに気付いて言った。

「おい兄ちゃん、俺らはこっちのガキにしか用はねえんだ。下手に加勢して怪我しねえほうがいいぞ」

 日除けに被った粗布の陰から髭面ひげづらが覗く。日焼けしきった肌に顔の下半分を覆う伸び放題の髭、長い間この荒野を跋扈ばっこしているならず者と思われた。

 ティーゼルはさりげなく剣を構え、『死に損ない』の剣筋がまだ鈍っていないのを確かめつつ、とぼけた調子で訊いてみた。

「こいつは何をしたんだ」

「へっ、なんでもお偉ーい家に逆らって大事なものを盗み出したんだとさ」

「盗んでない。奪いはしたけど」

「へっ、うるせえ、どっちでもいいさ。よっぽど恨まれてるみたいだなぁ。大貴族さまが俺らみてぇのに金ばら撒いてよお。さらには殺して証拠にこいつの通行手形を持ってけば、たんまり褒美がもらえるんだとよ! いやぁ、有難てぇこった。荒野暮らしにとっちゃぁ恵みの雨だ。兄ちゃんも俺らの方に加勢すればお零れにあずかれるぜ。どうだ?」

生憎あいにくそこまで困ってない」

 ティーゼルがすげなく拒否すると、他の追いついてきた男たちが一斉に彼にも襲い掛かる。

 ティーゼルと『死に損ない』はどちらが始めるでもなく背中合わせに立ち位置を取り、取り囲むならず者たちの剣を手慣れた様子で退け、あるいは受け流す。

「……このまま荒野で暮らすなら、いずれニームに食われるよ」

 首領格と思しき先ほどの男の剣を受けながら、『死に損ない』は落ち着いた声で言った。

 遺骸も魂も食い荒らすと言われるニームから逃れ、死後の安寧を得るには早急な埋葬と教会司祭のとむらいが要るとされている。しかしこの荒野で落命した場合、それは期待できない。この大陸の住人の誰もが恐れる末路が、この地ではいつでも口を開けて待っているのだ。

 果たして、『死に損ない』の指摘に男の目の色が変わった。

「うるせえ! 偉そうに説教垂れんじゃねぇよ。てめぇだって悪事働いて逃げ込んだクチじゃねぇか!」

 その怒声には、踏み外した道に戻りようのない己への、絶望が混じっているように感じられた。

 怒りに任せた一撃を、『死に損ない』は辛うじて受け止める。さすがに傷に響いたらしく、顔を苦痛に歪めたが、すぐに真顔に戻るとくらい声で言った。

「……外に戻るつもりがないなら、もう終わりにしたほうがいい」

 それは呟きに近く、恐らく相手の男の耳までは届かなかっただろう。

 外套のフードの奥で、『死に損ない』の目がほんの一瞬、鋭く光った。次の瞬間、彼は身を沈め、相手の懐に向かって大きく踏み出し、剣を一閃させる。

 男の身体を深々とえぐった剣先がそのまま中空に弧を描く。遅れて噴き出した血潮が『死に損ない』の頭上に降りかかり、あるいは彼の外套と頬を染めた。

首領かしら!」

 他の者が気付き、包囲網に一気に動揺が走る。

 避けようともせず、返り血をまともに浴びた『死に損ない』の凄絶な姿に、誰もが言葉を失った。

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