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第12話    (12月12日のおはなし)

(我が妹ながら、まったくなんていう挑発だ)

 ティーゼルは小さくため息をつく。

 隣では『死に損ない』が身を横たえ、まぶたを閉じている。傷が痛むのかうずくまるように身を縮めており、呼吸は浅く忙しないが、眠ってはいるらしい。

 自分も日中は身体を休めなくてはならないが、軽く微睡まどろんだところでふと目が覚めてしまった。

 結局未だ全てが謎のまま、岩陰の境界の向こうに放置されているあの亡骸が気に掛かるのか。

 風に乗って届く熱気のせいか、一度目覚めるとなかなか寝付けない。手持無沙汰になったティーゼルは、仕方なく身を起こし、何気なく自身の荷の中に放り込んであった一枚の羊皮紙を取り出したのだった。

 この荒野に入る前に届けられた書簡である。しかし、内容よりも文面の端々から立ち昇る挑戦的な筆致の数々が目につき、苦笑を禁じ得ない。

 もっとも、ただでさえ気苦労の多い妹にさらに心配を掛けているのは事実であり、彼女がこの程度の嫌味で済ませてくれていることに、逆に感謝するべきなのかもしれなかった。

 自分にはこんな物言いをしてくるが、実のところ苦労性なのは彼女のほうなのだ。

(まさか俺たちのことにまで巻き込むつもりはなかったんだが……)

 見上げれば、吸い込まれそうな空が広がっている。遮るものは何もないのに、その深い色合いの蒼穹はあくまで遠い。手を伸ばして確かめるまでもなく。

(俺の探しものも、まるで天を掴もうとするかのようだ)

 決して近付けはしない、この目に見えたとしてもこことは違う世界。

 自分は心のどこかで、それに手が届くと思っていないのだ。

 それを妹には見透かされているらしい。だからこそ、あんな手紙を寄越したのだ。



 数刻もしたのちだろうか。いつの間にか眠りに落ちていたティーゼルは、かたわらで人の気配が動くのを感じて目を開けた。

 『死に損ない』が先ほどよりは幾分ましな顔色で身を起こしていた。旅嚢りょのうまで背負って立ち上がるのを見て、ティーゼルは目をこすりながら声を掛ける。

「なんだ、俺を置いて出立か?」

 『死に損ない』は首を振る。

「あの死体のところに行くだけ」

「……何をする気だ」

 起き上がりつつティーゼルが問うと、『死に損ない』は淡々と答えた。

「色々調べてみる」

 そのまま、ゆっくりではあるが迷いのない足取りで、くだんの遺骸に向かう。

 彼の後姿をしばし眺めてから、ティーゼルは肩をすくめて呟いた。

「……慣れてるなあ」

 人の死に。

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