第11話 (12月11日のおはなし)
兄様。
ご健勝でお過ごしでしょうか。今頃はどちらの空の下を彷徨われておいででしょう。
……などと申すのも白々しいですわね。わたくしの許には、兄様の足取りが日々送られてくるのですから。
ええ、兄様ご自身からは一度もご連絡をいただいたことはありません。ですから、わたくしが独自に対策を取りましたの。兄様に文句を言われる筋合いはございませんので、悪しからずご承知おきくださいませね。
まったく、わたくしの周りには気儘に振舞われる方のなんと多いことでしょう。お陰でそうはできないわたくしたちはいつも苦労しますわね、と、わたくし、ある方といつも愚痴を零しておりますの。どなたなのかは兄様には秘密です。
――さて、東方の雪解けの具合はいかがでしょう。やはりこちらよりは、幾分早いのでしょうか。
実は兄様に耳寄りな情報を得ましたので、こうして急いでお手紙を認めることにいたしましたの。
いま兄様が立ち寄られている街から南へまっすぐ下っていくと、一日半ほどで不毛の大地が広がっておりますこと、兄様もきっとご存じでしょう。
先日手に入れた古書を紐解いておりましたら、どうやらかの地に、兄様がお探しの『標』のひとつが存在するようですの。
残念ながら、信憑性については保証いたしかねます。なにぶん古い古い記録でしたので。ただ、『標』については時を遡った文献のほうが、より正しい可能性はありますわ。
問題は、そちらに我が家の目も耳も、忍ばせることはできないことです。なんでも、かの地は盟約の対象の地で、影の者を踏み入らせてはならないという掟があるのですって。それを破ったらどうなるのかしら、と思ったのだけれど、どうやら外交問題になるということでしたので、大人しく従わねばならないようです。
ですから、仮に兄様が遭難されてもわたくしはお助けすることができません。遭難なさったことすら知る術が無いのです。
ああ、知らぬ間に兄様がニームの餌食になってしまわれたらどうしましょう。可能性は低くはないと危惧しております。なにしろ、かの地に『標』がほんとうにあるのだとしたら、むしろ彼らの領域に近いということなのですもの。
よくよくお考えのうえ、もし行かれるのでしたら万全の準備を整えてからになさいませね。
ここで怖じ気付かれてお戻りになったとしても、わたくしは兄様を責めたりはいたしませんので、どうぞご安心を。
もちろん、それを聞いた義姉さまがどうかは、存じませんけれど……。




