第8話
「どうやら好き勝手に暴れるほど、頭が空っぽってわけではないみたいね」
「ハッ。何を言ってやがる。お望みなら今すぐにでもお前の首を跳ねてやろうか?」
だがこの状況を逆手にとって、上手に出られるのも我慢ならなかった。
「お嬢様になんて口を!」
「いいのよ千奈美。今のこいつは、こうやって牙が抜かれてない事をアピールするしかないのよ。いいでしょう。今の内に私たちの関係をはっきりさせておきましょう」
「ほう、一体何を仕掛けて――アダアダアダアァァァァッ!!」
臨戦態勢。一瞬あれば蒼生の首に手をかける準備を整えた閃也だったが、その直後体中に電流が走った。
体の内部、内臓・骨・筋肉全てが燃えるような激痛に晒される。
「あんたの体中に私の魔力を通したナノマシンが施されているわ。一度私が念じれば私の封印魔力であんたの魔獣因子の機能が阻害され、無防備になった体は激しい放電によって自由を奪われる。現代科学と魔術を組み合わせた最新技術の結晶ね」
「ふざ……けんな……いつの間に……こんなもの……」
もう放電は止んでいたが、それでもまだ体全体に痙攣が走っている。
「さぁそれは知らないわ。でも、これであんたと私の関係を理解してもらえた? あぁ言っておくけど、私の心肺が停止したらナノマシンが自動的にあんたの体を焼き切るらしいから注意しなさい」
ここまで来たらその話を疑う余地はない。鬼の攻撃を受けても平然としていられた閃也でも、その基となる魔獣因子を封じられてしまうと手も足も出ない。
「だがそれで本当に俺を無力化出来るなら、何故最初から特査はそれをやらなかった?」
「先ほど伊坂さんも言っていたでしょ?
私の魔力浄化力ならばあんたを制御できる。つまりそういうことよ」
手段として確立はしていたが、それを担うだけの人材が特査にもいなかった。
つまり蒼生という娘は、特査という仰々しい名前がつくエリート集団でさえ敵わない才能を秘めていると言うことか。
「御理解いただけた?」
ソファーに座り優雅に紅茶を飲む蒼生に対して、何の抵抗をする余裕もなく床に平伏す閃也。状況的に二人の関係、主従関係はもはや明確だった。
「ざけんな! 認めねぇぞこんな状況! てめぇの犬になるんなら、いっそ舌切って」
「因みに聞くけど、あんた舌切った程度で死ねるの?」
この時ばかりは、自分の異常な生命力を呪った。
「決まりね。それじゃああんたはこれから自分の部屋に行って、明日からの準備をしなさい。千奈美、悪いけど閃也を部屋まで案内してもらえる?」
「畏まりました」
「ちょっと待て。明日からの準備ってなんだ? 俺に何をさせる気だ」
「あんたは明日から私と一緒に魔獣討伐隊『軍』の訓練校に通うのよ」
「…………は?」
「学校って分かる?」
「馬鹿にすんじゃねぇ、それぐらいは知ってる」
知識としてその程度の事は学んでいる。
「俺が言いたいのは、何で今更学校なんて通わなくちゃいけねぇんだってことだ」
特査の守護者ということで閃也は当然として、蒼生も現時点でプロの封魔師よりも実力は抜きん出ているのは、誰の目に見ても明らかだ。
「あんたの言い分は十分理解できる。でも今の規則では、プロの封魔師になるのは訓練校で三年就学し、卒業することが絶対条件なの。才能とか、権力とかは一切関係無しにね」
訓練生でも予備役として、魔獣顕現の際には実践投入される場合がある。そこでの活躍が、学校の成績としても処理されるわけだ。
「てことはつまり俺がお前の守護者になったら、お前がそ訓練校に通っている限り、俺もそれにくっついていかなきゃならねぇってことか?」
「というか、すでにあんたは私の守護者として学校にも申請されてるし。あんたに拒否権はないわよ」
「ふざけんな!」
「さっきからしつこいわね。それ口癖? 私は全くふざけてないわよ」
「ふざけ――アガガガガァッ!」
もはや聞く耳を持たないようで、閃也の反抗が収まるまで蒼生は問答無用で電撃を浴びせ続けた。




