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ガーディアン  作者: ハルサメ
VS鬼
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第2話

 紫堂蒼生は見るからに不機嫌だった。十人に聞いたら十人がイエスと答えるだろう端整な顔立ちが、今や眉を寄せ丸くややつり目な瞳で正面をキッと睨みつけ、腕を組みながらソファーに腰掛けている。


 その正面には困った表情で頭を押さえる父親――紫堂元の姿があり、後ろでは蒼生のメイドである千奈美が心配そうな面持ちで二人を見守っていた。


「だから理解してくれないか蒼生」


「無理です。納得がいきません」


 頼むような元の言葉に、蒼生はきっぱりと答えた。


「納得がいかないも何も、守護者が決まっていない以上実戦に出る事はできないんだ」


「そこが納得いかないのです。お父様も私の力は御存知のはずです。守護者が決まっていないというだけで、私が待機なのは納得いきません」


 娘の強気な物言いに、元は深く息をついた。


「守護者はお前たち封魔師を守るための存在だ。封魔師は魔物を封印できるが、直接戦う力はないに等しい。身を守る術が無いのに魔物と対面させるなど自殺と同じだ」


「後れを取らずに封印すれば良い話でしょう?」


「そうじゃない、これはリスクの問題だ。蒼生、お前は何故そうまでして守護者をつけたがらないんだ?」


「私には不要だからです。お父様も分かっているでしょう?」


 あくまで寄り添うような言葉遣いを続ける元に対し、蒼生は断固とした態度を崩さなかった。


「お前が守護者を信用していないのは分かっている……だがダメだ。認められない」


「お父様!」


「どうしてもというのなら専属の守護者でなくてもいい。だが必ず誰かをつけなさい。分かってくれ蒼生、これ以上私を困らせないでくれ」


 頭を下げる元に、蒼生はそこから先の言葉を飲み込み、膝の上で拳を強く握った。自分がわがままを言っているのは分かっているからだ。


 どこからともなく顕現し、現世に破壊の限りを尽くす異形の存在、魔物。想像上の生き物でしかなかったそれらが現世に現れてから、約半世紀の時が経とうとしていた。


 人知を超える生物の出現、それはそれまで地上の頂点に君臨し続けてきた人間の生態系に、決して小さくはない打撃を与えた。


 自衛力に欠しい中小の国々は魔物によって次々とその存在を脅かされ、また大国にしても当時の最先端の科学兵器ですら魔物には足止めにしかならず、根本的な魔物の討伐には至らなかった。


 今まで人類が確立してきた様々な営みが、魔物によって白紙に戻されようとしていた。


『人類が滅びる日もそう遠くない』


 人類の救世主が現れたのは、そう囁かれ始めた時だった。彼らは科学が牽引していった時代の中で疎まれ、表舞台から姿を消した魔術師であった。


 世界の危機に対し、重い腰を上げた彼らの持つ古よりの技術――魔術によって、魔物を無力化されていった。


 魔術師の表舞台への台頭。それにより人類は魔物に対抗術を持つことが出来た。


 しかし血脈が絶対である魔術師の数は、魔物の顕現数に対し明らかに不足していた。


 だからこそ時代の中で魔物に対抗できる力、魔物を封印できる力を持つ封魔師はとても貴重な存在であり、だからこそ重宝され守らなければいけない。


 そしてその封魔師を守り、封印をサポートするために生み出されたのが魔物因子を埋め込まれた守護者たちだ。


 魔力に適性を持つ者に魔物因子を埋め込むことで、人を超えた力を行使できるようになる。彼らはその力を持って魔物と戦い、封魔師が封印しやすい状況を作る。


 今の制度では封魔師が現場に赴く際には、必ず守護者が同伴していなければならない。


 それは封印の助手という意味でも貴重な封魔師を守る本当の守護者という意味でもあり、封魔師の単独行動は許されていない。


 蒼生も訓練生とはいえ、それは例に漏れない。実技訓練では必ず同年代の守護者とペアになり、低級ではあるものの本物の魔物を相手にする。


 訓練校に通って早一年、蒼生の周囲でもすでに殆どが固定のペアを組んでおり、優秀者の中で守護者が固定されていないのは蒼生くらいであった。


「あとで何人か守護者のデータを送ろう。そこでもう一度考え――」


 元が諭すような言葉で話を終わらせようとした矢先、しかし突然それを遮る音が響き渡った。


 体に響くような重低音、緊急避難警報のサイレンである。


「魔物か!」


 魔物が顕現する直前、その空間に異常な魔力の乱れが生まれる。


 人知を超える魔物に対し一般人が出来ることは何も無く、その乱れをいち早く観測しサイレンを流すことで、魔物による人的被害を少なくする事が出来る。


 そしてこのサイレンは封魔師と守護者にとっては出動要請を意味している。


 一流の守護者でありそのサイレンにいち早く反応した元だったが、その隙を突いて蒼生はソファーから飛び上がり、部屋を出て行こうとする。


「蒼生! 待ちなさい!」


 制止を振り切ろうとする蒼生だが、扉の前で千奈美が立ち塞がった。


「千奈美、そこをどきなさい!」


「いけません蒼生お嬢様! どうか落ち着いてください!」


 千奈美は両手を広げ堅い意思を見せる。普段は蒼生に反抗的な態度を見せない千奈美だが、声を張り上げ蒼生を引きとめようとする。


「ごめんなさい千奈美」


 立ち塞がる千奈美に、蒼生は肉薄した。封魔師である蒼生に純粋な戦闘力は無い。


 だが護身術としての合気道に加え、蒼生よりも戦い事に慣れていない千奈美が相手では結果は見えていた。


 驚いている千奈美を、怪我をしないように注意しながら床に投げ飛ばす。


「蒼生!」

 

 背後から近づく元の気配に気付き、蒼生は腰に下げたホルスターから封印武装を抜き父親に向ける。拳銃のフォルムをしているが、銃弾が発射される訳ではない。


 封印武装はあくまで魔物を魔石へと封印するための武器であり、物理的な殺傷能力は皆無だ。


 だが戦闘力的に蒼生を難なく取り押さえる事が出来るはずの元は、そこで足を止めた。


 魔物だけでなく、魔物因子を埋め込まれた守護者にも封印武装はこれ以上に無い脅威を持っている。


「本当に、ごめんなさい」


 千奈美や元が自分の身を案じてくれているのは分かっている。ここで一人飛び出すのは誰が見ても危険な行為である。


 ましてやその彼らを力ずくで黙らせる行為が正しくない事も十分理解している。


 だが蒼生も譲る事はできない。


――守護者なんていらない、私は一人で何とかしてみせる


 最後まで封印武装を構えたまま、蒼生は部屋を飛び出した。

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