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ガーディアン  作者: ハルサメ
VS鬼
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第1話

 そこは地獄と化していた。周囲一体を黒々とした煙が立ち込め、焦げた臭いと共にゆらゆらと天に昇って行く。


 バチバチと音を立てる炎が、まるで目の前の悲惨な状況をまじまじと見せつけるかのように煌々と燃えていた。


 かつて建物だったもの、科学技術を用いて作られたコンクリートジャングルを象徴するビル群は原型を失うほどに倒壊し、辺りには瓦礫や鉄骨が散在していた。


 地は抉れ、爆発した様なクレーターが残されている。それはまさしく廃墟という言葉を具現化した場所だった。


 果たして数時間前、ここがのどかで平和な時を過ごしていたと聞いて、誰が信じるだろうか。それほどまでに、この場所は普段の面影を感じさせなかった。


 そしてそこには、人が生活する場には相応しくない異形の存在があった。


 傍にあるビルに迫る五十メートルを越える褐色肌の巨体。毛の生えていない頭部には二本の角が生え、その下では巨大な一つ目がギョロギョロと周囲を忙しなく動いていた。巨大な牙が生えた口からは、周囲に獰猛な唸り声が響き渡った。


 一つ目の鬼。怪獣という文字通り、鬼は都市を破壊しながら突き進む。一歩歩く度にコンクリートの地面が悲鳴を上げ、脛辺りにぶつかった信号機はあっけなく吹き飛ばされた。


 闊歩するのは片道二車線の道路。だが鬼の肩幅はその道路の幅とほぼ等しく、左右に揺れる手が道路わきのビルにぶつかり、いとも容易く粉砕されていく。


 長い時間をかけて作り上げてきた人類の文明が、あっさりと崩壊していく。


 それは、鬼が十字路に差し掛かった時だった。鬼の右後方にある高層ビルから巨大な網が放たれ、鬼に覆いかぶさった。


 太さが三センチほどしかない縄で作られた網は、しかしただの網ではなかった。


 引き剥がそうとする鬼だが、網には粘着性の物質が塗られており、動けば動くほど鬼の動きの自由を奪っていく。


 蜘蛛の糸で出来た網。これは文字通り、そういった経緯で出来たものだ。網の根源、ビルの屋上には、背丈二メートルは越える大男が立っていた。漆黒のカーゴパンツに、白のタンクトップ。


 その網は鍛え上げられた男の両手首から生み出されており、鬼が動き手繰り寄せるたびに新たな糸が生まれていく。


 蜘蛛の魔物因子を持つ守護者。彼が生み出した糸は、蜘蛛の糸そのものであり、鉛筆ほどの太さになれば、理論上飛行機でさえ受け止められてしまう代物である。


 鬼の動きは封じた、人類の反撃はここからだ。


 男が糸を切り離すと同時に、鬼を囲う残りの三つのビルの屋上の縁に男たち整列する。先ほどの男たちとは違い、黒のジャケットを身に纏う彼らは、一斉に右手を掲げた。


 すると一つのビルには燃え盛る炎が、もう一つのビルからは荒れ狂う風が、別のビルからは唸る雷撃が生み出された。


「放て!」


 号令の後、その三つは同時に鬼に向かい放たれる。それらは動くことができない鬼にまとめて衝突し、干渉、爆発を引き起こして周囲に轟音と衝撃波を撒き散らした。


 先ほどの鬼の破壊を上回る規模の威力に、男たちが立つビルが悲鳴を上げる。振動で各階のガラスが吹き飛ぶ中、幸いビルは倒壊することは無かった。


 そして爆心である鬼は、動く素振りを見せなかった。爆煙の中から現れた鬼の上半身にはノイズが走っていた。


 乱れた映像のように輪郭があやふやになり、存在がブレていた。そして、やがて鬼の体がゆっくりと傾いていく。


 倒れる――男たちの頭にその未来が浮かんだ、その瞬間。鬼の右足がその巨体を支え、一つ目が男たちの内の一つである左前方のビルを捉えた。


 そして、そこから光の奔流が放たれる。


 光は一瞬でそのビルの中層から上層を包み、跡形も無く消し去った。輪郭部分、ビルの下層の縁は赤黒く変色し、ドロドロとマグマのように溶け出していた。




「え……A班……ロスト」


 その様子を衛星を通した映像で見ていた男は、オペレーターの部下が戸惑いながら口にした報告に顔を歪ませた。


「他の班はどうした!?」


「B、C、D班は戦闘続行可能ですが、現状で戦線の維持は困難。こ、このままでは壊滅します」


「奴の魔力の残量は!?」


「先ほどの攻撃で対象の潜在魔力は……軽微の減少、依然レベル5のままです」


「馬鹿な……いくら鬼だとしてもこれほどまで……」


「対象、北上を再開します」


 モニターに映し出された地図の中で、鬼を示す赤いアイコンが都市の南部からゆっくりと北に動き始めていた。ゆっくり、だが確実に都市が破壊されていく。


「くっ……町の警護に回していたうちの三班を鬼の制圧に回せ! なんとしても中央区への侵入は許すな! それから統合本部に出した援軍要請はどうなった!?」


「依然応答ありま……いえ、本部から入電です! 映像出します」


 モニター上で都市の映像が右半分に縮小され、空いた左半分に一人の男が映し出された。


「伊坂!?」


 映し出された伊坂を見て、男は驚きの声を上げる。


《統合本部での決定を伝える》


「統合本部の決定だと!? 特査の貴様が一体どういうことだ!?」


《簡単だ。この件に関する指揮権は特査が引き継ぐことになった。これからお前たちは私たちの指揮下に入る》


「なっ……」


《命令は二つだ。今展開している全軍の撤収と録画系統の全停止。要するに何もするな》


「ふざけるな! 鬼が顕現している状態で、それを放置しろというのか!?」


《二度も言わせるな。これは命令だ。貴様も仕官学校時代に命令に意見しても良いと教わったわけではないだろう。十五分時間をやる。それまでに全てを完了しろ》


 その言葉を最後に、伊坂の映像は切れる。あまりにも一方的な言葉。


 いや、命令とは元来そういうもの。相手の意図を汲む頼み事とはわけが違うのだ。


「……総員に速やかな撤退を伝え、映像を全て切れ」


 怒りで体を震えさせる男のピリピリとした空気を感じながら、オペレーターたちは慌てて指示に従った。


「特査は何をするつもりなのですか?」


 物怖じしない副官が男に尋ねる。


「アレを出すつもりなのだろう」


「アレ……というと……例のアレですか!?」


 男の言葉に思い当たることがあり、副官が声を上げる。

 

 男はそこで自身を落ち着かせるように大きく息を吐き、答えた。


「元々秘密主義の特査の中でも、最重要機密扱いの最強兵器……ドラグナーの投入だ」

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