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それからの日々

 そして、入学してから一ヶ月が経過した。

 一ヶ月も経過すれば、自分を見る目は完全に変わった。身内が吹聴して回っていたとしても、噂は噂でしかないと、判断された。吹聴していた本人が学園にいないと言うのが大きかった。

 明確に変わったのは、上級生が使い魔として作成し、制御に失敗して暴走させた小型のロックゴーレム五体を、素手で粉砕した頃だ。丁度、昼休みに起きたんだよね。

 木の枝の上で昼寝をしていた時に、余りの煩さに苛々しながら起きた。

 諸悪の根源を叩きに移動したら、実験棟の傍で岩の体を持つゴーレムが暴れていた。自分が到着するまでにそこそこの時間があったにも関わらず、教員の姿は無く、生徒だけで対応していた。

 事情は知らないが、叩き起こされた自分の機嫌は悪かった。

 近くのロックゴーレムを飛び蹴りで破壊し、残りの内の三体は拳で粉砕した。最後の一体を砕こうとしたら、『それは一番出来の良い奴だから待って!』と知らない男子生徒に縋り付かれた。機嫌が悪かった自分は、縋り付く手を振り解いて最後の一体を粉砕した。男子生徒の叫び声を無視して、自分は去った。

 その日の放課後に事情聴取を受けたが、見た儘だけを言った。号泣している男子生徒の説明と大差が無い事からすぐに解放された。

 翌日から『怪力女』、『怒らせたら肉片すら残らない』と女子生徒を中心に怖がられた。

 男子生徒の中には『真偽を確かめたい』と言い、面白半分で喧嘩を売って来る馬鹿が出た。

 大体は馬鹿を一発殴って意識を飛ばし、木の枝に洗濯物を引っ掻けるように、男子生徒を引っ掛けて放置した。二十人を超えて漸く喧嘩を売って来る馬鹿はいなくなった。逆を言うと、二十人以上も殴り倒さないと絡んで来る事だけは判った。

 在校生徒の八割以上が男子生徒で占められているだけあって、校風は少々荒かった。


 

 そうそう。自分が訓練場で総騎士団長をぶっ飛ばした事実だけは広まっていない。けれど、流石にギルドマスターの耳には入った。

 総騎士団長の負傷は『訓練中に負った』事になっている。流石に『学生にやられました』と明かしては、総騎士団長の信用問題に発展する。

 実際に一部の騎士嫌いの文官から、『訓練如きで大怪我を負うような男に、総騎士団長を任せて良いのか?』と意見が出たらしい。信用回復の為に近々魔物討伐に出るらしいが詳しい事は知らない。

 自分はのんびりと授業を受けて、時に冒険者ギルドから依頼を受ける日々を送っていた。

 入学前に発見されたダンジョンは、発見から二十六日目で攻略された。どこかのクラン(五つ以上のパーティで構成された冒険者の集まり。一パーティは五人前後で構成される)が攻略したらしい。ギルドマスターに聞けば判るけど、興味は無い。



 魔法学園の行事について語ろう。

 この学園には行事と呼ばれるものが無い。

 あるとしても、定期試験と林間学校だけだ。

 年間に五回実施される定期試験前になると、生徒と教員は慌ただしくなる。定期試験は筆記と実技の両方を行う。赤点を取ると、補習と追試を受ける。

 林間学校は夏休み期間中に、三週間掛けて行う課外授業だ。

 参加は自由で、成績には一切反映されないが、王立教導騎士団から指導を受ける事が出来る機会でもある為、二年生から四年生の参加希望者が多い。

 一年生でも参加は可能だが、クラスの担任が教導騎士だからか、希望者は少ない。

 自分は騎士に成る気が無いから、参加はしない。



 入学してから二度目の定期試験を大過無く乗り越え、夏休みまでの登校日数が十日にまで減った。

 実に静かな日々だ。入学式の前後の嫌がらせが嘘のようにない。

 夏休み期間中の活動予定について話し合う為に、放課後にギルドマスターの許を尋ねて奇妙な事を知らされた。

「ダンジョンが復活した?」

「ああ。新しいダンジョンかと思って調査隊を派遣したら、百年前に攻略済みのダンジョンだった。調査隊からの報告によると、魔力溜りらしき箇所も見つかった」

「たった百年で魔力溜りは出来ないのに、変ね」

 魔力溜りが自然発生するには長い年月を要する。たかが百年で出来上がる事は無い。

「どこかの犯罪組織が研究用の根城にしている可能性を考慮して国にも報告した」

「回答は?」

 犯罪組織の根城の候補の一つとして、しばしば攻略済みのダンジョンが上がる。蟻の巣のようになっているダンジョンは大変迷いやすいので、トラップハウスに改造しやすいのだ。

「犯罪組織は絡んでいない。ただ、ダンジョンのボスがドラゴンなんだ」

 新たなダンジョンのボスの正体を知り、ダンジョンが復活した経緯を何となく察した。

「あー、つまりどこかで結晶化した魔力溜りを入手したドラゴンが住み着いたのね」

「有識者もそう言った。空を飛んで移動出来るドラゴンが住み着くとは思わなかったぜ」

「それはそうでしょうね。その反応だと、過去に同じ事例は起きなかったんでしょう?」

「今回が初だ。……ナタリア。お前には攻略を依頼したいんだが、半月程待ってくれ」

「半月? 随分と微妙な日数ね」

 この大陸での一年の日数と月の数は地球と同じだ。季節も同じである。半月は十五日の扱いだ。

「済まん。実は、国から『ドラゴン討伐の経験を中堅層の騎士達にも積ませたい』って、要望が来たんだ。ナタリアには、騎士団が討伐に失敗したら動いて欲しい」

「それさぁ、関係無いのにこっちが悪く言われるんじゃない?」

 騎士団にはプライドの高い人間が多く存在する。失敗したらケチを付けられそうだが、プライドが高いのなら『必ず達成しろよ』と言いたい気分だ。

 だが、バツの悪そうな顔をしたギルドマスターが裏情報を口にした。

「わりぃ、陛下の決定なんだ。陛下もドラゴン退治が出来るって乗り気なんだよ」

「騎士団が動くのは無茶振りの結果なのか。……あと十日で夏休みだから別に良いけど」

「ウチで空戦の出来る奴はお前しかいないから助かる。ナタリアに依頼する時には、報酬に色を付けておく」

「色? 口止め料でしょ」

 ギルドマスターの発言を訂正したら、首を横に振られた。

「そいつは違う。陛下は成功しても失敗しても公表するらしい。失敗を公表したくない騎士団は気合入れて訓練をしている」

「訓練をしているのは良い事でしょ。夏休みに入ったら、騎士団の進捗状況の確認で顔を出すで良い?」

「今のところはそれで良いな。ああ、騎士団のドラゴン討伐は公表される予定の情報だ」

「ふうん。だったら、聞かれても尻拭いをする役割って事を言わなければ良いか」

「それで良い」

 ギルドマスターとの確認を終えて、冒険者ギルドから去った。



 そして、十日後。国は復活したダンジョンでドラゴン退治を行うと正式に発表した。

 ギルドマスターに進捗状況の確認をしたら、今のところは問題無いらしい。

 このまま問題無く退治してくれればいいんだけど、事はそう上手く運ばなかった。

 夏休みに入ってから六日目。ダンジョン復活の報告を聞いてから半月の時間が経過した頃。

 研究所で魔法薬の製薬を行っていたらギルドマスターに呼び出された。


「失敗したぁ!?」


 自分の絶叫がギルドマスターの執務室に響いた。ギルドマスターは真顔で肯定した。

「うむ。予想外の事が起きて失敗した」

「一体、何が起きたのよ!? てか、陛下は無事だったの?」

「陛下は無事だ。手柄を欲した奴が馬鹿をやらかしたとかそんな事も無い」

 流石に馬鹿はいなかった模様。まぁ、王の指揮下で行うから馬鹿が出来ないとも言うか。

「ドラゴンなんだが、どう言う訳か周辺にワイバーンが大量にいたんだよ」

「……あぁ、住み着いたドラゴンがワイバーンを生む変異種だったのね」

 事前に知らされていなかった存在を知り、何が起きたのかを正しく把握した。

 ドラゴンがワイバーンを生む変異種かどうかを、調べる方法は無い。事前調査で知る事は不可能だ。ドラゴンによっては、ワイバーンを生まない。そもそも、ドラゴンから誕生するのはドラゴンだけだ。

 余程の変異種でも無い限り、こんな事は起きない。

「そうだ。戦死者は出たが、数は少ない。陛下はワイバーンを二十数体倒して撤退を決断した。百体近くもいるワイバーンに阻まれて、ドラゴンのところにまで辿り着けなかったらしい」

 変異種となったドラゴンが一度に産むワイバーンの数は一日に最大で十体。

 たった今ギルドマスターから聞いた限りだと、百二十体以上もいる。計算すると、ドラゴンはワイバーンを毎日のように生んでいる計算になるのか。

「群れるワイバーンが相手じゃ、流石に難しいか。それで? ドラゴン退治はこっちが担当するの?」

「それなんだが……」

 事前の決定の確認を口にしたら、何故かギルドマスターが心底言い難そうな顔をした。その顔には面倒臭いと書かれていた。嫌な予感を覚えて確認を取る。

「何? まだ国の担当なの?」

「それがな、ダンジョンに近い隣国も『ぜひ参加したい』とか言い出したんだよ。明日、有識者と一緒に王城で陛下と話し合う。一緒に来てくれねぇか?」

「絶対に嫌」

「だよなぁ。結果は明後日に話す」

 ギルドマスターと顔を見合わせて嘆息してから退室した。

 うん。面倒臭い状況になった。

 こうしている間にも、ダンジョンでワイバーンが誕生している。

 ワイバーンが増えると周辺の人里以外にも、少し離れたところにまで被害が出る。故に早急な討伐が必要なんだが、協議で何日掛かるんだろうな。

 それ以前に、ワイバーン二十数体を狩っただけで帰って来るなよ。

 事は夏休み中に終わって欲しい。

 そう祈らずにはいられなかった。

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