蛇足~世界の真実(男子生徒視点)
それは王立魔法学園の夏休み入りした日にまで遡る。
王立魔法学園が保有する図書館の片隅で、その男子生徒(子爵家の次男)は頭を抱えていた。
「ヤバい。どこをどう調べても、ねーちゃんが薄い本を書いて夏コミと冬コミで売っていた十八禁の主人公総受けBLRPG『剣と魔法で薔薇の大輪を散らして』の世界だ。何で、掘られる主人公になっちゃってるの、俺……」
男子生徒は小声で意味不明な事を呟いていた。幸か不幸か、周囲には誰もいなかった。夏休み中なので、人がいないのはある意味当然かもしれない。
「クソ。転生した事に気づいた時、魔法の勉強が面白くて熱中したからって、何で忘れちまったんだ? 入学したけど、成績上位四十人で構成される一組に入っちまった。マジでやらないと授業に追い付けなくなる。でも、ゲームの開始は来年からだ。残り半年以上も時間が残っている。やり込み要素があって面白そうだったから、ねーちゃんから借りて俺もプレイした。コンプリートしたからイベントは全部覚えている。よし、対策は可能だ。スチルを見に行かなければ、乗り切れる」
けど、と男子生徒は一度言葉を切った。
「ナタリア・アッシャーって誰!? そんな名前のモブキャラはいなかったよ。バグ? バグなの? でも、ここはゲームの世界そのものじゃないから、……益々分からない」
男子生徒は頭を掻き毟った。一見すると、発狂している人間にしか見えないが、周辺には誰もおらず、男子生徒の奇行を目撃した人間はいなかった。
一頻り、頭を掻き毟った男子生徒は落ち着きを取り戻すと、毅然とした顔で天井を睨み付けた。
「何が起きているか分からないが、ただ掘られるのを待つのは童貞の沽券に係わる。何としても、BLイベントは全て阻止。そして、童貞を卒業する!」
握り締めた拳を天井に向かって突き上げ、男子生徒は決意を固めた。
だが、夏休み最終日に硬い決意を砕くような出会いが発生した。
遭遇したナタリア・アッシャーの正体が自身と同じ転生者だったのだ。
協力者に出来ないか画策するも、呆気無く玉砕した。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次の登場人物まとめで完結となります。
ナタリアが王族男子との関りが少なかった理由は、加護が適切に動いた事と、ここがBLゲームの世界だったから。突然閃いた謎のオチなので、最後はゲームの主人公にしようと決めました。
今になって振り返ると、加護が適切に動いた事例が少ない。
最後に、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。