表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

入学式に無断で、新入生代表として言いたい事を全部言いました

 イーグリィ王国王立魔法学園の事務室で入寮手続きを行って早々、非常に嫌な目に遭った。

 すれ違う生徒の殆どが、会った事の無い兄姉が吹聴して回った悪評を信じて、自分に石を投げて口々に罵って来た。

 あの馬鹿二人は祖父母から止めろと言われたのに、止めなかったらしい。この分だと、両親も止めていなさそうだ。

 自分は明日の入学式で新入生代表として挨拶をする事になっている。丁度良いから色々と言ってしまおう。

 一思いに、捨ててやる。

 事務室で受け取った、軍服に似た黒い制服を胸に抱えてそう誓った。



 翌日の入学式は全校生徒を収容する大講堂で行われる。一学年千人の四学年の構成で、教員や来賓を含めて四千人を超える人間を収容する大講堂は非常に大きい。広さと天井の高さは地球のスタジアムを連想させる。

「新入生代表、ナタリア・アッシャー伯爵令嬢」

 司会進行に自分の名前が新入生代表として呼ばれた事で、会場内が大きくざわついた。入学式で新入生代表を務めるのは、主席入学生だ。顔も知らない兄と姉が流した悪評を鵜呑みにした生徒の多さを知る。自分が領地に引き籠って、冒険者として活動していたってのもあるだろう。『貴族社会は他人(他家)を陥れるもの。他人の不幸は蜜の味で最高の娯楽』扱いだと再認識する。

 絶対に卒業と同時に家を出てやる。努力して伯爵家にした祖母には悪いが、馬鹿しかいない家を没落させ(潰し)たいわ。この国では、爵位を上げても三代に亘って功績を打ち立てる事が出来なかったら、元の爵位に戻ってしまう。だからってのもあるんだろうけど、祖父母は父と母(没落した元男爵令嬢でしかも庶子)の結婚を反対したらしい。祖父母の直感は正解で、母と兄姉が原因で家計が傾き始めている。子爵家に戻るのは、時間の問題だろう。その前に没落する可能性の方が高いが。

 司会進行役の教員が拡声器を使って『静粛にお願いします』と何度も言っても、困惑の声は静まらない。壇上に上がると困惑に満ちた視線を一身に受ける。全てを無視して、事前に教員と打ち合わせした通りの挨拶文章をマイクに向かって述べて行く。

 そして、最後に予定に無い事を言った。

「私達がこれから過ごす在学期間の四年は今日から始まったばかりです。どのように過ごすかで、長いか短いかの違いを感じるでしょう。四年も時間があれば、私達は様々な事に挑戦出来ます。例えば生まれてから一度も会った事の無い、顔も名前も知らない兄と姉に入学先で悪評を流されても、悪評を払拭する為に行動する事が出来ます。学園敷地内に入って早々、悪評を鵜呑みにした女子生徒達に罵り言葉と一緒に石を投げられ、男子生徒達からは揶揄われて嫌がらせを受け心無い言葉を浴びせられても、これらの事を私に対して行った生徒達を反省させ、行った事を後悔させる事も出来ます。祖母に似ている事が気にいらないと生まれた直後に暴力を振るって別居を強いた両親と卒業後に縁を切る為の準備も可能な限り出来ます。身分を捨てて、独りでやって行く為に様々な事を学ぶ時間もあります。私達が過ごすこれからの四年間と言うのは思っている以上に非常に長いのです。目標を立てて、目標に向かって行動し、目標を達成する事で、これからの四年間を有意義に過ごせば、良き人生に出来る程に実りあるものとなるでしょう。以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせて頂きます」

 頭を下げて壇上から去る。言いたい事を全て言い切ったので満足した。友を作る予定は無い。卒業後を考えて独りでやって行くつもりだ。

 大講堂内は静まり返っていた。今なら針を床に落とした音も聞こえそうだ。司会進行役の教員も大口を開けて呆然としている。

 入学式が始まる前から虐めを受けました――とか言ったら、普通は驚くか。自分は無視して空きの椅子に座った。


 この学園は平民の生徒も入学試験の成績次第で入学可能で、表向きは『平等に教育を受ける事が出来る』と謳っている。

 高位貴族から一般常識相当の『当たり前の注意』を受けた際に、身分を盾に『虐めだ』と騒ぐ事も規則で禁止されている。普通の虐めも禁止されている。

 そんな規則が有る原因は、今から百年前、この学園では乙女ゲームあるある『冤罪で婚約破棄劇』が行われた事が発端だ。王族男子と下位貴族令嬢か平民の女子生徒による婚約破棄劇では無い事がせめてもの救いだ。昼行灯な公爵令息(婿入り予定の公爵家三男)と平民の女子生徒(裕福な商家の末娘)が、公爵令嬢相手に引き起こした。

 この国の貴族は、『身分が高い人間は下のものを正しく導く』事が美徳とされている。不作法を見かけたら『見たものを不快にさせるから止めなさい』と声を掛けて、『正しいマナーを教える』のが、高位貴族の常識とされている。高位貴族はマナーに煩いのでは無い。指摘するのが常識と幼い頃から教えられている。それを『虐め』と叫ぶ奴は、貴族社会から爪弾かれる。都合が悪い事を理由に『虐めだ!』と叫んではいけないと言う事だ。

 時と場所と場合を弁えろ。周囲の人間に不快な思いをさせるな。この国の法律と常識を守れ。これらは指摘されても文句言えんな。逆切れしたら馬鹿扱い確定だ。

 件の馬鹿二人は慰謝料の支払い(借金返済)の為に、共に強制労働所へ送られた。強制労働所から出ても、身分が剥奪されている二人は平民として生きるしかなかったそうだ。被害に遭った公爵令嬢は隣国の第三皇子を婿に迎えた。友好の為の政略婚だったらしいが、夫婦の仲は良かったらしい。

 強制労働所からどうにか出た馬鹿二人は『愛があればどうにかなると言ったんだ。二人でどうにかしろ』と誰からも助けられず、そのまま行方知れずとなった。


「くっ、くく……」

 静まり返り、誰もが息を潜めて動きを止めている。こんな状況で声をかみ殺して笑っているのは、来賓として入学式に参加している国王だ。右手で顔を隠しているが、肩が震えているので笑っているのが丸判りだった。

 笑いを堪えている国王を見た司会進行役の教員が慌てて入学式を再開させた。その後、入学式は恙無く進み、国王からの挨拶の時間になった。

 国王の挨拶となり、誰もが居住まいを正した。

 壇上に上がった国王は入学式として当たり障りのない挨拶と祝辞を述べて行く。

「ここからは個人的に言葉を送ろう。良いか。他人の言葉を簡単に鵜呑みにしてはいけない。人間の評価は、その人間を評価する人間ごとに変わる。評価対象の悪評を広めたい人間は、噓を吐いてでも評価対象の悪い事しか言わない。逆に好評を広めたい人間は、嘘を吐いてでも評価対象の良い事しか言わない。貴族の令息令嬢ならば、騙されない為にも真偽を見極める目を持たねば窮地に立たされる時もある。行動に移す前に確りと調べて裏取りを行うんだ。貴族にとって情報と言うのは、己を守る剣であり、盾でもある。情報の扱い方次第では諸刃の剣にもなり、己を傷付ける。商家出身の生徒ならば、情報の価値について幼い頃から聞かされているかもしれないが、時に情報は多くのものに影響を与える。情報を知っていたか否かが、商家としての命運を分ける可能性も有る。平民出身の生徒達も、『知らなかった』で済まされなかった事があるかも知れない。知っていた事で助かった事もあるだろう。情報が原因で命を落としたものもいる。情報は国家の運営に関わる時すらある。情報と言うものは粗末に扱ってはならぬ。情報の裏取りを行い、真偽を見極める目を養いなさい」

 国王は最後に長々と語っていたが、言葉を一度切り、大講堂内を見回した。居心地悪そうに身動ぎした生徒が見えたけど、結構な数がいた。

「それはそれとして、情報を鵜呑みにしてナタリア・アッシャー嬢に対して虐めや暴力と受け取れる事をやった諸君には、このあと教員から一言あるかも知れない。だが、甘んじて受け入れなさい。吹聴した生徒と尾鰭を付けて楽しんだ生徒には、厳重な注意や処罰が行くかもしれないが、自業自得である。例え家族であっても、身内を悪く言って陥れて己の株を上げる行動は良くない。そもそも嘘と言うのは、時と場合にもよるが、己を蝕む遅滞性の毒のようなものだ。そして他人を陥れる行動を取ったら、何時か己も他者から陥れられると心得よ。貴族が体面を気にするのは、家を守る為であり、家を興した先祖の誇りを守る為だ。他者を侮辱したものは、他者から侮辱されると思え。何事も『やったら、やり返される』のだ。これは国家間でも言える。嘘を吐いても許されるのは幼い頃のみだ。十代半ばの諸君は己の意思で、この学園に単身で来る事を選択したのだ。自分がやった事は自分で償いなさい。一番悪いのは誰だとかは関係無い。行動を起こした時点で同罪だ。貴族ならば、全く関係無い家族を巻き込む可能性もあるだろうな」

 国王が再び言葉を切って大講堂内を見回すと、顔を青褪めさせたものや、顔色の悪いものが続出している。心当たりのある奴しかいないのか。

「最後になるが、謝罪にも幾つかの種類が存在する。罪悪感や後悔を減らす為の謝罪に意味は無い。謝罪の言葉を口にすれば、必ず許されると言う事は無い。行った内容によっては、誠心誠意謝罪しても許されない時もある。謝罪して許される時と言うのは、相手の溜飲が下がった時だけだ。そして、謝罪をする時に行う慰謝料の支払いは『この件に関して互いに終わらせて縁を切る』も同然なのだ。国家に属し社会で生きて行くには、人は縁なしでは生きて行けん。だが、金の切れ目が縁の切れ目と言う言葉があるように、縁と言うものは結び難く切れ易く、維持するのは難しい。これは国同士の関係でも言える事だ。扱いが難しいから、誰もが苦労してでも大事にするのだ。入学式の挨拶にしては、少々説教臭くなったが、君達にはまだ時間が有る。時間を有効に活用して、次に繋げなさい。余からは以上だ」

 国王の言葉が終わり、大講堂内にいる面々は拍手を送った。

 含蓄が有ると言うか、経験から来る言葉は重いな。

 国王からの祝辞で入学式は終わりなのか、ここで解散となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スマホだと文字が詰まりすぎて読みにくい。 面白そうな話なのに勿体ない
漢字ギッチギチに詰め込んで文字がミチミチしててとにかく読み辛いです。目が滑って話が全く頭に入ってこなかった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ