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ひな祭りを忘れないで

作者: 牧田紗矢乃

「ひな祭りを忘れないで」


 誰かの声が頭の中に響く。


「ひな祭りを忘れないで」


 悲痛な叫びのような声を聞きながら、ゆっくりと私は覚醒した。




「ままー、おひなさんっ」


 娘がニコニコと笑いながら白と茶色のテディベアを座布団に座らせている。

 それを見て、ゆうべの夢を思い出した。


 今年はなんだかんだ忙しくてお雛様を出す前に三月三日になってしまった。

 おかげでこの家の中でひな祭りらしいものといえば娘が作ったテディベアのお内裏様とお雛様、あとはおやつに用意したひなあられくらいだ。


 実家にある立派なお雛様をもらう約束も、住んでるアパートが狭いからという理由で四年間保留になっている。

 来年にはもっと広いところに引っ越してお雛様を飾ってあげないと、とは思うのだが物価高のせいで思うように貯金が進んでいない。


 ピンポーンとインターフォンが鳴り、続いてメールが届く。

 なにかの荷物が置き配された知らせのようだ。


 玄関へ出てみて驚いた。

 大人が一人入りそうなほど大きいダンボール箱が玄関先に置かれている。


「サンタさん?」


 大きな荷物に目を輝かせた娘がぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 違うよーと言いながらダンボールを部屋の中へと運び込んだ。


 ダンボールには差出人や中身がわかりそうな伝票が貼られていない。

 それだけじゃない。

 どの面にも運送会社のロゴの入っていない、まっさらなダンボール箱だ。


 開けてみれば手紙か何かが一緒に入っているかも。

 そう思って箱の天面に貼られていたガムテープを剥がした。


「わぁ!」

「ひっ!?」


 娘は歓声を、私は悲鳴を上げた。

 何を隠そう、ダンボールから出てきたのは雛人形だったのだ。


 箱から取り出されたお雛様は、心なしか不機嫌そうな顔つきをしていた。

 実家にあったものと似ているが、両親から連絡はなかったはずだ。


 そうだ、置き配を報せるメール。

 あれの送り主を見れば何かわかるかもしれない。


 私はスマホに手を伸ばし、メールを確認した。

 件名はなく、本文がただ一行。


【ひな祭りを忘れないで】


 差出人の名前は「不明」と書かれていた。


 これはきっと物置に押し込まれていたお雛様がお怒りで、我が家に押しかけてきたのだ。

 そう思った私は観念して、すぐにお雛様を飾った。

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