後片付け(10)God Save The Queen
ターマの国家元首が交代した。
他国のトップと王女様に無礼を働いたのを、ナニワ銀行の行員達が、訴えたらしい。
ターマの商人は動きが早いね。ナニワ銀行では、頭取のまま飼殺すそうだ。
「リーザちゃん悪くないんじゃもん」
神の呪いの反動が存外にきついな。なんだこの喋り方は我ながらどうかと。
「え、ええ…。もちろんです、あのクズが全て悪いんです…。いえ、私ですね。私をブタと呼んで踏んでください…。ぶひぃ」
新しい国家元首も、振り切れたキャラしてるわ。
コルサちゃんに似た髪型だけど、つやつやのブロンド。見た目だけなら、こっちの方が王女様感あるのじゃが、中身がひどいな。
見た目6歳児が、1日だけとはいえ元首を務めたことで、国民の価値観が破壊されたのか、新頭取は8歳だ。この子も名家の令嬢なのだが、叩き上げの新興商会らしく、威厳とかそういうものは微塵も無い。完全にマイナス領域。
「ヤード・バーズです…。バーズ商会の娘というだけの、無能です…」
どうすんだこれ、と楽しくなってきたところで、コルサちゃんがトドメを刺した。
コルサちゃんは、ヤード嬢にそっと近づくと、そっと抱きしめた。
ズンダでは、王女様のハグは、国家遺産に指定されている。ヤード嬢は失禁してしまった。
仕方ないね、幼女だしね。
今日も国際問題発生だ。
この事件により、ヤード元首の支持率は9割を越えた。
購買部の打合せは、じっくり日数をかけるそうだし、その間にズンダに行ってみようか。
ターマは、ちょっと生き急ぎ過ぎだと思うよ。
一度、キナコ村に帰ってから、ヤキトリとスズメとノビーを確保。
キナコ村まで、アンが運転してくれた。
ヤキトリの運転でズンダに向かう。
スズメとノビーは団子屋に地下ライブ強化要員として置いてきた。ヤキトリもズンダ旅行が終わったら投入する予定。
ターマとズンダの国境には壁がある。
前回のズンダ訪問時は、ドラゴン山からズンダに降りたので知らなかったな。
ターマ側の壁はきれいなものだったが、ズン側は落書きだらけだった。国民性の違いが激しいな。よく同盟結べたもんだと思う。
同盟によって壁は取り壊しが決まっている。既に半分程度は、付近住民によって破壊されている。
破壊された破片は、当然というかターマ側では、おみやげとして売っていた。
今、ここは観光地となっている。
たこ焼きの屋台もあったので、ドラちゃんに献上した。
リーザちゃん達も、みんなで一緒に食べた。
みんなに丸投げする体制が整いつつあるので、こうやって諸国漫遊するのもいいかもねえ。
「しょこくまんゆうなのです」
コルサちゃんも、王女時代に、内偵を建前にして、何度か外国旅行をしたそうだ。
この主従、こういうところは似ておる。
「ごろーこーです」
どうやら、何かの物語に影響されたようだ。
たまに暴力で解決しようとするのは、その物語が原因かも知れない。
リーザちゃんは見せれば何でも許される印籠じゃないんだよ。女神なんだよ。…似たようなもんじゃな?
ズンダの王宮に行くと、クリームちゃん達が居た。
「あんた、ターマで派手にやってくれたようね」
「リーザちゃんは悪くないんじゃもん!」
「…は?…」
久々に説教をくらった。
コルサちゃんは1人でどこかへ行った。あるじを置き去りにするなんて珍しい。
久しぶりの実家だ、好きにさせよう。逃げたとは思わないことにするのじゃ。
そういえば、何しにズンダに来たんだっけ?
「リーザちゃんは、観光がしたいのじゃ」
「分かったわよ…。もちもちドームにでも行きましょうか」
「クリームちゃんが、説教を諦めた…、僕も真似しようかな」
それは、やめた方がいいと思う。
もちもちドームに来たよ。
ドーム型の闘技場だね。ズンダ王国は戦闘に特化した国家だったので、この手の施設が多い。どれも歴史があり、作りも豪華だ。観光資源としての活用が始まっている。
ドームのネーミングライツもその一環だね。ワワンサキのお団子屋チェーンが出資してくれたそうだ。
「もちもちグループは出資した効果があるんだろうか?」
「どらごん組と縁が出来ればいいんじゃないかしら?」
もちもちおもっちのお団子屋は、ワワンサキ国内にしかない、ターマにも無いし、ズンダでは世界一認定ブックの本屋くらいに思われている。
ズンダからワワンサキへ移動するには、ドラゴン山を越えるしかないので、ズンダの観光客がワワンサキに行く事は、まずない。
諸国漫遊の旅をした、王女様と近衛騎士が異常なのだ。
「3国間の移動手段を、整備するのは、ありじゃろうか?」
「大いに有効だろうね。しかし、実現性がなあ」
「鉄道では山越えは厳しいわよね?」
「トンネルを掘るのじゃ」
「うーん、何年かかるか?無事に済むとも思えないしなあ」
どうにも手段が無さそうである。ドラゴンブレスとかで一発ぼがーっと行かないのかね?
「神話では、山ひとつ消したメイドが居るけどさあ」
「あれ、ミーの事ではないかしら?」
「あぁ、あり得るけど、ドラゴン山を消されたら困る」
「どうせ神話は、ほぼファンタジーじゃろ?」
さすがに、人生を11セット武術のトレーニングに費やしたとて、人間に山を吹き飛ばすのは無理じゃろう。
「女神ビームとか撃てないのあんた?」
「そんなの撃てたら、僕たちの身が危ない…」
「おやぶんならば、きっと…!」
クリームちゃんは、最近になってついに不思議動物の存在を信じた。
セリカ先輩との会話は、ずっと幼女のかけあい漫才だと思っていたのじゃが。
ドラゴンにも会ったし、魔王や天使とか、どらごん組は不思議動物の幼体フルコンプしたからね。さすがに、信じるしかなかろう。
ちなみに、他の幼体も同じだけど、特殊能力は存在しない。
ドラゴンブレスもない。羽はあっても飛べない。
せいぜいが、女神の異常な幸運くらいでは?
ハナちゃんの頭脳以外は、みんな人間の6歳児よりもポンコツ。
あーでも、ドラ・ノビ・シズトリオの変態は、十分特殊能力じゃな?
「私は、憧れの神話の世界に生きているのよねぇ…どうしてこうなったのかしら」




