わしの名は?
わしは、異世界の女神に転生した。
今日から日記をつけることにする。この日記は後の世で神話となることじゃろう。
幼女の姿でこの世界に産まれたわしは、森の中に全裸で転がっているところを、メイドの格好をした女に拾われた。森の中で、死体から財宝と金貨、剣を剥ぎ取り、当面の活動資金と武器を入手。森を出たところで、ツインテールの主従が乗る馬車のヒッチハイクに成功し、移動手段も入手した。
あと足りないのは、この世界の知識。それと、わしの名前じゃろうか?
しょぼい馬車じゃ。
木製のベンチシートのみ。幌も無ければ、風除けの板一枚すら無い。
荷物は、旅行鞄一つのみ。
カステーラさんちは、お金ないのかな?
「こんな山の中で見栄を張っても仕方ないじゃないの」
「ワワンサキまで行くんじゃろ?」
縦ロール達の目的地は、この国の首都ワワンサキだと聞いた。そこまで、馬車でひと月かかると。
これで、ひと月はきつくない?
「この山を越えたら、馬車は処分よ。そこからは、乗り合い馬車を乗り継いで行くのよ」
「えー、ずっとマイカーで行けばよくない?」
「まいかー?自前の馬車で長旅なんて、貴族しか出来ないわよ」
マイカーゲットは虫が良すぎたか。
ぱんつを貰っただけでも、ラッキーじゃもんな。
「埋葬終わったみたいね」
馬車内で、幼女同士会話している内に、護衛の人達の埋葬が終わった。
木の枝で組んだ、即席十字架に、祈りを捧げる。
今日だけで、五人の死者を弔ったな。
この世界は、物騒なのかも知れないなあ。
幼女が生きていけるのかのう。
メイドさんに捨てられたら終わりなのでは?
縦ロールメイドによる、熊の解体ショーも終わり、馬車が走り出す。
熊肉は、高級食材なので、売るのだとか。
食べたい。
日が暮れる前には、馬車は山を越えて、宿場町に着くらしい。
しばし、ご歓談を。
「ねえ、あなたのメイドさんも名前は明かせないの?」
クリームに聞かれて気付いたが、メイドさんにも名前が無いね。
「私は、お嬢様の従者として存在するのみ。名など不要です。」
その忠誠心は一体どこから湧いてくるの?ちょっとこわい。
「そうは言っても、名前はあることが重要よ。名乗れないのであれば、新しい名前を持てばよくない?」
名前なあ。
縦ロール達の名前が、この世界の標準なのだとしたら。
勝手が分からんぞ。
クリームとアン、だもんなあ。スイーツ縦ロール。うまそう。
下手につけると「それは犬につける名前よ。」とかになりかねない。
いじめられちゃうでしょ、そんなん。
「ミケ、ミー、タマ、クロ、ジジ…」
前世の感覚だと、猫の名前なんだけど。
意外とこれが正解な気がするので、候補を挙げてみる。
「それは全部、神話に出てくる天使の名前ね。」
まじか。この世界の天使どうなってんの?
「でも、いいんじゃない?貴族は、天使の名前にあやかる人多いから」
そうなんだ。
「じゃあ、ミー、かな」
貴族どころか、ほんとにメイドかどうかも分からんのじゃけど。
縦ロール共には、王女と騎士で認識されとるからのう。
「ありがとうございます。今日から、私のことはミーとお呼びください」
うーん、呼びづらい。
メイドさんをペットの名で呼ぶとか。どんなプレイよ。
間違えたかなあ。
「従者が天使なら、主は女神の名でしょ」
正体が見抜かれているのかと思ってどきっとする。
「女神の名は、畏れ多いじゃろ?」
「まあそうね。でも、王族は女神の名にあやかっているわよ」
お前も王女なんだから、そうすべきじゃないの?ということか。
「リーザ、とかいいんじゃないの?お笑いの女神様よ。」
お笑いなんだ。
全裸で登場したのは、ネタじゃないんよ?
「リーザ、か」
わしの名はリーザになった。
ネームドになった気配はない。女神はモンスターではないらしい。