お姉様は墜落しました
地中海が似合いそうなマンション。
バブル期のかっこつけたマンションみたいでもあるけど。
そこが、わしらの新居じゃ。
4階建て、最上階の角部屋。
1階は共用施設。
玄関には、護衛も立っている。
掃除、洗濯のサービスあり。
家具付き。
書棚には、本まで備えてある。
パンツさえあれば住める。
家賃は、月60万円。
庶民の平均月収は10万だから、結構高額。
6人で住むので、1人あたり10万円。
それでも高い。
完全に、富裕層向け。
家具や本は、これまでの入居者が残していったもの。
退去時に、置いて行くのが、この国の習わし。
特に、本は共有財産という扱い。
聖書だけが例外。
各家の秘伝のたれのようなものらしい。
代々、写本して受け継いでいく。
写本する過程で、追記や改定が入って醸成されていく。
写本が済んだら、古い方は退去時に置いて行く。
最新版だけは、門外不出。
この国の特徴がもうひとつ。
キッチンが無い。
食事は全て、外食。
この国では、家事の分担で揉めることが無い。
その分、働けということか。むう。
働きたくない。
学校も行かなくてもよくない?
あほの子のままでも、メイドさん任せで暮らせるんだから、いいんじゃない?
などと、ニート宣言したら、クリームに小一時間説教された。
要約すると、学ぶか、働くかしろ、ということなんだけど。
あなたには持てる者としての義務があるのよ、と。
何を持っているのかというと、銅のクレジットカードだ。
このカードは、単なるお金持ち証明書ではない。
このカードを持つ者は、この国を運営する側の立場なのだそうだ。
なにそれ?聞いてないんですけど?
ブロンズカードは半人前で、ゴールドカード以上が一人前なのだとか。
ブロンズであってもセイントである事にかわりはない。
公共インフラの整備、社会福祉の提供といった責務がある。
一方で、庶民は賃金は少ないが、税金も年金も徴収なし、水道と電気は無料、医療も無料。
掃除と洗濯のメイド派遣サービスも無料。
しかも、労働は定時退社、週休3日、有給休暇を使って長期休暇をとるのも自由。
庶民が優遇されている分は、お金持ちが負担するわけだ。
わしも庶民が良かった。
そう言ったら、説教が延長された。
「王女の名を騙っておいて、今さら庶民になれるわけないでしょ」
別に騙ったわけじゃないし。おまえが勝手に勘違いしたんじゃん。
「そもそも家賃60万円が、ニートに払い続けられるわけないでしょ」
説教から解放された後、1階の団子屋に幼女3人で集合。
これからの5か月間の計画を立てるためだ。
ドラゴン退治がたった1日で終わってしまったので、何も予定がない。
「何かやりたいことはあるかしら?」
もちろん議長はクリームだ。
幼生ドラゴンも一緒なのだが、会議には不参加。
店内をうろうろしては、他の客から、おやつを貰ったりしている。
自由だな。
ご近所さんと交流を深めるのは良いことなので、好きにさせておこう。
まずは、実現可否は問わず、自由に意見出しを行っていく。
・グルメツアー
・温泉巡り
・寺社仏閣巡り
・図書館で読書
・魔法の研究
・必殺技の特訓
・自動車の開発と試作車の製作
「全部やればいいんじゃないか?」
日々の時間割を決めて、全部やることにする。
「遊ぶ」「学ぶ」「鍛える」「自由研究」のセットをこなす夏休みのように過ごせばよいのではないだろうか。
午前中:図書館で読書(月・木)、市内観光と社会見学(火・金)
15時まで:魔法の研究(月・木)、必殺技の特訓(火・金)
夕方まで:自動車の開発と試作車の製作
お休み:水・土・日
お休みの日は、グルメツアーか温泉巡りをする。
時間割は、その日の気分や体調で適宜変更していく。
会議を終えると、玄関前に見覚えのある物体が。
悪魔の痛車だ。




