第拾漆話 空中散歩(誰得)
二人とも体力の消費はそれなりにしているから、本当にお陀仏になりたくなければ、目の前の少年を殺すしか道はない。
誰がなんと言っても、こいつの精神性が変わるわけではない。人の性根とは生まれついたものであるというのが、自身の信じている通説だ。性善説なんてものは存在しないと言ってもいい。
「お前、僕を馬鹿にして楽しいのかぁ?!そのおっぱいで奉仕してもらおうとしたんだけど、生憎……お前は地平線の先まで見えるなぁ!そのペチャパイじゃ男を満足させることなんてできないだろうに……!なんともなんとも、実におかしい気分だよ!お前のことを殺してから使ってやるとか言ったけど、穴だけで良さそうだな!そのちっちゃい体のキツキツのものにも入れたいと思ってたんだ!はははははっはははははははははははは!!」
「……………………言いたいことは本当にそれだけか」
正気の沙汰じゃない人間との会話はこちらが引き込まれてしまう恐れがある。
人格の破綻した者に近くで長く一緒にいると……朱に交われば赤くなるということが起きうるかもしれないのだ。
しかしながら、こいつの邪悪さは反吐が出るほどの邪悪…………死姦をお望みとは、本当に趣味の悪い人間だ。他人の命を玩具箱に入っている玩具と一緒にしていやがる。
「あぁ?それだけじゃないぞ……そっちの大きい方は見事な山だからなぁ。抵抗するだけの力を削いでおきながら、自身のその凶暴な二つの山を使って俺の棒倒しゲームをやってもらうっていうのはどうだろう!最高の考え方だなぁ。今から棒が戦闘体制に入っちゃいそうだ…………!」
「発情期のお猿さんは自分でなぐ様ていれば良いのでは?サイズも小さいでしょうし、女を満足させることなどできませんよ。そこにあるのは虚しいものですから。私たちは、あなたに抱かれるぐらいだったら舌を噛み切って自害します。自身の体を消滅させて」
こちらを見ていないながらも、話を聞いていた黄泉はいいことを言ってくれた。
死んでも自身の体をいじられそうになるとか、とんだ罰ゲームじゃん。なんで死に方もケアしなきゃいけないんだと、軽く絶望しそうになるが、こいつの発情期の猿っぷりも絶望する。
どうすればこんなに道程を拗らせることがなかったのかと考えるが、それならもう「風俗へ行け」と言ってしまうけれど。
男友達にも、こんなに制欲の強い奴がいたか?と考えたりするが、俺の学生時代に友達はいなかったので、思い巡らせる様な友人の存在はない。
悲しくもないし、泣いてもいないが……人一人を包めるくらいの大きなタオルを持ってきてください。
しかし、微かな記憶ながら、周りの中学男子は女生徒のおっぱいとスカートの中身を覗くのに必死だったと耳にしたことがある。
自身の席を女子に占領され(寝ているふりをしている間に囲まれてしまったため)、そこから動くことを許されずに不可抗力で聞いた話だが、俺は多分存在を認識されてなかったから、こういうことを言ったんだと思う。
全部許せなくなってきたから壊そうかな、この施設全部。
「………………性欲だけ持て余して、恥ずかしい人間だ。節度を持たないと、それはいずれ毒になる。その毒はやがて身を蝕み侵される…………つまり今のお前だよ」
ここまで言われると、流石のこいつも余裕がなくなってきたのか、言い返してこなくなる。俺とコイツは舌戦だけ繰り広げてきたが、そろそろ普通に戦いに移行するしかないだろう。
元々、コイツの臭い口を黙らせるのが目的で、俺はダラダラ喋っていました(迷探偵)。と後から言っておけば、最初から考えたふうな口を聞けるの好き。
俺がそんなことを考えて油断していると。こちらに向かってパンチを喰らわせにきたが、遅いなんてものじゃない。本当にナマケモノが歩いている様な速度でこちらに向かってくるパンチを、どうやって喰らうことができるのだろう。
そんなパンチでは、人を殺すことは愚か、赤子にだって傷をつけることができない。さっきまでのコイツへのダメージはなかったに等しかったが、今度はなぜかパンチの速度が遅い。これは好奇と見て、突き出してきたパンチして伸び切っている腕の骨を、チョップして叩き折る。
すると大きな悲鳴をあげて、情けなく赤子のようにわんわんと泣き出してしまう。
コイツのメンタルに問題があったのではないだろうか。
先程に比べると、威圧感というかなんというか、そんなものが感じ取れずにいるから、多分メンタルに作用する系の異能だったんだろう。
まぁ、そんなのに興味はない。
散々人の事を虚仮にしてくれたんだ。自分が何もされないとはまさか…………思っちゃいないよなぁ。
俺はニヤニヤとしてコイツの前まで行くと、ご自慢の棒(笑)から、液体が出てくるではありませんか〜!……そう、失禁である。極度の緊張状態の中にいて、俺の発する威圧感に押された勢いだろうと思うが、我慢できなくなってしまったのだろう。
引導を渡すことにする。
これで、永遠にさよならだよ……バイバイ。
なんて、心の挨拶をしていたら、下の地面が急に開いてきて、階層を真っ逆様に落とされていく。
あれぇ?追い詰めたと思ったのに、めっちゃピンチになってるじゃん俺たち。はためく浴衣から、自身の大切なものが見え隠れしながら落下していくことに、いささかの羞恥心を覚えつつ、ボッシュートになりました。
まじでこのままどうなっちゃうのって思いながら、転落人生を歩んでいると、落ちたところは湖で、脳髄をぶちまけて死ぬなんていう最悪のバットエンドは回避できたからまだいいとしよう。
しかしながらですな、流石にこの仕打ちはあんまりじゃない?まともな戦闘にすらさせてくれなくて、尚且つあいつを殺すチャンスをみすみす逃すことになるなんて、誰が予想できようものか。
数分前、空にダイブする予定のなかった自分の頭をナイフで貫いてあげたいぐらいには、自分は憤慨していることに驚きを隠せなかったんだよね(目パチパチ)。
ああ、黄泉とは分断され、自分一人での旅に嫌な思いはないが、折角合流できたのにとも思ってしまう……もしかして、対人コミュニケーションを取っていて人間強度が下がったとでも言うのか!?
まぁ、下がるでしょうねぇ……?
(自分なりには)楽しく(あんまり口に出す言葉はなかったけど)喋っていた(と勘違いしている)のだから。
それは栓なき事と割り切るしかないのかもしれないが、俺的には重要な心のオアシスである事は否定できないものね。
ちょっと迷路になっているこの階層を抜けて、殺さなきゃいけない奴を殺して、精算することにしましょう。
…………しかしながら、この道はどっちに進めばいいんだ……?