第拾伍話 二人の死神
ストロベリーよりも甘い自分の意志に、なんとか心を持たせようとするが、それも無理な話だろう。これは自分勝手な意志であり、一人の怪物を人として死なせたくはないと感じてしまった俺の意思でもある。
簡単に「お前のことは死なせたくない」と言って仕舞えば簡単な話なのだが、ことはそんなに軽い話ではなくなってきている気がするのだ。
そんなことを感じっとたからかなんなのか、自分達は次なる階層に足を進めていく。
これからは二人で…………合同で敵を叩きのめしていくんだが、そうなってくると連携が大事になってくるよな。
ほら、次の階層の扉が見えてきたから、作戦を考えんと。
まっすぐ行ってボカーンが一番楽な戦術でポピュラーな戦術なんだけど、なんか質問のあるやついりゅ?………………いないね!やぁー、良かった。この戦術が断られていたら、まっすぐ行ってボカーン!するところだったよ!
そうならなくて安心安心!…………まぁ、二人しかいないからこの戦術は役に立つんですけどね?初見さん。
「ここは……敵が多く出現する場所のようです。怪物型の人間達が多く収容されている区間だったと記憶しています」
怪物型の人間か……どうせ研究の過程かなんかで生まれた産物だろう?改造人間となんら変わりない奴らが大勢出てくるってことは、次の施設は重要な拠点ぽいな。守りが異様に硬いことに違和感を覚えないと、不思議なぐらいにおバカだしな。
だからすぐに下に行きます!とは、あちらさんもしてくれないだろうね。……だって、怪物型の人間が数千は目の前にいるのだから。
こちらを止めようという強い意思は感じ取れましたけど、手厚い歓迎過ぎませんかねぇ?もうちょっとパワーバランスとかどうにかならなかったの?
「黄泉……………………こいつら、早く殺してあげないと」
「そうですね……早くこの苦しみから解放してあげましょう。それが本人達にとって幸いか不幸か分かりませんが、今取れる最善はこれしかありません」
俺たちは息を合わせるかのように、背と背を預けて構えを取る。
俺はナイフを用いて、自身の成長を【強化】し……彼女は元の戦闘スタイルはわからないが、右手に【聖なる力】を宿し、左手に【不浄なる力】を宿して、徒手空拳とは少し違うが、オーラを纏わせているのでほとんど徒手空拳と変わらない構えを取る。
……こいつらには悪いが、ここで散ってもらうしかない!
二人で別方向に飛び出すと、俺はナイフで頸部を着実に切り付けていく。
それは首狩と呼ばれて恐れられた死神のように、全部の首を刈って刈って、刈り尽くす勢いであった。
首の太い敵に対しては、頸動脈付近を何度も切りつけて、出血多量で倒れるように仕向けた。これではどちらが悪かわからんな。……今は悪か正義かなどと論じている暇は無いのは分かるが、こう感じずにはいられない。
黄泉の方は、【聖なる力】で打撃を加え、弱っているところに【不浄なる力】で手刀を入れて切り倒している。
お互いにやっておることが悪役のそれすぎて、涙がちょちょぎれる思いだ。
周りの怪物達がやられて恐怖している個体が多くいるのか、こちらに向かってこなくなってしまった。やはり、こいつらには知恵を残しているのだな……悪趣味な奴らだ。
少しばかり睨み合いが続くと、読みは待ちきれなくなったのか声をかける。
「かかってこないのですか?あなた達が殺せと命令されたターゲットが二人ともいるのですよ?固まっている分お得では無いですか。それともなんですか……?今更怖くなったとでも?あなた達も、私達も同じ穴の狢です。何も違いなどありませんよ」
そう告げる黄泉は、天使にも悪魔にも見える。
その言葉は決して救済などではないが、否定をする材料は私たちにもないよ……ということを言っているのだ。
俺たちは自分たちが生きるために殺しているのではなく、向かって来ているから殺すのだ。道を邪魔しているものに、ある種の救済(邪智暴虐であることには間違いない)をしていると述べてもいい。
まぁ、俺はそんな体それたことを思ってはいないが、黄泉にとっては後輩に当たる連中だろう。
そんな囚われているやつを解放するという点においては、救済となんら変わりないとも言えるな。あくまで黄泉の視点ではあるけど。
「…………救われたい奴から来るといい」
そう声をかけると、先ほどよりも勢いが強くなり始め、こちらに突っ込んでくる怪物型の人間。自身で望んで怪物型になっていない者の方が多いのだろう。真っ先に飛び込んだ怪物型の人間の目には涙が浮かんでいた。
しかし、そのラッシュも途中で終わってしまう。
皆何かに操られたかのように足を止め、とても正気ではない目を向けている。
目が上に上がっていたり、明らかに眼球が飛び出てしまった者がいたりする中で、正気を保つ者もいる。それは、さっきの攻撃に参加していなかった奴らだ。
つまり、こいつらは自分の意思でここに来ていて、尚且つ俺らを純粋に殺そうとしている奴らということだろう。
後ろで操っている奴の顔を拝んでおきたいところなんだが、こういう奴らを使ってくるということは、本人はとても臆病な性格の可能性があるわけだ。無駄な抵抗すぎるから早く出てこいまじで。
……じゃないと、こいつら全員殺ってからそっちに向かうわ。
黄泉と俺の意見は合致し、敵を狩る速度は先ほどの倍以上のスピードで行われていく。それはもう、死神の降臨と言っても過言ではない様相の、笑みを浮かべた死神二人。
瞬く間に、正気のやつも正気じゃない奴もバタバタと倒れていくことに、周りの怪物型の人間達は困惑しているし、同時に恐怖心を掻き立てる。
自分たちは一体何をされたのか、自分たちは一体何と戦っているのかを再確認させられたことにより、SAN値チェックのお時間だぞ☆………………あ、ちなみにダイスは80D100ね。
操っているやつのSAN値もバカにならなくなって来たところで、今回はここまで!次の実況をお楽しみください!サブスクもよろしくね(ゆっくりボイス)。
…………っていう劇場をやってましたよ、と。
さて、そこの木の幹の穴の中に隠れている奴、早めに出て来た方がいいんじゃない?木と心中するのは嫌だろ…………?
少し待つと、こそこそオドオドと出てくる自身よりも年端のいかない少年。
なるほど、これが研究所のやり口だったな……………………腐敗し切ったゴミは早くゴミ箱に片付けなくてはいけないな。