第拾参話 囚われた心
私はとある貴族の生まれでした。
そこで私は慎ましくも生活をしていました。
優しい母、普通にこちらを気遣ってくれる父……そして大好きなお兄様と共に、四人で仲良く暮らしていました。
川へ遊びに行ったり、遊園地に連れて行ってもらったり、なんら普通の家族と変わらない生活をしていました。あの頃は何も考えることなく日々を満喫していました、あの時、あんなことが起きるとも知らずに能能と。
私は屋敷の二階から落ちると言う事故をしてしまい、そこから異能が発言しました。母と父は大いに喜んでくれましたが、お兄様だけは、少し嫌な顔をしたのをはっきりと覚えています。
「黄泉、お前はその力を他人に言うな。これはお兄様との約束だぞ?」
「はい!おにいたま!わたしだれにもいわないよ!」
「うん、良い子だ!なでなでをしてやろう!」
その時は何が何だかわからず、お兄様の言いつけを守り誰にも教えることがありませんでしたが、父と母のあの舞い上がり方は、どこかの誰かに教えてしまったのでしょう。
情報というのはどこから漏れるかわかりませんから。実の両親からだって平気で漏れてしまうものです。
それから少し時間はおかれましたが、楽しく暮らしている無垢な少女は公園へ出かけました。その日はとても暗い暗い雲に囲まれており、悪天候になってしまうか心配だったのですが、すぐに帰れば大丈夫という、子どもの発想でながくまで遊んでしまていました。
その日、私は攫われってしまったのです。…………公園へ迎えに来てくれたお兄様と一緒に、このジェネリックに攫われました。
そこからの私たちの人生は狂ってしまったのです。
「おら!お前働けコラ!何ぐずぐずしてんだよ!こっちの要求はお前には難しくないはずだボケ!」
「ごめんなしゃい…………!ごめんなしゃい……!」
私はただただ謝ることしかできず、機械のようなものに対して燃料を運ぶ日々でしたが、そこで私の【聖なる力】がしっかりと発言して、監視役の人間を殺してしまったのです。
本当にたまたまでした。
お兄様が殺されそうになって、無我夢中で止めたかっただけなのですが、勢い余った子どもの異能使いというのは、恐ろしいものです。
出力がなんなのかわからないまま、その人を手にかけると……私はとても良い気分になってしまったのです。
弾圧されていたということもありましたが、開放感に似た何かを感じてしまったのです。研究員のところに連れて行かれ、異能把握テストなるものを受けましたが、どれもつまらないものだらけでした。
私の欲求はそんなものでは抑えられない。もっとすごいものを用意しろと、私の中の異能は囁いていたのです。私もそれに応じるかのように「おにいさまがあんぜんならそれでいい。ほかのにんげんはひとしくごみだ」と考えていたのですから、目も当てられません。
私は生まれてはいけない存在だったのかもしれないと。今になって思います。
私は兄を助けたかっただけでした。
幼いながらに、自分の保身よりもお兄様に対してだけは情を向けていました。
「私には何をしても良い。だから、お兄様に手を出したら殺す。一片の躊躇もなく、肉すら残らないと思え」
大好きなお兄様には死んでほしくないと心の底から願ったのです。とても冷酷な物言いでしたが、それに尽きるといったところでしょうか。
昔の私は、今の私よりも気性が荒く、誰に対してもこんな感じでした。お兄様だけには違いました。
私はお兄様だけいれば良いと本気で思っていました。
この世の全てはお兄様に通じると、本気で思っていました。
そんな日々を送っていた中、私はある実験に付き合わされました。異能を二つ所持できるのではないか?という実験です。
私は体に注射を刺されたり、異能を使う訓練をしたりして、自分の異能について理解を深める必要があったのですが、それもこれも研究員は毎日必死になって行っていました。
私はどこ吹く風と、飄々としていましたが、お兄様だけには愛情を注いでいました。
母親や父親のことは忘れていました。
あんなもの家族と思ってしまったことが恥ずかしいと思っていたぐらいですから、私の憎しみはあの人たちに注がれていたのでしょう。
そこで、異変が起きました。
私は体が熱くなるのを感じ、苦しみに悶えていました。
「っはぁ!うぅっく!あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「あらあらあらあらあらぁぁぁぁぁぁ!これは実験成功だわぁぁぁ!こんな可愛らしいボディに、相反する能力を注入したらどうなるかと思ったのだけど、これは間違いなく実験成功ねぇぇぇぇぇぇぇ!さらにこの能力を深くするためにはぁぁぁ、あのにんげんたちがひつようよねぇぇぇぇっっっっ!!あははははははははぁぁぁぁぁぁああ!楽しみだわぁぁぁぁあああ!この子がどんな反応をするか……気になるぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!」
私はこの女が何を言っているのかわかりませんでしたが、とてつもなく辛いというのは感じていました。体が追いついていなかったのですから、それは当然だったのでしょう。
出会いというのは、すぐに別れが訪れるものというのはこの時に習いました。
母親と父親が、私の……私だけのお兄様を、私の目の前で殺しました。
自分たちの命とお兄様の命を天秤にかけたのです。
その時の私は全てを憎み、全てに深い絶望をしました。お兄様を殺して瞬間、私は新たに目覚めた【不浄なる力】を用いて、そこに居た肉の塊を欠片も残すことなく殺しました。
念入りに、蘇る余地もないぐらいに殺しました。
それでも自分の心は晴れやかになることはありません。お兄様を殺された私は、この研究所を恨みました。
全部壊してやる……そう思った矢先でした。私の意識は奪われて、鎖で繋がれてしまったのです。必死に抵抗しましたが、それも無理……私は本当の意味で囚われることになりました。