第拾話 これもう、分かんねぇな?
灼熱の業火の次は、寒い寒い極寒の地だったって話する?
ふざけ飛ばしているんだが、何これ?と状況を整理するのにしばし時間がかかる。本当にこちらの心を弄びことが大好きな奴らのようだ。
こちらへの当てつけかのように、こちらの心を見透かすように、こんな仕掛けを思いつくなんて、まじで性格の悪いドブカスが潜んでいるので嫌になる。
しかしながら、嘆いていても状況が良くなるとかそんなんはないので、前に向かって直走っていくしかないんだけどもね。
楽観はしてられないかな。さっき体力を結構持っていかれちゃったから、ここでは本当に温存しておきたい。
寒い地も暑い地も、じっとしているだけで体力が奪われていくので、ここに留まる理由もなし。
そこからは長かった。
極寒の地に温泉があると思ったら、普通に毒の匂いが香る湖があったり、つららがこちらをホーミングしてくる最悪な兵器が存在していたりだとか、マンモスが小売漬けにされているエリアがあったりだとか……。
はい、ほんまにふざけてますね!馬鹿にするのも良いところよね!と、ブーイングをかますこともしばしば。
この階層の何がいけないかって、無駄に広大すぐるマップなんだよな。歩けど歩けど無限に続くかと思われるぐらいに広すぎて、先が見えないのなんの。
五時間彷徨い続けた結果、何事もなく次の階層に続く階段を発見したときは、この階層さら全て吹き飛ばしてしまおうかな?どうしようかな?一思いに劇的ビフォーアフターしちゃっても良いかな?なんて思ったぐらいだ。
広いマップに敵さんを配置しておくのはマナーだろ!良い加減にしろ!とツッコミを入れたくなったが、心の中に留めておくぐらいはできる。
何せ、自分の前の職業はブラック企業のサラリーマン。一週間に四回は同僚がいなくなっていた環境で、ツッコミを入れずに過ごしていた男(今は女)!忍耐力には自信がありますよ!
忍耐力自信ニキでも、流石にこの仕打ちは堪えたけどね。
次の階層に進んでいくと、温泉地帯が広がっている階層だった。
今度はまともそうだなぁと安堵しそうになるが、それは奴らの策略。絶対、碌でもないものに決まっている。逆に碌でもないものが来なかったらキレ散らかすまである。
この負のジレンマを払拭するべく、探検隊は奥地へと足を踏み入れた。
やんなっちゃうわよねぇ、こんな目の前に温泉を出現させておいて、入らないでくださいみたいな状況。
しばらく温泉というか風呂に入っていないことに気がつくと、途端に入りたくなるというのが日本人の特徴。天皇猊下陛下のおわすこの国では、いつでも謁見できるように体を清めておくことが良いとされているのを知らんのか!ここの研究員は非国民だな!?
まぁ、こんな施設作ってる時点で死刑なので、非国民であることには間違いはない。
「………………入るか、温泉」
体が間違いなく臭い状況で、浴をするのはいけないことだろうか?いや、いけないことじゃない(反語)。
俺はこの風呂に入らせてもらおう!どんな罠が待ち構えているかもわからないが、流石にチミドロフィーバーのこの体は流石に嫌なので、服を脱ぎ散らかして温泉に入る。
久しぶりの温泉に心を休ませながらも、今後の対策について考える。
下の階層がどれほど続いているのかは知らんが、一緒にきた二人の存在も気になる。委員長と、学長先生だ。
あの二人はうまくやっているのだろうかと、少し頭を悩ませてしまう。
あの二人はおそらく強いだろうが、この研究所の中にいる奴らもそれなりに強いだろう。
異能の研究が行われているこの研究所内では、自分の異能がどれほど通じるかなどわからないし、状況的には敵にこちらの情報が一方的にいく。
彼方の方が断然有利なのだ。
待ち伏せだってできるし、改装を無理に変えることもできるであろうと判断できる。でなければ、灼熱から極寒など構想の状態考えつく変態はそういない。
…………こちらを馬鹿にするためだけに作られたものだったら、納得のしようもあるが……いや、納得はできないな?
温泉に体を沈めたことによって、今までの記憶が蘇ってくる。
先程まで戦って来た敵や、ここに来るまでの道中……様々なことが起きてきた。
異能使いとの戦いや、単純な変態との戦い……それが自分を強くしてきた。無口から解放されたし、思考もだいぶふざけたものがなくなってきた。戦時中は平時よりも、成長というのは劇的にするものだと、改めて実感される。
戦闘に身を置く中で、大事なのは囚われないことだ。単に捕まるということではなく、自信が奪って来た命のことについて考えてはいけないということだ。
考えたことによって判断が鈍り、自身の体を重くさせる。思考力を誤らせる。予期せぬ事態が起きた時、回避が難しくなる。
自分は自分の奪った命のことについて……考えなくてはいけない場面も出てくるだろうが、それは今じゃない。今できることは、早くこの研究所という名の苦しみの檻から、囚われた全ての人たちに安寧…………死を与えることだ。
そのためだったら俺は、悪魔にでも死神にでもなってやろう。
せめて、苦しまないように一撃で死なせてやろう。それが、俺の持つ慈愛というものなのだから。
…………長湯がすぎたな。やはり考えることは毒だなぁ。なんの考えもなしに突っ込ませて行った大本営はまじでくそ……はっきしわかんだね。
「………………服がない」
いやいやいや、ここにおいてあった服がないんですけどぉ?!
どんなギャグなんだよこれ……!地味にむかつく嫌がらせパートじゃねぇか、このドブカスどもめ!
…………やっぱり、総てを灰燼に帰し、一片の慈悲もなく苦しみを与えてから、この施設をゆっくりとゆっくりと壊していこうかなぁ?
さっきの決断とは打って変わって、そんなことを思ったが、温泉についている浴衣を自分の衣服として着用。パンツがないからスースーするが、それもまた一興……な、わけがないので、次の回想は気晴らしに全て壊すことを心に誓った。